JaSST’26 Kansai 登壇レポート
ソフトウェア開発において、テストで検出された不具合を分類し、品質の傾向や開発プロセスの弱点を可視化する「ODC(直交欠陥分類)分析」。
これは統計的分析よりも少ない件数のバグデータであっても有効な分析を得られる極めて有用な手法である一方、「分類作業が重労働になりがち」という課題があります。
最低でも300件以上のバグデータに手作業で一つひとつ属性を付与する作業は、分析にかかる全工数の約8割を占め、現場の大きな負担となっていました。
SHIFTはこの課題に対し、生成AIを活用することで、分類工数を約2週間からわずか1時間へと大幅な短縮を実現。
その舞台裏を明かした前回の「JaSST’26 Tokyo」の登壇内容は以下記事にてレポートしています。
関連リンク:欠陥分類を2週間から1時間へ。AIを人間による分類精度にまで到達させた「5つのプロンプト術」
そして2026年7月3日。SHIFTがプレミアムスポンサーを務める「JaSST’26 Kansai」で、CATエヴァンジェリストの石井 優がその後の動向をご紹介しました。
本稿では、石井の講演内容をもとに、分類自動化の先にある日常ツールへの組み込みや、24時間稼働する自律的なAIテストサイクルの未来予想図をレポートします。
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CATエヴァンジェリスト 石井 優
倉庫事業企業のシステム部門にて、基幹システムの開発・保守・導入および大規模基幹システム移行への参画を経験し、2015年にSHIFT入社。CAT開発チーム内でユーザーサポートとして、ユーザーと開発メンバーのブリッジを行い、ユーザーの課題分析や新機能提案などを日々実施している。
目次
【前回のおさらい】職人技を再現し、人間同等の精度を叩き出した「5つのプロンプト術」
開発工程にて発見されたバグ/不具合を収集・分類し、その原因やパターンを突き止める“ODC分析”。
そのボトルネックとなっていたのは、欠陥情報に種別やトリガーといった複数の属性を一つずつ付与していく分類作業でした。
分析の前処理であるこの作業だけで、全体の工数の約8割を奪われていたのです。
SHIFTはこの課題に対し、複数の生成AIプロンプトを組み合わせて適用することで、分類作業工数を劇的に短縮。
「AIは自信満々に間違える(情報が足りなくても無理やり決め打ちして回答する)」という壁を突破し、人間同等の精度(一致率約80%)を再現した、独自の“5つのプロンプト術”の流れと要諦は以下の通りです。
<欠陥分類のAI化プロセス>
<プロンプト術の要諦>
対象となる欠陥情報を分類する際、SQFに基づいた分類プロセス(上の01~05)を適用し、それぞれに応じたプロンプトで処理することで分類を実現しています。
各プロンプトのポイントを以下に記載します。
・整形プロンプトによる入力品質の均一化:
書き方がバラバラな障害票を、前処理として6項目の表形式に強制整形。
情報がない場合は勝手な想像を防ぐために「ない」と書かせることが重要で、かつ“空欄禁止”を徹底することで抜け漏れを防止します。
・判断基準(優先順位)の仕様化:
AIによる解釈のブレを防ぐため、「要件定義 > 設計書 > プログラム」といった重み付けを明示。複数候補がある場合はこの優先順に従って1つを選択させます。
・「救済カテゴリ(あいまいさ)」の許容:
原因が複合している場合、無理な決め打ちによる誤分類を防ぐため、「アルゴリズムorチェック(あいまい)」といったあいまいなまま出力できる逃げ道を用意。人間が再鑑すべき対象をあぶり出す仕組みを構築しました。
・結果+理由の必須化と自己整合チェック:
結果と同時に分類した理由を必ずセットで出力させ、矛盾がないかAI自身に自己チェックさせることで決め打ちの抑止とレビューの効率化につながります。
・実際と潜在の2軸による行間読みの再現:
文面の手順だけに依存せず、「実際(事象通りのパターン)」と「潜在(どうテストすれば発見できたか)」の2つの軸でトリガーを分析させることで、人間に近い分類を再現しました。
このアプローチの本質は、AIに分類を丸投げするのではなく、人間が普段行っている暗黙の判断ルールを徹底的に言語化し、仕様としてAIに渡したことにあります。
【Q&A】単発プロジェクトでも、ODC分析は役立つ?
今回JaSST’26 Kansaiでの登壇では、前回登壇したJaSST’26 Tokyoでいただいたご質問も紹介しました。
JaSST’26 Tokyoの聴講者から「ODC分析は本来、中長期のデータを大量に蓄積してはじめて活きるものでは?単発のプロジェクトでも価値はあるのか?」という疑問が寄せられました。
これに対するSHIFTの回答は、「AIによる高速化が、単発プロジェクトにおけるODC分析の活用可能性を大きく広げた」というパラダイムシフトの提示です。
これまで欠陥の分類作業はあまりに重すぎたため、プロジェクトの進行中に都度分析を行うことは現実的ではなく、必然的に「中長期のデータをまとめて事後分析し、組織的なプロセス改善に活かす」というアプローチになりがちでした。
しかし、AIによって分類コストが軽量化された現在、単一のプロジェクト進行中であっても、分類・分析作業を都度行うことで「いま、どこに品質リスクが偏っているか」「次に強化すべき観点は何か」を、迅速に把握し、翌日のテスト活動に活かせるようになっています。
中長期で組織プロセスを改善するという本来の価値も発揮しつつ、目の前のプロジェクトを安全にゴールへ導くためのリアルタイムな武器としても使えるようになったこと。
これこそが、AI×ODC分析がもたらした大きな効果の一つといえます。
【現在の取り組み】ODC分析レポート作成までワンストップ化
今回、最新の取り組みとしてODC分析レポートまでのワンストップ化について紹介しました。
前回のJaSST’26 Tokyo時点では欠陥分類のプロセスは「分類ステップを実施し、各ステップでユーザーがチェックを行う」という分業制でした。
現在では欠陥情報からの分類、分析、報告までワンストップで進める仕組みを整備しています。
ワンストップ化をするにあたり、単に分類した結果をAIに渡し「これを分析して」と指示するだけでは、再現性が担保できず、毎回異なる分析結果が出力される可能性があります。
また、欠陥情報単体だけではプロジェクト特有のコンテキスト(文脈)が考慮されず、分析の精度が上がらないという課題もありました。
そこでSHIFTは、対象プロジェクトの「背景情報」をAIにインプットしたうえで、 長年培ってきた 独自の品質保証標準である「SQF(SHIFT Quality Framework)」の分析観点をAIに組み込もうとしています。
例えば、「画面系や帳票系の障害が多い」というファクトに対し、「単体テスト(UT)工程での画面系・帳票出力系の網羅テストが未実施、もしくは確認不足」という仮説をAIに立てさせ、具体的な改善提案までをワンセットで出力させます。
SQFをAIにインプットすることで、AIは一定の観点に基づいて、安定して質の高い一貫した分析報告書を作成できるようになると考えています。
【新しい提案①】欠陥の起票時に自動で属性を付与する
ここからは、AI化した仕組みとその応用によって既存のプロセス改善などにつながる仕組みの示唆ということで2つの提案をしました。
テスト活動のなかで報告された不具合情報を分析する場合、不具合を起票したメンバーが分類用の属性を判断、設定する運用フローを行うことは一般的です。
品質の可視化や分析を精緻に行うためには、不具合ごとにできるだけ多くの属性を付与したいのが本音です。
しかし、入力項目を増やせば増やすほど現場の負担は増します。
属性を考えて設定する時間は数分でも、起票するメンバーの本質的ではない属性の判断作業が重なった場合、結果として適当な分類が付けられるなどして、継続的な分析運用は頓挫しがちになります。
また、大規模なプロジェクトなどではすべてのメンバーが同じ分類基準を共有するということは難しいものです。
この課題を解決するため、SHIFTはプロジェクト管理ツール「Jira」とODC分析APIをシームレスに自動連携させ、通常の手動テストプロセスの中にAIのタグ付けを組み込む仕組みを提案しています。
Atlassian Forgeが自動でそれを検知してバックグラウンドでODC分析APIに問い合わせを行い、チケット上に分類タグを自動で反映するイメージです。
この仕組みの最大のポイントは、完全にAI任せにするのではなく、「AIによる自動タグ付け + 人間による簡単な再鑑」という形で持続的な分析運用のプロセスを構築している点にあります。
これにより、現場の工数を増やすことなく、すべての欠陥データに品質分析用の属性が即時付与される理想的な環境の実現が期待されます。
【新しい提案②】24時間稼働するAI×テストの自律サイクル
現在、SHIFTではAIが自律的にテストを設計し、実行するAIテストソリューション「ネムラナイ」を提供しています。
これにAI×ODC分析を組み込むことで、これまでにないスピードでテストの精度を自己向上させていく「24時間稼働する品質改善の自律ループ」の実現を目指しています。
具体的なサイクルは以下の通りです。
1.夜間のAIテスト自動実行:夜間に、AIが自動でシステムテストを実行する。
2.AIによるODC分析:検出された不具合を、AIが即座にODC分析にかける。
3.自律的な改善提案:分析結果から「仕様書のここが足りない」「このテスト観点が不足している」といった改善ポイントを自動で導き出す。
4.翌朝のフィードバック:朝、AIテストを監視するオペレーター(人間)がその提案を確認し、テストの設計モデルやプロンプトを調整・アップデートする。
昨晩発生した不具合の分析結果が、翌朝には“次のAIテスト設計”へとダイレクトにフィードバックされ、日に日にテストの質が向上していく自律的なサイクルです。
【まとめ】職人の暗黙知を仕様化し、AIと共創する未来へ
AIに分類を丸投げするのではなく、人間が普段行っている暗黙の判断ルールを徹底的に言語化し、「仕様」としてAIに渡す。
これが、SHIFTの進めるAI活用の真髄です。
SHIFTはこれからも、AIと人間の新しい共創のカタチを提示し、ソフトウェアテストの可能性を広げつづけていきます。
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)