もはや見慣れたものになりつつある、飲食店の卓上に置かれたオーダー用タブレット。
大手チェーン店ではネコ型ロボットが配膳をする姿も見かけ、好奇の目が“彼ら”に寄せられています。
こうした飲食業界での新たな動きは、皆さんお察しの通り人手不足解消のためのDXの一つ。実生活からは遠い世界のことと捉えられがちなDXですが、「飲食」とあれば私たちは意識せずとも触れていそうですね。
本記事ではSHIFTが株式会社ぐるなび(以下、「ぐるなび」) と取り組む飲食DXについて紹介しながら、SHIFTのカルチャーについても理解してもらえたらと思います。
-
サービス&テクノロジー本部 デジタルサービス統括部 DAAE部 DAAE企画グループ K.K.
会計系ERPパッケージソフトの企業にて、新規事業の立ち上げを含め7年間の開発実務を経験。その後、経営コンサルタントとして、事業戦略策定および事業再生を支援。2021年7月にSHIFT入社後、開発スコープに限らないビジネス全体を考慮したサービス提案を強みに、DAAE部にて活躍中
目次
激動の業界で、次のコア事業を生み育てる
月間UU数3,800万人(2022年12月時点)、総有料加盟店舗数は約43,000店(2023年3月期)。
会員ユーザーと飲食店ネットワークに圧倒的な強みをもつ、ぐるなび。同社の特徴はレストラン予約ができるグルメ情報サイトを運営するにとどまらず、店舗の業務支援ツールの開発や販売も手掛け、「飲食店の経営支援企業」へ進化を加速している点です。
SHIFTは2021年8月、ぐるなびとの資本業務提携を発表しました。運命共同体として、次期コア事業を創出・成長させるためにトータル支援を行っています。
SHIFTのコンサルティング部、DAAE部、戦略営業部を中心に各部署のメンバーが一丸となって事業戦略の立案に注力していますが、「飲食DX」が大きなテーマです。
※DAAE(ダーエ)とはSHIFTが提唱する、開発における新たな価値基準。Design(デザイン)・Agility(迅速性)・Assembly(組み合わせ)・Economic Quality(経済品質)の頭文字。
激動する飲食業界を物語るのはコロナ禍からの復興、「時給1,800円」のアルバイト求人が露呈する人手不足です。それでも採用できないと語る飲食店経営者もいるほど。何とかオペレーションをまわすため、テーブルトップオーダーやキャッシュレス決済導入による入店から退店までのデジタル化が進みます。
「昨今はモバイルオーダーや非接触端末の導入、これからはインバウンド客が増えることを見越した多言語対応のメニュー表示などが加速しそうです。業界のDXはこれからもつづくでしょう」
そう語るのはDAAE部のK.K.。市場が大きく変化しつづけるなか、SHIFTはぐるなびに対してどのような支援を行っているのでしょう。
「SHIFTの強みである開発の品質管理はもちろん、プロダクトの開発、広報や採用など横断的に支援しています。ビジネスサイドにおいても超上流の事業戦略から業務プロセス改善、営業活動などの型化まで業務は多岐にわたりますね」
例えば小規模飲食店向けの戦略検討。現事業の改善点から次の手をPLに落とし込んだ提案がぐるなびの経営会議で協議され、同社の方向性にも大きな影響を与えるとのこと。会社の方向性を決める重要テーマを支援できているのは、根底にSHIFTへの信頼があるから。
「両社が手を組んで最初は、 “何を一緒に取り組みましょうか”からのスタートでした。こうした課題があるのではという仮説に対して、SHIFTが出せる価値をフラットにディスカッションして。関係性の構築は、今からお話しする『ぐるなびFineOrder』というプロダクトの支援から始まりました」(K.K.)
DXで難しいのは「浸透」。ヒントは現場・現物にあり
ぐるなびが次期コア事業として取り組んでいるのがモバイルオーダーシステム『ぐるなびFineOrder』です。来店者のスマホで注文と会計ができるものですが、SHIFTは同システムが販売されだして半年ほど経ったころ支援をスタートしました。
「『ぐるなびFineOrder』の成長に向けた事業戦略、業務プロセス、開発、評価までを全面的にバックアップしてほしいというのがSHIFTへの要望でした」(K.K.)
彼は外食業界ならではのDXの難しさは、仕組化したあとの“浸透”にあるといいます。
「現場で働く方々のITに対する感度やスキルセットには、ばらつきがあります。 ITがなくても調理から配膳まで何とか業務はできてしまうなかで、彼らにDXの必要性を理解してもらい、さらに定着までとなると一筋縄にはいきません。
例えば大手になるほどオペレーションやマニュアルが完成されていますし、飲食店へ来店されるお客様は従来の注文方式に慣れている。そうした既存の枠組みが一定確立されているなかで混乱なくやり方を変えるための導入設計が非常にハードルの高い部分です」 (K.K.)
『ぐるなびFineOrder』でも、店舗での利用率が向上しないという課題があったそう。
「使われていない状況を確かめるため、実際の店舗に赴きました。店内の様子を観察してみるとシニアや常連客が多く、メニューを見ずに注文をする様子や、お水をもっていった際に口頭注文されてしまうシーンが見受けられました」 (K.K.)
せっかくモバイルオーダーシステムを導入しても、口頭注文されては想定していた費用対効果は得られません。現場で得た一次情報から、例えばお水はセルフにする、ポップやQRコードの見せ方を変える、客単価をあげたいという背景があった場合には売りたいメニューの表記を変えるなど解決に向けた打ち手についてディスカッションを重ねました。
こうした取り組みを踏まえて、『ぐるなびFineOrder』導入後により多くのお客様へ利用してもらうためのコンサルサービスとして「定着化支援」が形作られました。現在は大手のお客様を中心に評価いただき、サービスを支える大きな価値となっています。愚直な行動から成果を出したことで、ぐるなびとの関係構築にもつながったとK.K.は振り返ります。
“おせっかい”がSHIFTのスタイル。事業のために、なんでもやる
「SHIFTはITサービスを使って、お客様の課題に対してなんでもやろう、というスタンスの会社です。“おせっかい”と代表の丹下もよく発言しますが、どこまでも踏み込んでいくという点がIT企業として他社と一線を画す部分だと思います」
デジタルサービス統括部 統括部長として、ぐるなびへの支援をリードする小林哲也はいいます。
前述した『ぐるなびFineOrder』の件でも「おせっかい」の例は枚挙に暇がありません。
「メインターゲットである大手チェーンだけではなく、小規模飲食店向けにも販売していきたい。そこでSHIFTはそうした小規模飲食店向けモバイルオーダーのベンダーとつながり、彼らの製品を売ってみて市場の反応を見ようと動き出しました」(小林)
営業活動に必要なLPや動画制作を、1週間足らずで進めたフットワークの軽さがSHIFTらしい。結果的にはまだニーズが顕在化しておらずマーケットが成熟していないことや、営業コストが膨大にかかってしまうことが確認できました。
行動して得られた知見は、別のシーンで役立たせればいい。今後数年で人手不足がますます深刻になることを踏まえ、来るゲームチェンジに対応する事前活動と捉えたいところです。
そのほかにも、SHIFTのお家芸である「型化」を4つの領域で手掛けたとK.K.は語ります。
・お客様への提案書
・『ぐるなびFineOrder』の導入効果を定量的に明示するためのデータ分析
・前述した同システムの利用率向上のための定着支援施策
・来店者の満足度や製品改善に用いるデプスインタビュー
「こうした型化とナレッジ共有というムーブメントを社内でつくりだし、今後の事業推進を下支えする基盤をつくりました。組織として活動を推進するためにも、型化によって関係者と共通言語をもつことは非常に大切だと考えています」(K.K.)
営業活動や組織の基盤づくりにまでコミットする。ぐるなびとの取り組みにおいて、SHIFTはあらゆる気付きを「おせっかい」に変えています。ITサービス提供企業でありながら、「そこまでやるの?」と周囲が驚くようなことにまで足を踏み入れていくのです。
意識的に「領空侵犯」できる人が求められている
こうしたコミットメントに、組織や部署の垣根は足かせになる。だがぐるなびとの取り組みにおいて一切の垣根はないと小林はいいます。
「ぐるなびの経営陣と各現場部署の両方と接点を持っているからこそ、両者の立場からの視点を組みいれた勘所のよい提案ができると考えています。そしてSHIFT内でも、デリバリ―部署含め色々な部署やグループ会社と連携してもてる力をすべてぶつけた“ONE-SHIFT”での支援を心がけています」とK.K.は付け加えた。
この仕事に求められること、それは「価値を生み出すという覚悟」だと彼はつづけます。
事業成長のために自らの役割に制限を設けず、やるべきことをやりきる。状況が変わりつづけるなか、考え行動しなくてはいけないことは山積みです。スコープが決まっていないフェーズに身を投じ、フラットな視点で相手の悩みに対して遠慮せずに提案をする。そしてぐいぐいと関係者を巻き込んで推進していく。
そんな覚悟ある“おせっかい”を、「意識的に領空侵犯できるひと」そう言い換えた小林の言葉が印象的でした。
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)