スペシャル


- C Channel株式会社 代表取締役社長
- 森川 亮 氏

理解して
はじめて、組織の
パフォーマンスは高まる
- 写真左:
株式会社SHIFT 代表取締役社長 丹下 大 - 写真右:
C Channel株式会社 代表取締役社長 森川 亮 氏

PROFILE
森川 亮(もりかわ あきら)
1967年神奈川県生まれ。1989年筑波大学卒業、日本テレビ放送網入社。1999年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程を修了しMBA取得。その後ソニーに入社。2003年、ハンゲームジャパンに入社。取締役を経て、2006年10月、取締役副社長に就任。2007年10月、NHN Japan(ハンゲームジャパンより商号変更)社長に就任。同年11月、ネイバージャパン設立に伴い、ネイバージャパン社長を兼務。2013年4月、NHN Japanの商号変更により、LINE社長に就任。2015年3月、同社社長を退任。同年4月、C Channel社長に就任(現任)。2018年4月、mysta株式会社を設立し代表取締役に就任(現任)。
LINEを世に出したトップ経営者が
考える「働くこと」の目的とは
丹下実は、僕森川さんにはじめてお会いする前から森川さんの手掛けるビジネスって、ずっと時代の先端をいってるなぁと感じてたんです。携帯電話の画面にあわせて縦型のUIを推進したのも森川さんのところが最初期だし、現在は主流になっている動画メディアも早かった。何が当たるかわからない世界だけに、先端を捉えるのは大変だと思うんですが、アイデアってどこから得ているんですか?
森川結局は勘勝負みたいなところがありますよね。僕の場合、すでにこの世界で長くやっているので、なんだかんだトレンドが見えやすい部分もあって。それだけに、うっかり(アイデアが)早すぎることも多いんですが(笑)。エッジが効いたことをしたいって気持ちと、ビジネスとしてちゃんと儲かるものに取り組みたいっていう気持ちのバランスをとるのって、なかなか難しいですよ。
丹下ホントにそうですね。わかります。ちなみに、最近のサービスでベンチマークをとっているものはありますか?
森川TikTokなんかは、研究してますよ。最近は、中国発のサービスをチェックしていることのほうが多いかな。サービスだと、今はアメリカよりもやっぱり中国が気になる。アメリカって、ちょっと当たる感じのサービスが出てくると、それをFacebookみたいな大手が買っちゃう、みたいになってるじゃないですか。だから、新しいサービスがちょっとつまらなくなってますよね。
丹下確かにそうです。野球に例えれば、大振りはしないでヒットを打ちにいくような。それくらいの当たりが、いちばん売りやすいから。イチローが言うところの、流しながら打ってるって感じで(笑)。
森川日本のスタートアップでも、そういうのが増えてきていますけどね。そっちのほうが、すぐお金になるし楽だから。最近の若い子たちは賢いですよ(笑)。

丹下若いと言えば、森川さんが社会人をスタートしたのはテレビ局だったじゃないですか。そこからIT業界へ移ったというのは、やはり旧態依然とした会社や業種に対して、思うところがあったというわけなんですか?
森川そんなに立派な意思があったわけでもないんですがね。とはいえ「働くってなんだろう?」という疑問を抱いて、その答えを見つけられたきっかけは、テレビ局時代の経験が大きいですね。具体的に言うと、大学を出て社会人になるまでは、働くイコールお金をもらうための手段である、と思っていたわけです。
丹下当たり前といえば当たり前の感覚ですよね。
森川でも、テレビ局に勤めてみると、そんなに働いてないのにお金をもらっている人がいたんですよ。朝から昼くらいまで座って新聞を読んで、その後ランチに出てしまってみたいな感じの先輩がいらっしゃって(笑)。それで年収は、僕以上あるらしいと。
丹下すごい世界だなぁ、羨ましい(笑)。
森川それで「働くってなんだろう?」って、真剣に考えるようになりまして。今にして思えば、それがとても有意義な経験だったんですよね。
丹下当時、その答えを見つけることができたんですか?
森川はい。人それぞれ「働く」ことに対する目的が違って、テレビ局の当時の先輩方は、働くこと自体の意義よりも人生を楽しむことを重視しているんだろうなぁ、ってところまでたどり着きましたね。
丹下深い! というか優しい(笑)。そういう風に理解してあげるんだ。
森川でも、僕自身はそう思えなくて。あれこれ考えた結果、自分にとっての「働く」ことの究極的な目的とは、お金を稼ぐことではなく自分を成長させることなんだと気づいたんです。それ以降は、自分の成長につながることに時間を使ってます。自分の成長と仕事が重なりあって、その仕事が社会の役に立つようになれば、自然とお金もついてくる、という考え方が「働き方」の基本になるのが理想です。
丹下自分の成長に時間を使うという考え方は、すごく共感できます。僕にも似たような体験があって。僕は両親とも公務員だったんですが、特に母親から「公務員だけには絶対なるな」って言われて育ったんですよ。
森川世間のイメージとは真逆ですね。
丹下母に言わせれば、公務員ってなるべく楽に、仕事をしないで生きていこうっていう世界で、そのための蹴落としあいみたいなのも、あったみたいなんですよ。だから「こんな腐った世界に、あなたはきてはいけない」って言われてました。実際、母も55歳のときに公務員を辞めちゃったんですよ。あと5年くらい我慢すれば年金もしっかり支給されるっていうのに(笑)。僕は大学に入ったばかりのときだったので、学費とかどうするの?って詰め寄ったんですけど「このまま5年我慢して年金もらうより、今しかできないことをしたいんだ。60歳になってからじゃできないことがたくさんある」って言ったんです。その言葉に衝撃を受けました。そこから、もちろんお金も大切ですけど、時間の大切さや使い方についてすごく考えるようになったんですよね。
森川お金があるから素晴らしい、ってことではないですからね。もちろん、丹下さんのようにお金を持つことで社会の役に立つ活動ができる人もいますが、反対にお金を余計に持ったせいで道を踏み外してしまう人もたくさんいる。そういう人を本当にたくさん見てきました(笑)。そこで思うのは、お金って人間として成長してから持つべきなんだなって。車の運転に例えれば、運転が下手な人がスポーツカーに乗っても、危ないだけじゃないですか。
丹下面白い!その発想はなかったなぁ。
周期の早いIT業界だからこそ、
打席に立てる回数が多い
丹下テレビ局時代の経験が、森川さんのお金や働きかたに対する意識を大きく変えたわけですが、その一方で、IT業界にやってきて得た気づきというか、苦労されたことってありますか?
森川いわゆる苦労はなかったですね。IT業界ってとにかくわかりやすいじゃないですか。過程よりも結果が重視される世界というか。
丹下結果もすぐに出てしまう世界ですしね。

森川だから、とにかく常に走り続けてキャッチアップするのが大変っていうのはありますけど。たとえば、最初にゲーム事業に関わっていた当時は、まだPCが全盛でゲームもPCがメインでした。ただ、その後すぐにガラケーが出てきてマーケットを奪われた。SNS系でもPCの時代はmixi(ミクシィ)だったのが、今ではLINEがメインになっていたりして。だいたい3年周期くらいで、流れがガラッと変わってしまうんですよね。そこで、成果を出しながら生き残っていくためには、とにかく走り続けていないといけない。
丹下他業種に比べると、やっぱり周期は劇的に早いですよね。特に森川さんが手がけている領域は早いから、そこに疲れてしまわないのかなって。
森川むしろ、そこが楽しいところでもあるかな。周期が早いってことは、自分に回ってくる打席も多いってことなんですよ。テレビ局に勤めていたころ、「僕の仕事はいつ報われるんですかね」って先輩に相談したことがあったんですけど、そのとき先輩から「50歳まで辛抱しろ」って言われたんです。つまり、それまでは打席に立てないっていうことなんですよね。
丹下ひたすら素振りをしていろ、と。まるで荒川道場みたい(笑)。
森川いくらスキルが磨かれたって、さすがに何十年も辛抱するなんて無理じゃないですか(笑)。これはもう、一日も早く転職しなければと思いましたよ。それに比べれば、IT業界は打席に立てるだけでもありがたい。
丹下森川さんのすごいところって、そこなのかもしれないですね。いつだったか、NHN
JAPANがアプリを200本リリースするって発表をされたじゃないですか。そのときに、この人は思いっきりバットを振るなぁって(笑)。それくらい打ちまくれば、いつかは大当たりが出るだろうと思っていたら、案の定LINEという場外ホームランを放ってしまった。そこで取捨選択をしっかりとして、ビジネスをLINEに集約させた判断も、経営者としてすごい。
LINEの爆発的普及は、今でも鮮明に覚えています。1ヶ月で300万ユーザーくらい増えたときもありましたよね?
森川記憶では、1日で新規登録が50万ユーザーくらいのときもありましたね。DAUで50万だって、すごいことなのに。サービス開始から半年後にはテレビCMを打って、2年で1億ユーザーを達成してしまった。
丹下あのときに思ったのが、LINEのサーバー・エンジニアって優秀だなぁってことです。普通、1日に50万ユーザーなんて来たらサーバーが落ちてしまうわけじゃないですか。そこを賄えたのは、よほど優秀なエンジニアと、インフラに相当なお金を使える体力があったからですよね。
森川特に人材に恵まれたことが大きかったと思います。IT業界に限らないことですけど、結局人が揃わなければ会社は成長できないですからね。互いに支えあうという意味でも。
丹下人材が揃っているから資金調達できる、って面もありますからね。
森川LINEの成功に関していえば、(NHN JAPANに)ライブドアのメンバーがいたってことも大きかったんですよ。彼らは過去に大変な経験をしているから、良い意味で慎重な判断ができたという(笑)。
価値観を理解し合える、働きやすい
コミュニティ構築が会社発展のカギ
丹下C Channelの立ち上げ時には、どういう感じでメンバーを集めたんですか?
森川小規模なところからスタートさせたっていうこともありますが、これまでの経験を活かしたチャレンジということでもありましたからね。最初はある意味で手堅く、ミッションとかバリューのすり合わせをしなくても済む、ある程度気心の知れたメンバーを巻き込むっていう感じでしたよ。あとは、技術と知識と経験。ちゃんとモノがつくれる人だったり、事業化させるスキルを持っている人だったりを中心に採用していました。でも、そんな感じでしたから集まったのは同世代に近い男性ばかりで。「C CHANNEL」は女性向けのサービスなので、割と早い段階で壁にぶつかってしまったんですよ。
丹下具体的には、どのあたりで?
森川やっぱり感性の面ですね。当初は、経験豊富なメンバーだから、女性との感性の差なんかもある程度スキルでカバーできるのかなと思ってたんです。語学みたいに、勉強をしていけば若い女性ともコミュニケーションがとれると思っていたんですよ。でも、サービスをスタートさせて、若い女性たちの意見を聞いてみると、どうしても理解できない部分がある。要するに、おじさんたちだけでできる範囲の限界を知ったわけなんです。
丹下「C CHANNEL」のようなサービスならではの問題ともいえますね。
森川経験豊富なプロを集めることで、ある程度のクオリティは担保できるんですけど、プロであるほどその先の成長が難しいっていうのかな。やっぱり、どこかで予定調和をぶち壊すような発想を取り入れないと、次の成長は望めないんですよね。そこで若い女性を積極的にリーダーに登用して、彼女たちの感性を中心に動かしていくという形も取り入れたんですが、感性って言語化が難しいから、組織の中の仕組みにするのが難しかったりして。
丹下ジャンルは違えど、そこは経営者として、難しさはよくわかります。SHIFTはソフトウェアの品質保証・テスト会社ですけど、一口に品質保証・テストといっても例えばゲーム系と金融系では、プロトコルからそれこそ働く人たちの感性にいたるまで、まったく違うんですよね。
森川働く人たちの感性も多様化されていると。

丹下しかもエンジニアって、要するにミュージシャンとか画家みたいなアーティストなんですよ。良いエンジニアになるほどオタク気質というか、アーティスティックなこだわりが強いから、それぞれ自分の方法論や価値観がしっかりとある。ハッキリ言って、経営者とは別の人種です。だからこそ、彼らの価値観や共通言語を理解してコミュニケーションをしないと、組織としてのパフォーマンスは高められないわけです。逆に言えば、彼らが働きやすいコミュニティを構築することが、会社の発展には欠かせないのかなと思いますね。
森川同じゴールに向かうチームとして、互いに共通言語でコミュニケーションすることって、何よりも大切ですよね。僕なんかでも、最新コスメの話題とか常にチェックしていますよ。定期購読している女性ファッション誌も何冊かありますし。わかっているつもりっていうだけでは、ついていけない部分がどうしてもありますから。業界内でのお付き合いひとつにしてもそうですよね。
丹下それは大変だなぁ。ファッション誌までチェックされているんですか。
森川女性誌って特に文字が小さいじゃないですか。もう、老眼鏡がないと読めないんですよね(笑)。
すごいサービスを生むためには、
「人間」を考えることが必要
森川でも、丹下さんって、いわゆる経営者とは違うタイプの人間だから、エンジニアとも容易に理解しあえるんじゃないですか?正直なところ、僕が丹下さんに対して抱いているイメージって、SHIFTの社長というよりも、以前に手がけていた「ChatPerf」の人っていうほうが強いんですよ。携帯電話から香りを出すっていうすごいサービス。「ChatPerf」のプロモーションに来られたとき、この人、こんなことしてて大丈夫なのかな?って心配になりましたもんね(笑)。

丹下あれは、日本より海外で話題になりました。「ChatPerf」を日本の女子高生に試してもらった感想を動画にしてYoutubeにアップしたらバズったんです。そこから、「ChatPerf」の技術をベースに、ベーコンのにおいがでる目覚まし時計ってのを作って欲しいってオファーがあって。アメリカのソーセージとかベーコンで超有名な大手企業のノベルティグッズにしたんです。その告知サイトが5億PV、プロモーション動画がたちまち3,200万再生とかって、すごいですよね(笑)。そして、最終的にはカンヌのIT部門で銀賞を獲得してしまったという。
森川ビジネスありきでは、あんなモノはどうやっても生まれてこないですもんね(笑)。
丹下実はSHIFTを興したときも、『サピエンス全史』みたいな本を読み漁ったんですよ、わけもわからず(笑)。人間について理解をしないと会社を興すことはできないと思ったんです。
森川そういうところが、実にチャーミングですよね。だからこそ、「ChatPerf」みたいなぶっ飛んだ発想と、SHIFTみたいな会社の経営が両立できるのかなって。実業というものをしっかり考えながら、新しいチャレンジも精力的にできてしまう。SHIFTという母体があるからこそ、バットの無茶振りもできるんでしょうね。実際、そういうバックグラウンドがなければ、丹下さんの真似をしても上手くはいかないでしょうし。というか、そもそも今どきのスタートアップだと、丹下さんみたいな無茶振り系は減ってますけど(笑)。
丹下そうですね、ビジネスとしては手堅いのかもしれないけど、つまらないといえばつまらない。森川さんは最近、無茶振りをしていなんですか?
森川丹下さんみたいなことは、さすがにできないですよ(笑)。最近のチャレンジ領域でいえば、「C CHANNEL」で得た「感性」という課題ですよね。具体的には、感性のようなものをどうやって言語化し、仕組みに落としていくのかという。今、「mysta」という新しい事業で、クリエイターの育成やオーディションなんかも始めているんですよ。ひと口にクリエイターといっても、ボーカルからお笑い芸人、ダンサー、モデルやアイドルまで、多様な分野にわたっていて。そこからスターになっていくノウハウも、なかなか言語化できていないじゃないですか。
丹下もっとも言語化しにくい領域かもしれないですね。
森川そういう曖昧なものを、どうにか言語化して仕組みまで落としてみたいなっていうのが、僕らにとって新しいチャレンジなんです。
