【後編】日本の未来のために、人事の私たちに何ができるだろう  vol.3~ミッションドリブンがもつ力~

2024/04/11

会社のアイデンティティを言語化することで、人が活かされ、組織が変わり、事業が伸びる──ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)は、いまや企業にとって欠かせない考え方のひとつとなりました。 

一方で、MVVが自社にどう作用するのか、具体的にイメージしにくいという声も少なくありません。これまでSHIFTでは、エンジニアが幸せに働ける環境づくりを目指して、さまざまな人事施策を展開。今後、10万人企業を目指すにあたってはONE-SHIFTとしてMVVのような共通言語の浸透にも力を注いでいきたいと考えています。 

そのヒントをお伺いすべく、今回は、Chatwork株式会社※CHRO鳶本​真​章(とびもと まさあき)さんをお迎えして対談。後編では、目指す組織のかたちと言葉の大切さについて語りあいました。

※2024年7月1日より社名を株式会社kubell(読み:クベル)に変更予定

【CHRO対談について】
各企業のCHRO・経営陣・人事リーダー陣とともに、次世代の人事のあるべき姿を話しあう連載です。  

生産年齢人口が日に日に減少する日本。組織の成長のためだけでなく企業の枠を超え、「日本の未来のために、人事の私たちに何ができるだろう」そんな問いをベースにした対談で、SHIFTの想いを伝えられたらと考えています。

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  • ​​​Chatwork株式会社 上級執行役員CHRO 兼 ピープル&ブランド本部長 鳶本 真章​​

    大手自動車メーカーにてマーケティング領域に従事した後、京都大学大学院でのMBA取得を経て、大手外資系コンサルティングファームへ。その後、複数のベンチャー企業での経営支援を経て、2018年に株式会社トリドールホールディングスに入社し、同グループ全体の組織・人事戦略をリード。2019年より、同グループ執行役員CHRO兼経営戦略本部長に就任。202310月、Chatwork株式会社上級執行役員CHROに就任。

  • 株式会社SHIFT 上席執行役員 兼 人事本部 本部長 菅原 要介

    慶応義塾大学大学院 理工学研究科修了。株式会社インクス(現:SOLIZE株式会社)に新卒入社し製造業コンサルティングを経験後、2008SHIFTに参画。品質保証事業を本格化する折に、大手Web制作会社QA部隊の組織化コンサルを手がける。その後、新規事業の立ち上げをへて、ビジネストランスフォーメーション事業本部全体の統轄に加え、採用・人事施策・人材マネジメントなど、SHIFTグループ全体の人事領域を管掌している。

目次

経営者だった祖父、父の影響でひとが好きに。「強くて、よい会社」を目指す

菅原:未来組織図やHRデータドリブンマネジメントなど、鳶本さんの発想には、つねに斬新さが感じられます。どんなモチベーションで仕事に取り組んでいるんですか。 

鳶本:半径5メートル以内にいるひとが、楽しく前向きに仕事ができる環境をつくりたい──これがすべての源泉ですね。

朝、元気に登校している小学生たちのかたわらで、つま​らなそうに通勤する大人の姿をみると、何ともいえない気持ちになります。これから日本を変えていくためにも、前向きに仕事に取り組むひとを増やしたいんです。 

それと、結局ひとが好きなんでしょうね。 

菅原:そこには何か原体験のようなものがあるんですか。 

鳶本:幼いころから祖父、父の経営をみて育ったことが大きく影響していると思います。 

私の実家はかつて、建築業を営んでいました。父の代で倒産してしまったんですが、幼い私の目からみても、祖父、父の経営手法がそれぞれまったく違っていたんです。

祖父は大工。小さな組合の棟梁として、仕事にプライドをもちながらも、仲間とわいわい楽しく仕事をしていました。祖父は私が3歳のころに亡くなりましたが、上棟式の会食の場に混ぜてもらった朗らかなシーンは、いまでも鮮明に覚えています。 

その後、父が後を継ぎ、経営方針はがらりと変わりました。木造住宅だけでなくマンション建設にも乗り出すなど、拡大路線に転換したんです。

従業員は増え、事業は成長しましたが、社内の雰囲気はギスギス。会社が傾きはじめたとたん、ひとはどんどん離れていきました。 

ふたりとも「多くのお客様に住み心地のいい家を提供したい」という思いは同じだったはずです。

祖父はよい組織を、父は強い会社を目指したことで明暗がわかれましたが、よくよく考えてみれば “強くていい会社”って世の中にはほとんどないな、と。

「どうしたら両方の要素を兼ね備える会社をつくれるんだろう」と、私自身ずっと模索している気がします。 

SHIFTは目指す組織像みたいなものはあるんですか? 

菅原:「どんなひとがいてもよい。けれども、目指す方向性には賛同してほしい」というような、合衆国的な組織をつくろうとしている感じはありますね。 

鳶本:まさに、心理的安全性のある組織ですよね。お互いの違いを受け入れ、自分の考えや意見を安心して言いあえる。会社に対しての思いも「ひとそれぞれなんだ」と思える環境。 

菅原:何事もフェアウェイゾーンから外れすぎなければいいなと思っています(笑)。 

会社の肝は、人的資本をPLに置き換えられるかどうか 

鳶本:私、SHIFTのLTVという指標が大好きなんです。単なる数値化ではなく、ひとの一生という軸でとらえたときに、どんな価値貢献が発揮できるのかがこの方程式によってわかる。考え方そのものに共感しています。 

菅原:ありがとうございます。おっしゃっていただいたとおり、「LTV=在職期間に生み出す利益」としてとらえ、エンジニア人数×在職期間×個(売上総利益率)という方程式を使って算出しています。

長く在籍すればするほど、そのエンジニアの付加価値は上がり、売上も伸びるという考え方です。 

うちの会社の制度や仕組みは、“壮大なおせっかい”から成り立っています。代表的なシステムが「ヒトログ」です。例えば従業員のAさんのプライベートについて気にかかったら、450項目ある「ヒトログ」のデータから読みとることができます。 

全従業員の情報が在籍年数分たまる、いわば人的資本のデータベースなので、PLにどんな相関係数があるのかは少しずつ解明できつつあります。 

鳶本:人件費、つまりコストとして、ただBSに入れるのではなく、人的資本をPLに置き換えられるかが会社にとって肝ですよね。

でも、これができている会社は案外少ない。難易度の高い人事データを網羅的にとって、管理できるってすごいです。 

菅原:模索しながらやっています。人事施策をPLに置き換える場合、取り組みが利益にストレートにつながらないから、“KPIの中間”みたいな指標は設けたいところですよね。 

鳶本:データに関しては、個人的にものすごく興味があるんです。例えば、OKRなど人事トレンドを聞いたら「よさそう!」とすぐに自社に取り入れるのではなく、データに基づいてカルチャーにあうかあわないかを判断すれば、アンマッチがなくなりますよね。 

当社でいうと、今後グループ会社が増えていくにあたって、バリューそのものを見直すという考え方もあると思うんですが、私自身は「読み解き方」が変わると考えていて。 

バリューのフェアウェイゾーンを探るときに、各社の事業と掛けあわせながらどんなデータやファクトを揃えていくのがベストなのか、その点にも留意していきたいところです。 

菅原:状態とデータをつなぎあわせる作業ってすごく面白いですよ。例えば、グループ内にテンション高く業務に取り組んでいる会社があったとして。

データに紐づけると、その会社がなぜそういう状態になっているのか、わかってきます。 

もし「テンション高い会社を増やす」など戦略化する場合は、起因しているものをしっかり言語化して、必要なリソースを投下しながら伸ばしていく。こうして成果が出ることに人事ならではの喜びを感じます。 

伝わらないのが当たり前。だからこそ“自分の言葉”で発信することが大事 

菅原:ミッションドリブンをベースに、さまざまな話を伺ってきましたが、コミュニケーションに対して、鳶本さんがいま感じている課題はありますか。 

鳶本:自分の言葉で伝えていく大切さを痛感しています。Chatworkに入って5ヶ月たったんですが、実は社内のメンバーから“ドライで冷徹なタイプ”だと思われていたらしいんです。

こんなにパッションとミッションだけで生きている人間なのに(笑)。 

菅原:そのことを知ったきっかけは? 

鳶本:先日公開された「​Cha​​道」というオープン社内報の記事を読んで「実は熱いひとだったんですね」といろんなメンバーからいわれて。それで、抱かれていたイメージとのギャップに気づきました。 

この件があって、自分のことを“自分の言葉”で発信していかないと伝わらないんだとつくづく感じて。会社のブランディングもそうですよね。

例えば、​従業員は自分たちを「あたたかい会社」だと思って​いても​​​、社外からは本当にそう見られているのかわかりません。 

さきほどのLTVの考え方も「ひとをお金としてみている」と思われているかもしれない。でも実際のSHIFTは、ひと思いの会社ですし。 

菅原:そう思うと、言葉ってやっぱり大切ですね。 

鳶本:伝わらないのが当たり前、となったときに、重要なのが言語化なんですよね。MVVを定義化して、フェアウェイゾーンを決める。幅のもたせ方を大事にするというのは人事としての道筋なのかなと。 

文化の定着って、結局現場でしかできないこと。暗黙的な文化と、目指したい文化のギャップをどう埋めていくかがミッションドリブン。

SHIFTはビジネスモデルも目指す方向性も明確なので、そのギャップはすぐに埋められる気がします。 

菅原:言語化ははやいうちに着手したいですね。お話を聞いて、みんなの思いをひとつにする“最大公約数”的な言葉の必要性をつくづく感じました。

未来組織図を描いたうえで、いまやるべきことをやるという話も、参考にさせていただきます。 

本日はお忙しいなか、お時間をいただきありがとうございました。

(※本記事の内容は、取材当時のものです)​ 

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