SHIFTと同じ2005年に創業。EC黎明期からBtoC向けEC事業をスタートし、はやくからDtoC事業を展開、そのノウハウとデータから大手メーカーの新規事業立ち上げのコンサルティングを多数手掛けるなど、多角的にビジネスを展開する企業があります。
ほぼ自己資金で成長をつづけながら、調達時の時価総額が450億円となり注目を集めた、彼らの名は「イングリウッド」。
小売に特化したDXソリューションプロバイダーとして「素晴らしい商品を世界へ広げたい」という想いを実現するため投資を加速。M&Aやグローバル展開を見据え、その手段として満を持してIPOを準備しています。
組織戦略では、従来は経験豊富な中途による少数精鋭で事業を伸ばしてきましたが、経営視点をもつ若手が「育つ会社」を目指し2020年度より新卒採用を開始。現在は年間採用100名中40名が新卒というから驚きです。
今回の対談には、副社長兼CGOの三好様を迎え、イングリウッド社の新卒・未経験者育成について話を伺いました。SHIFTの人事本部長、菅原の発言に垣間見える、SHIFTが大事にしている思いもぜひ感じ取ってください!
【CHRO対談について】
各企業のCHRO・経営陣・人事リーダー陣とともに、次世代の人事のあるべき姿を話し合う連載です。
生産年齢人口が日に日に減少する日本。組織の成長のためだけでなく企業の枠を超え、「日本の未来のために、人事の私たちに何ができるだろう」そんな問いをベースにした対談で、SHIFTの想いを伝えられたらと考えています。
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株式会社イングリウッド 取締役副社長 兼 CGO 三好 悠介
慶応義塾大学 法学部政治学科卒業。2006年株式会社リクルート新卒入社、営業・新規事業開発に従事しTOPGUN AWARDを2度受賞するなど多数の表彰受賞。その後リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートディビジョン長にて事業のターンアラウンド、組織の成長を牽引。2022年より現職にて急成長する組織の制度改革、採用にもハンズオンで取り組む。
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株式会社SHIFT 上席執行役員 兼 人事本部 本部長 菅原 要介
慶応義塾大学大学院 理工学研究科修了。株式会社インクス(現:SOLIZE株式会社)に新卒入社し製造業コンサルティングを経験後、2008年SHIFTに参画。品質保証事業を本格化する折に、大手Web制作会社QA部隊の組織化コンサルを手がける。その後、新規事業の立ち上げを経て、ビジネストランスフォーメーション事業本部全体の統轄に加え、採用・人事施策・人材マネジメントなど、SHIFTグループ全体の人事領域を管掌している。
目次
企業成長のレバレッジを利かせるために必要なこと
菅原:CGOという肩書は少し聞きなれないのですが、三好さんはどんな役割を担われているんですか?
三好: CGOとはCheif Growth Officerの略で、事業成長を加速させるために管掌に囚われない取組を実行、経営資源を活かしパフォーマンスを最大化することがミッションです。企業のフェーズや局面に応じて、新規事業、M&A、ファイナンス、営業、組織戦略など横断的に戦略を立案・実行します。
私は「組織が良ければ事業は伸びる」と考えており、前職のリクルートでも組織開発に力を入れていました。イングリウッド入社後は、成長ベンチャーあるあるの「成長痛」が起こっていたこともあり、まず事業成長の基盤となる採用、人事制度、報酬制度など、組織開発から着手しました。
菅原:なるほど。私たちも過去に成長痛の経験がありますが、イングリウッドさんとしてはどんなものだったんですか?
三好:いままさにという点では、「マネジメントスタイルの変化」です。ベンチャーは一定のフェーズまでプレイングマネージャーの方が事業成長を加速させられるのも事実。
一方マネジメントする人数が増えても同じスタイルではメンバーが育たず、成長のレバレッジが効きません。次のフェーズに進むためにマネジメントスタイルを切り替えているところです。
SHIFTさんは大規模な組織成長のために、どうマネジメント層の育成をされてきましたか?
菅原:SHIFTにはバッググラウンドさまざまなマネージャー陣が数百名規模でいるのですが、間違ったマネジメントをしないようにするのはもちろん、部下の成長を促進させるための目線あわせは大事にしています。その機会となるのは、我々の場合、評価会議ですね。
経営陣に対して、マネージャーが部下の活躍についてプレゼンするのですが、その際に私たちから色んな質問をしたりフィードバックをするんです。人の育て方、接し方、メンタルケアの方法など、それが共通言語となり、メンバー育成における文化の浸透につながっているように感じています。
三好:評価会議ってマネージャーにとって怖い場でもありますよね。もし経営陣が、自分の部下について自分より詳しかったら……。普段から本音を引き出し深く理解するのは育成において大切なこと。
当社のような規模の組織は評価基準をがちがちに決めるよりも、余白や柔軟性を残し、部下の深い理解をベースに昇給・昇格を決める方が結果的にフェアとなるケースもあります。だからこそ対話には時間をかけていますね。
「経営者目線をもつ」短期間での成長を促す秘訣
菅原:SHIFTではもともと従業員1,000名中、新卒はたった10名の時代もありました。すごく比率の低いところから徐々に増えて、2023年卒はSHIFT単体で160名採用しています。イングリウッドさんは新卒比率が高いそうですね?
三好:はい。いま全社230名のうち40名が新卒で比率は高い方だと思います。当社の場合は、SHIFTさんと反対で、2020年に全社50名のときに新卒を10名採用しています。
いまも10人中9人が残っていて、マネージャーになったり新規事業を牽引したりして活躍がめざましく、育てられると確認できたので新卒採用も強化しつづけています。
菅原:育成の秘訣として、何か特徴が?
三好:経営者目線をもつことを非常に大事にしています。起業家を輩出できるような会社にしたいという想いが根本にあって。ファイナンスやエンジニアリングを含めた集合研修のあと、経営陣への提案ロープレに合格しないとお客様先には提案にいけないという仕組みになっています。
菅原:「起業家を輩出したい」というのは、会社としてジレンマに陥りませんか?というのもSHIFTの新卒採用は2016年に大きな壁にぶつかったんです。
当時は代表の丹下を前面にだしていて、「丹下と働けるようになる」「経営者を目指そう」が訴求ポイントでした。でも何年も修行が必要という現実に、退職者が多くなってしまって。実際、起業のために退職した人もいたので、ネガティブなことばかりではないのですが……。
三好:優秀な人には残ってほしいですよね。いかに魅力的な成長環境を提供しつづけるかが大事だと思うのですが、イングリウッドの場合は事業部単位の裁量が大きいこと、若手への権限移譲が浸透していることが寄与しているかもしれません。
まず売上だけでなくコスト面も含めPLを管理することを1年目から叩き込まれます。短期の利益を追ってコストカットに走らないよう、長期的な「人への投資」という観点で採用権限も基本は現場のマネージャーにあります。
それに紐づいて日割りの人件費まで管理、給与もマネージャーが素案を決めます。マネージャーはメンバーの給与を上げたい気持ちと、コストコントロールという二律背反がありますが、普段から採用の最前線にいることで適正な市場価値で給与を決めることができるんです。
菅原:それは凄い。それぞれが自部署の経営者として事業をみているんですね。
採用と育成への本気度が現れる、SHIFTのある施策
菅原:先ほど新卒入社者の退職者が多かった時期のことをあげましたが、そこがSHIFTの新卒採用の大きなターニングポイントだったかもしれません。
訴求する内容を「SHIFTは何をやろうとしているのか」に変えたんです。IT業界、ひいては社会課題を解決する会社ですよと。それに共感してくれる人を採用しはじめて、少しずつ軌道にのって、FY2023はグループ連結で約250名採用して定着率もあがっています。
三好:どの企業もIT人材がほしいなか、経験者は引く手あまたで採りづらい。未経験者の採用後の育成が肝になると思いますが、どんな内容なんですか?
菅原:2ヶ月の基礎研修と、それに後続して技術系であれば1ヶ月の技術研修、他にはコンサルなどそれぞれのキャリアによってベースのスキルを身につける研修やOJTを実施します。
SHIFTの育成で特徴的なのは「トップガン検定」(※SHIFTグループ従業員を対象にした社内制度)ですね。検定のレベル毎にこのスキルがあれば、このポジション、お客様への価値提供はこれだけで、自分の年収への還元はこれだけ、と決められているもの。
先ほど市場価値という言葉がでましたが、私たちがこうした検定をつくっているのも市場価値に公平でありたいという思いが根本にあります。
三好:とはいえコンサルや営業はスキルを言語化しにくいイメージがありますが……?
菅原:経験値と、スキルとを分けて考えています。能力開発部という、スキルを分析したりスコアリングしたりするのに特化した部が検定に全力を注いでくれているんですよ。
検定自体はテスト事業をはじめた2010年からスタートしました。どんな人を採ればいいのか、素養を見抜くCAT検定がはじまりです。逸話なのですが、面接中に一言もしゃべらない人がいて。
でも検定の結果、高い素養があるということを見抜いて入社いただき、その後も活躍してくれましたね。経歴に縛られず、競合他社とは違う角度で人をみるので採用力が高まったというのは間違いないかなと。
三好:採用も育成もそれぐらい本気でないと、IT人材を確保できないし社会も変えられないという気概を感じますね。
菅原:「IT業界で日本をよくしたい」という思いに賛同してくれる人たちを集めながら、やりがい搾取でもない、自分のキャリアアップも叶ういいループをつくっていきたいんです。SHIFTは「社会課題を解決する会社」ですから、正しく評価されない、また低賃金といった問題にも本気で取り組んでいます。
イングリウッドさんは今後どんなことを目指されていますか?
三好:事業を伸ばすために経営視点をもつ人を増やしていくことは変わりません。企業として既存事業に加えM&Aも活用して当社のアセットをフル活用し、多くの小売事業者様の成長に貢献したいと考えています。
その手段としてIPOを目指していますし、組織としても500人、1,000人と拡大していく予定です。素晴らしいモノづくりを世界へ広げるというビジョンが実現できるよう、一歩ずつ前へ、という感じですね。
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)