品質・言語化・責任から考えるエンジニアの役割―――『SHIFT流 AI時代のソフトウエアテスト』発売記念対談

2026/04/20

2026年3月2日、『SHIFT流 AI時代のソフトウエアテスト』が発売されました。

出版を記念した特別対談として、後編となる本記事でも技術論にとどまらない「AI時代のエンジニアのあり方」を深掘りします。

話を聞くのは、同書の第1章・第2章の執筆を担当し、SHIFTの教育機関「ヒンシツ大学」で講師を務める能力開発部の永井 敏隆と林 栄一です。

現場のリアルな課題について語る永井と、少し先の未来を見据える林。対照的な2名の対話から、AI時代にも決して代替されない「エンジニアの真の価値」と、これからの時代に求められるスキルが浮かび上がってきました。

※書籍発売の背景や企画意図の詳細については、広報 寺山へのインタビュー記事をご一読ください。

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  • 能力開発部 永井 敏隆

    ヒンシツ大学 クオリティエバンジェリスト。大手IT会社にて17年間、ソフトウェア製品開発とシステム開発の標準化に従事し、IPA(情報処理推進機構)ITスペシャリスト委員として活動。また、100件を超えるお客様支援を通して、品質向上活動のさまざまな側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年にわたり開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに入社。AIシステムを対象とするソフトウェアテスト手法に関する講座で培ったノウハウをもとに、本書籍の第2章「AIシステムを対象としたテスト」を執筆。

  • 能力開発部 林 栄一

    ヒンシツ大学 クオリティエバンジェリスト。組織活性化や人材開発において豊富な経験をもつ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。2023年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに入社。新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当し、多数のAI人材育成に携わった経験をもとに、本書籍の第1章「AI時代のテストエンジニアリングの新たな地平」を執筆。

目次

AI×人材育成のニーズが高まりをみせている

――まずは、お二人が講師を務める、ヒンシツ大学について簡単に教えてください。

永井:ヒンシツ大学は、その名の通り「品質」を教える場所ですが、最近は品質という枠を超えて開発、セキュリティ、プロジェクト管理などの幅広い講義を展開しています。

もともとSHIFTはソフトウェアテストからはじまった会社ですから、テスト関連の講座に関しては、日本でほかに類を見ないほどきめ細かなラインナップを揃えています。

近年はAIを取り扱う講座も増えているのですが、林さんは主にAI活用を、私はテスト自動化実践やプログラミングなどの実際に手を動かす講座を担当しています。

社内外の方が受講生になり、お客様にあわせて講座内容をカスタマイズすることもあります。

――最近の人気コンテンツやご相談内容に傾向はありますか?

林:近年は、AI駆動開発に関するご相談をいただくことが多いですね。AIを開発にどう組み込むか、といった内容です。

これからAI駆動開発に携われる人員を増やしたいというお客様もいれば、自社のAI駆動開発に携わるレベルにまで新人のスキルを引き上げたいお客様もいらっしゃいます。

アメリカで起こっている逆転現象。責任をとるという人間の役割

――現場でもAI活用に向けた人材育成のニーズが着実に高まっているのですね。今回の書籍のテーマにもAIが据えられています。

AIがコードを書き、テストまで行うようになった際、最終的な品質の担保はどうなるのでしょうか?現場の視点から、いかがですか。

永井:結論からいうと、いまの段階では「AIに任せて放置」では品質を担保できません。AIのアウトプットを人間がレビューする必要があります。

AIは文法的なエラーは起こしませんが、業務の背景や複雑な仕様の意図を汲み取れないため、一見正しいように見えて実は致命的な不具合を含んでしまうことがあります。

今後は、レビューのノウハウを身につけている方の需要がさらに高まるでしょう。

林:実際すでにアメリカでは「逆転現象」が起きています。AIで開発ができるからとエンジニアをレイオフしたけれども、結局AIによって低品質なコードが大量生産されてしまった。

設計の要(かなめ)を担うエンジニアを手放してしまったために収拾がつかなくなってしまい、また求人が増えているそうです。

――より俯瞰した視点での「責任論」についてどうお考えですか?

林:AIの性能がどれだけよくなっても、人間は「責任をとること」からは免れることはできません。

近年では、開発現場だけでなく、経営に関しても例えば「AI役員」を起用する会社が増えてきていますよね。

将来的には性能と安全性のバランスをとったうえで、AIが自律的に決定・実行できる世界が訪れると思いますし、実行結果に保険をかけるようなビジネスも増えていくでしょう。

でもAIは「戸籍」をもっておらず、責任能力がありません。AI役員もアドバイザーであり議決權はもたせられません。

何か問題が起きたときにAIに向かって「電源を止めるぞ」といったところで、何の効力もありません。

50年先、100年先はわかりませんが、少なくとも当面は、原理的に人間が責任をとらざるを得ない。その本質は変わらないと考えています。

人間の機微すら言語化する。暗黙知をAIに学ばせるために

――AIに的確な指示を出すためには、「暗黙知」を言語化して渡すことが非常に大事です。開発現場における課題はありますか。

永井:開発の現場には暗黙知が多すぎるんですよね。それをどれだけ正確な言葉で表現できるかは重要なポイントです。

例えば人間は、どうしても文章より図表に頼ってしまいがちです。ところが、AIは図表を理解するのが得意ではありません。

最近は少し理解できるようになってきましたが、それでも「図表で表しがちなものを、どうやって言葉で説明するか」という言語化のスキルは、日々の業務や開発をまわすうえで欠かせないものになっています。

――この言語化についてどのようなアプローチが有効だとお考えですか?

林:書籍のなかで、ナレッジマネジメントのフレームワークである「SECIモデル」にふれています。

現場のノウハウは、最初は個人の「暗黙知」として存在しますが、それを対話などを通じて「形式知(言葉やマニュアル)」へと表出化させていく。

そして、その形式知を別の誰かが使い込むことで、また新しい「暗黙知」が生まれる……というスパイラルをまわして、組織の知恵を昇華させていく考え方です。

そもそもAIは言葉を投げかけることでしか動きません。逆にいえば、言葉にさえできれば、AIはすごく精緻に動くということでもあります。

そこで有用なのが「パターンランゲージ(経験してきた状況や問題、解決策を言語化したもの)」や「SECIモデル」の活用です。ここでは定性的な、感情や人間の機微を含む知識の言語化が非常に重要です。

例えば研修では、参加者が「忙しいのに仕方なくきている」と受け身になっている状況がありますよね。

そこで冒頭に「時間を割いて参加してくれたことへの承認と感謝」を伝える。この一言があるかないかで参加者のモチベーションは大きく変わります。

こうした人間の感情や機微をくみとった言語化が非常に重要ですし、それらが将来的にAIの振る舞いを律し、より高度な成果を生むための源泉になっていくと考えています。

AIシステムと、AIを活用する開発。それぞれにおける不確実性との向き合い方

――もう一点、AIは「100%の正解」を出せるとは限らないという不確実性に、現場はどう向き合うすべきでしょうか?

永井:AIシステムは入力に対して出力が一意に定まらない性質(確率的な挙動)をもつため、従来のシステムのように仕様を100%定義し尽くすことがむずかしいという特徴があります。

したがって 「仕様とあっているか」ではなく「AIシステムが業務上役に立っているか」という有用性の観点で評価せざるを得ません。

これは天気予報のようなもので、「100%当たるとはいえないが、日常生活を送るうえでは役に立っている」状態です。

世の中には「完全な正解は出せなくても、一定の根拠にもとづいた推論がほしい」というニーズがつねにあります。

AIが統計的な裏付けをもって何らかの解を提示できれば、それが例え100%正解でなくとも、人間の意思決定を支える価値ある情報になるわけです。

社会インフラや人間の生命に関わる領域に関しては、正答率の目標を高く設定するしかないでしょうね。

これはITシステムと同様で、社会的に重要なシステムならバグ発生率を極力0%に近づける工夫をしますし、予算を割けないシステムならある程度のバグを許容することになります。

――非常に実用的な考え方ですね。では視点を変えて、「AIを開発に使う」場合の不確実性へのアプローチはいかがでしょうか?

林:AIを開発に使う場合は、不確実性をなくすというより、前提の揺れや解釈の違いを早めに把握して、扱いやすい形にしていくことを重視しています。


AIには得意不得意があるので、その特性を踏まえて、人のレビューや確認観点とうまく組み合わせることが大切だと考えています。

エンジニアの報酬は好奇心。SHIFTで働く知的環境の魅力

――最後に、これからの時代にエンジニアが成長していくための環境やキャリアについてお伺いします。SHIFTという環境についてはどう見ていらっしゃいますか?

永井:SHIFTでは採用選考において「CAT検定」という素養を測るテストを受験いただき、合格率6%を突破した方が入社します。だから先ほどの「暗黙知の言語化」などが得意な人は多いですね。

一般的にいわれることでもありますが、自分ができること、人から求められること、自分のやりたいこと、それぞれの丸が重なる部分を仕事にするとよいと。

エンジニアの素養をもつ方で、「SHIFTでこんなことを実現したい」と語れる方が入社してくれたら、思う存分にスキルを発揮できるのではないでしょうか。

林:SHIFTの文化的な側面でいうと、やりたいことや考え方をすごく尊重してくれますよね。エンジニアの報酬って、実はお金だけではないんです。

好奇心を満たせればどこまでも熱中できる生き物ですから、そういった環境は非常にプラスに作用すると思います。

SHIFTはいま、個人技の集合体から、組織としての技術力を高めるための変革期にあります。

その実現に向けて、世界的な企業のようにエンジニアが「やってみたいこと」「思いついたこと」を即座に試せるような環境を整えたいと考えています。

――なるほど。個人の力を組織の力へと昇華させていくフェーズに立ち会える、非常に伸びしろがある環境ともいえますね。教育面での新しい構想などはありますか?

永井:これまで新人エンジニアの方は、入社後2~3年経験を積んでからレビューに挑戦するという流れが一般的でしたが、これからの世の中はAIありきですから入社から1年後にはレビューするスキルを身につけていないといけない状況になると思います。

受講者自身がレビュー、テストについての理解を深めたうえで、AIをどう活用するか自分で考えられるようになる、そんな研修を行いたいと思っています。

林:私は「AIがサポートする研修」を展開しようとしています。どんな形になるかはまだ言えないのですが、教育効果をたかめるいろんな仕組みを画策しております。 

――永井さんの語る現場のリアルと、林さんが描く未来のビジョン。これからのAI時代を生き抜くエンジニアにとって、どちらも欠かせない両輪であることがよくわかりました。本日はありがとうございました!

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)

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