「人的資本経営」。経営者や人事業界における2023年のバズワードといっても過言ではないでしょう。
人材に投資する。人的資本価値を最大化する。いま、あえて言葉にしなくても、SHIFTは創業当時からそのスタンスでした。
そして、現在日本の人口は減少フェーズに入り、生産年齢人口は日に日に少なくなっています。いまの豊かさを保つためにも、企業はより生産性を高め、国際競争力を向上させていかなければならない時代。
私たちはとどまることなく問いつづけたいのです。組織の成長のためだけでなく企業の枠を超え、「日本の未来のために、人事の私たちに何ができるだろう」と。
CHROの方々とともに、次世代の人事のあるべき姿を話し合えたら。そんな思いでこの連載はスタートします。
初回の今回は“「幸せに働く」を科学したい ”をテーマに、株式会社i-plugのCHRO土泉智一さんをゲストに迎え対談を実施。前編の本記事では土泉さんのこれまで、そして現職での取り組みを聞きました。
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株式会社i-plug 執行役員CHRO 土泉 智一
成城大学経済学部卒業。 新卒で大手人材サービス会社に入社し、法人営業として9年間従事した後、2006年に人事として株式会社アイスタイルへ。人事責任者として、IPO、海外法人設立、関係子会社PMIなど推進し、13年に渡りグループの成長拡大に人事・組織面から貢献。同社関係子会社取締役を兼務。その後、2019年株式会社SHIFTに入社。本社人事部門の責任者として急拡大するグループを支えたのち、2021年9月i-plugに入社。執行役員CHROに就任。
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株式会社SHIFT 上席執行役員 兼 人事本部 本部長 菅原 要介
慶応義塾大学大学院 理工学研究科修了。株式会社インクス(現:SOLIZE株式会社)に新卒入社し製造業コンサルティングを経験後、2008年SHIFTに参画。品質保証事業を本格化する折に、大手Web制作会社QA部隊の組織化コンサルを手がける。その後、新規事業の立ち上げを経て、ビジネストランスフォーメーション事業本部全体の統轄に加え、採用・人事施策・人材マネジメントなど、SHIFTグループ全体の人事領域を管掌している。
目次
売上1兆円を目指す。桁違いの事業成長のための人事
───土泉さんはもともとSHIFTで人事の部門長を務められた過去があり、菅原とは旧知の仲ではありますが、読者のためにまずは土泉さんのこれまでについてお伺いできますか?
土泉:はい。新卒で入社したのは大手人材サービス会社で、派遣サービスの営業をメインとして、人材紹介、再就職支援、アウトソーシング、その他さまざまなプロジェクト推進などを通して幅広い経験を積みました。
ただ、今回のテーマにもつながりますが、自身が関わった方々の入社後の「活躍」に踏み込めない点にもどかしさを感じていたんです。
人事コンサルになるか、人事になるか。働く従業員と直接コミュニケーションがとれ、肌感を感じられる後者を選びました。
短期間で人事の全領域を学びたいと思って、縁あって当時70名程度の規模であった急成長中のベンチャー企業であるアイスタイルに入社し、入社後すぐにJVの立ち上げに携わりました。
複数の会社から30名ほどの社員が集められて設立されたのですが、初年度から新卒と中途のプロパー社員採用をはじめ、独自の人事制度をつくるなどもしましたね。
こちらで3年間従事した後、アイスタイルに戻ってからは人事部長として人事部の立ち上げからIPO、海外進出の拠点立ち上げ、M&A、本当にさまざまなことを経験しました。組織としては、私が辞めるころには1,500人ほどの規模感になっていました。
───人事の「猛者」という感じがしますね。その後SHIFTに入社されたんですね?
土泉:はい。13年間、急成長企業で務めたとはいえ、人事では1社経験でしたから、異業種かつ1,500名以上の規模感で、それでも急成長をつづけている会社を見てみたい、と思ったらSHIFTしかありませんでした(笑)
人事の施策って事業への貢献度が、すぐには見えづらいじゃないですか。育成を強化しても成果が表れるのは数年後。エンゲージ施策や組織開発を施してもなかなか見えづらい。
SHIFTに入社したのは、ビジネスモデル的にも「人事と事業(経営)」がすごくきれいに噛みあっていると思った点も大きいです。人事施策が事業成長に影響を与えている。二つの歯車が上手く回る理由に強い興味をもちました。
菅原:当時はまだ売上が200億円いかないぐらいのタイミングかな。
土泉:なのに「売上1兆円を目指す」っていってましたよね。ブルーオーシャンで可能性があるのはたしかでしたが、世のなかの人事からするとすごく独特でとがった存在でしたよ。いまでこそ“人的資本経営”という言葉がありますが、めちゃくちゃ高い「事業目標、そのための人事」を当時から追求してるように思えました。
菅原:それはうれしいですね。人に「投資する」という考えは創業時からあります。実際に入社してみて、人事と経営が連動する理由は何か見えました?
土泉:両者の連動の根っこにあると感じたのが、「データ活用と課題を運用まで落とし込む徹底ぶり」でしたね。曖昧で定性的な結論になりがちなものを本質的に、徹底的に科学し、シンプルな方程式化しようとしているというか。
ヒトログ※というデータの格納庫があって、そのなかのデータを分析するだけじゃなくて、運用レベルまで考えて施策を打って、振り返って、また改善して、を超高速でまわしている。
※ヒトログ: SHIFTが独自開発しているタレントマネジメントシステム。全従業員のこれまでのキャリア、志向性などのほか、部活動や社内のAWARD受賞歴など約450項目のデータが格納されている。
一般的にはフレームをつくれたとしても、絵に描いた餅で終わるというか。徹底力といえば、e-Learning受講率もSHIFTは、100%を目標にしてやりきりますもんね。
全社員面談で現場・社員の声を吸い上げる
菅原:今回のテーマでもある、「従業員にとっての幸せをつくりだすこと」について、土泉さんは現職でどんなことをしているんですか?
土泉:いままさにポリシーをつくるところからやっています。組織づくりに力をいれずとも、事業が右肩あがりで伸びてきたのがこれまで。でもこの一年で新規事業やサービスが次々と立ち上がり、いっきに組織として複雑化したんです。
そうするといままでの事業もより高度なものがおのずと求められてくる。ゆるやかな曲線を描くような成長ではなく、段差の大きい階段を垂直に登らなくてはいけない感じですね。
よって、当たり前ですが、人材、組織自体もグロースに対応できるようにしていかなければならないし、文化基盤自体もアップデートしていかなければならない。全方位の改革です。
最初に行ったことは、事業戦略と人事戦略の歯車を強固にしていくためにHRBP組織を立上げ、全社員面談で現場・社員の声を吸い上げること。
階層によって各々の課題は当然のことながら違うのですが、現場社員からの声が大きかったのが、キャリアについての悩みでした。
私たちの会社は「世の中の人々のキャリアの可能性を拡げること」に取り組む会社ですので、これらは真っ先に取り組むべき課題だと思いました。
一例にはなりますが、手をあげれば、社内異動ができるキャリアチャレンジ制度を導入して、グループ会社横断でのキャリアの選択肢を増やしてきましたし、職種を転換して異動することだけがキャリアではないので、組織構成の立て直しや、機能的に不足・補完すべきところは組織を新設・改編することを通して、「異動できる先」の選択肢を広げてきました。
またベースとして、キャリア相談窓口も新設しています。社員の声や悩みに人事が向き合い、さらに挑戦を促す機会を用意することで、エンゲージメント向上の一翼を担っているのではと思いますし、チャレンジングな会社としての文化醸成、文化促進にもつながっていると考えています。
菅原: なるほど。実際の従業員の声を何よりも大事にしているのがうかがえますね。
(※本記事の内容は、取材当時のものです)
───後編へつづく