「作業と判断の分離」でAIを統御する―――SHIFT流・品質保証の最適解とエンジニアの生存戦略

2026/04/20

AIによるコード生成が普及し、開発のスピードが飛躍的に上がる一方で、開発現場は新たな壁に直面しています。

「AI特有のコンテキスト理解不足」や「ハルシネーション」、そして「自動化スクリプトのメンテナンス地獄」――。AIは決して万能な“銀の弾丸”ではありません。

2026年3月に発売された技術書『SHIFT流 AI時代のソフトウエアテスト』は、この過渡期において「AIがコードを書く時代だからこそ、品質をどうとらえるべきか」というソフトウェア品質の本質的意義を探り、「テストエンジニアはどのような役割になってくるのか」というキャリアへの眼差しをもった一冊です。

本記事では、書籍の内容をなぞるのではなく、あえて「書籍には書ききれなかった現場の格闘」にスポットを当てます。最新のAIツールによる試行錯誤を繰り返すSHIFTの現場で何が起きているのか。

開発経験を活かしてAIをマネジメントする「PM力」の重要性や、SHIFTが強みとする「判断と作業の分離」がいかにしてプロンプトエンジニアリングの極意へと昇華したのか。

専門家陣3名の生々しい言葉から、AI時代の最適解と次世代のスキルセットを紐解きます。

※書籍発売の背景や企画意図の詳細については、広報 寺山へのインタビュー記事をご一読ください。

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  • デリバリ改革部 井沢

    国際的な標準規格(IEEE 29119)などをベースに、自社のナレッジを融合して体系化したSHIFT独自の品質保証標準「SQF(SHIFT Quality Framework)」を構築し、現場への適用を推進。本書のベースとなった書籍『駄目パターンに学ぶ 失敗しないソフトウエアテスト実践ノウハウ』でも全体監修を務めており、今回の改定版執筆においても中心的な役割を担った。

  • NSサービス部 中村

    大手ITベンダーで、金融業界のプロジェクトに携わりながら、テストアーキテクト/コンサルタント、プロジェクトマネージャー、アプリケーションアーキテクトなど、多くの職務を経験。培ったスキルを後進に残すため、品質保証の専門性が高く、裁量のある環境で働きたいと思い、SHIFTへ入社。これまでの経験から、現場の最新状況を踏まえたうえで、客観的な観点でナレッジをレビューできる人物として改訂版の監修役として選出された。

  • AIアジャイル開発部 小倉

    2022年8月、SHIFTに入社。前職では、ソフトウェア開発チームでの設計、コーディング、試験からプロジェクト部門での仕様調整まで、上流工程~下流工程までを幅広く経験。SHIFT入社後は、DevOpsエンジニアとして、自動テストの構築や量産だけではなく、CI/CDパイプラインの構築、各種OSSツールの導入支援とDevOpsに関わるすべてに邁進中。AI駆動開発などを見据えた次世代の品質やテストについて語るのにもっとも適した人材であると評価され、改訂版の出版に関わる。

目次

AIだけでは品質は担保できない。現場で見えた課題と限界とは

――まずは、AI活用の現状について教えてください。SHIFTが担うテストの現場では、どんな活用が進んでいますか?

井沢:AIはもはや無視できない存在になっていますね。数年前までは、現場で使われることはほぼありませんでしたが、いまは当たり前のように登場します。

中村:ただ、現場視点でいうと、お客様によってAI活用への温度感はかなり違います。

積極的に相談されるケースもあれば、セキュリティなどの観点からクローズドな環境が求められ、導入に二の足を踏まれているケースもあります。

なかには、「とにかくAIで何か便利なことはできないか」と、手段と目的が入れ替わってしまっているようなご相談をいただくこともあります。

小倉:技術支援の立場からみると、AIは万能な「銀の弾丸」では決してありません。

例えば、AIにテストコード生成のアシストをさせると、動きはするものの、保守性の観点で問題があったり、ハルシネーションが発生したりします。

生成AIは、知らないことでも一般論で返してきたり、実際には存在しないオプションを平気で回答してきたりするので非常に厄介です。

また、一般的な環境では動くけれど、特定の環境下では動かないコードが生成されることもあります。

――「動くからOK」ではなく、運用における環境依存の問題やメンテナンスまで考慮しなければならないわけですね。

小倉:その通りです。結局、AIが生成したコードが本当に正しいのか、公式リファレンスと見比べて確認する作業が人間には必要になります。

「リファレンスにできると書いてあったので実装しました」とAIがいっても、実際にはそんな記述はない、なんてことが起きると大惨事ですから。

中村:私も同感です。結局、マネジメントやテスト設計の基本的な考え方を人間が理解していないと、AIに任せっぱなしにするのは危険です。

AIが導入された現場でも、最終的にその成果物が正しく使えるかどうか判断するのは人間です。

小倉:すべてをAIに丸投げするのではなく、「ここはAIに任せる」「ここは人間が直に書いた方がはやい/確実だ」という見極めや切り分けが、いままで以上に求められていますね。

――日々新しいAIツールが登場していますが、SHIFTの現場ではどのようにキャッチアップや試験導入を行っているのでしょうか?

井沢:SHIFTには「まずやってみる」文化があります。まず小さく試し、価値がみえれば素早く広げていく。そして、古くなったり、陳腐化したりした場合は、迷わず切り替えます。

このサイクルがAIの普及スピードにはすごく合っている気がしますね。現場でもみんな自発的にいろいろ試しています。

小倉:私もGitHubのトレンドをみるOSSの勉強会に参加し、新しい技術を案件に取り入れられるか試したりしています。

また、あるツールのコードを別ツール用に変換する作業をAIと協業した際には、私自身が両方のツールのリファレンスを深く読み込んでいたからこそ、AIに的確な指示を出して大幅に工数を削減できたという実感がありました。

知識があることで一番面倒な部分をスキップでき、開発速度も上がってとても楽しかったですね。

「曖昧さを可視化する」──SHIFT流・AIを暴走させないための選択肢

――AIを使いこなすためには、人間側のスキルも問われるということですね。具体的にどのような工夫が必要なのでしょうか?

井沢:SHIFTが創業以来大切にしてきた「作業と判断の分離」という考え方は、まさにプロンプトエンジニアリングそのものとして役立っています。

この考え方は、テスト実行者にはスムーズに作業してもらえるよう作業手順を細かく分解し、テストの結果が「合格」か「不合格」といった判断がむずかしい場合は考えこまずに「保留」としてエスカレーションさせるというものです。

この「作業と判断を分解して、明確に指示する」という文化は、AIに対しても同様です。例えば、AかBかをAIに選ばせるだけでなく、「AもBも成立し得る」という第三の選択肢を与えるんです。

そうすれば、AIが無理に答えを決めようとせず、判断が必要なポイントが自然に浮き上がります。その結果、人間はそこだけを集中的に確認すればよくなり、効率的に品質を担保できます。

中村:そもそも、人間相手に説明しきれない曖昧な業務は、AIに任せても曖昧な結果しか返ってきません。AIから適切なアウトプットを引き出したいなら、人間がテストの背景や目的を理解している必要があります。

小倉:最初の指示出しを間違えると、AIの回答はどんどんズレていってしまいます。最初に「これで受け入れます」という条件を明確にし、作業を分解して指示できるかどうかが、成功の鍵ですね。

井沢:人間なら行間や空気を読んで、「前回と同じ感じでやっておきました」と判断してくれることもありますが、AIにはそれが通じませんからね。

だからこそ、「なぜこのテストケースをつくったのか」という背景と目的をしっかりとインプットさせる必要があります。

つまり、要件からテストまでのトレーサビリティを確保し、現場の暗黙知をAIが理解できるよう形式知化して渡すことが必須になるわけです。

――人間がお手上げの部分をAIに頼むのではなく、人間がコントロールできる範囲でAIを動かす設計にするということですね。

中村:そういった指示力や設計能力は、これからのエンジニアには不可欠だと感じます。

AI時代、エンジニアはどこで価値を出すのか?問われるPM力と基礎力

――これからの時代、エンジニアにはどのようなスキルが求められるのでしょうか?「AIに仕事を奪われる」という不安の声も聞かれますが。

中村:簡潔にいうなら、目的や背景、制約条件を言語化し、AIに適切な作業を依頼する指示力とAIが出力した成果物が本当に正しいのかを見極め、最終的な責任をもつ判断力といったスキルセットがエンジニアに求められるようになると思います。

作業そのものがAIに置き換わるからこそ、AIのアウトプットが正しいかどうかをチェックできる、つまり作業の本質を理解している人間の価値が高まると思います。

上流工程から全体を俯瞰し、「あとはよろしく」とAIに適切に頼める、いわばエンジニアとしての基礎力への回帰が進むのではないでしょうか。

小倉:ミクロな技術知識でAIの嘘を見抜きつつ、マクロな視点でAIという部下をマネジメントする。

そうやって自分の力を拡張してくれるパートナーとしてAIを使いこなせる人は、今後さらに価値が上がるはずです。

――なるほど、ミクロとマクロの視点ですか。

小倉:付け加えるなら、私は「プロジェクトマネジメント力」の需要も高まると考えています。これまでは人間のメンバーに対して行っていた指示出しや進捗管理の相手が、AIに変わるだけです。

――AIを部下としてマネジメントするイメージですね。

小倉:はい。作業を分解し、細かい指示を出し、成果物をレビューする。これはまさにPMの仕事です。

私自身、プログラマーからPM補佐を経ていまのキャリアがありますが、そのときの経験がAIへの指示出しにすごく活きています。

「どう伝えれば相手(AI)が動きやすいか」を考えられる人は、今後さらに価値が上がるでしょう。

――一方で、AIの登場により若手が経験を積む機会が減るのではないかという懸念もありますが、いかがでしょうか?

中村:見方を変えれば、昔は長く時間をかけて習得していたことを、AIを使うことで短縮できるともいえます。はやくからシステムや品質の本質的な視点を学べるチャンスでもあります。

ただ、「いわれたことだけをやる」というスタンスのままだと、指示される側がAIに置き換わったときに厳しくなるでしょう。

井沢私も、AIが人間の成長を加速させるパートナーになり得ると感じています。

いま、SQFの考え方やプロセスをプロンプトに埋め込んで活用しているのですが、これがベテランのメンターのように機能するんです。「テストの目的は何?」「このシステムはどういう構成?」とAIが問いかけてくる。

――AIが人間に問いかけるんですか?

井沢:ええ。若手エンジニアはAIに聞かれることで、「あ、そこを考えなきゃいけないんだ」と気づきを得られます。AIと壁打ちをしながらテスト設計を進めることで、自然と正しいプロセスや思考法が身につく。

いわばAIによるOJTのような世界ができつつあるんです。実際、経験の浅い人でも、AIと対話しながら進めることで、短時間でベテランに近い水準の成果物を出せるケースも出てきています。

まとめ

――本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に改めて、これからの展望について一言ずつお願いします。

中村:AI時代であっても、品質保証の本質は変わりません。むしろ、AIに作業を委ねる分、人間にはより高度な「本質の理解」と「判断」が求められます。

基礎を大切にしながら、新しいツールを恐れずに使いこなしていきたいですね。

小倉:AIは強力なツールですが、使いこなすのは人間です。これからも、自分の技術力やマネジメント力を拡張してくれるパートナーとして、うまく付きあっていきたいと思います。

井沢SHIFTが大切にしてきた「作業と判断の分離」や「標準化」の考え方は、AI時代にこそ真価を発揮します。この強みを活かしながら、人間とAIが共に成長できるような環境や仕組みをつくっていきたいですね。

――AIの進化は、人間がより創造的で本質的な業務に集中できる未来への入り口でもあります。

SHIFTが培ってきた標準化や「作業と判断の分離」といった強みは、AI時代の品質保証においても有効な指針となるはずです。本記事そして書籍が、AIとともに成長するためのヒントになれば幸いです。

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)

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