「ビジネスの成功」と「技術への好奇心」、両者をいかに両立させるか(エンジニア組織の未来 vol.2) 

2025/02/07

2024年12月4日、SHIFTが手がける技術イベント「SHIFT EVOLVE」において、「ビジネスの成功×技術への好奇心(エンジニア組織の未来vol.2)」と題されたセッションが開催されました。

今回は、SHIFTのエンジニアを統括するVPoEの池ノ上が、ポッドキャスト番組『EM.FM』のパーソナリティーも務める、株式会社カケハシ執行役員CTOの湯前慶大氏をお迎えして、ビジネスの成功とエンジニアリングについて語りあいました。

技術を追求しつづけたいエンジニアの好奇心を大事にしながら、ビジネスを成功させるエンジニアリングを実現するには、どうしたらよいのか。エンジニアとして、またCTO/VPoEとして、それぞれの目線に立って議論を深めました。

  • 湯前 慶大 株式会社カケハシ 執行役員CTO

    株式会社日立製作所にてLinuxカーネルの研究に携わった後、2014年に株式会社アカツキに参画。エンジニアやエンジニアリングマネージャーとして複数のプロダクトを担当し、2017年よりVP of Engineeringとして全社エンジニア組織のマネジメントに従事。2020年に執行役員 職能本部長に就任して以降は、ゲーム事業全体のマネジメント業務に携わる。2023年3月に株式会社カケハシに参画。新規事業領域のVP of Engineeringを務めた後、2024年3月にCTO就任。

  • 池ノ上 倫士 株式会社SHIFT サービス&テクノロジー本部 VPoE

    SIer、スタートアップベンチャーを経て現職。SIerでは商品数2,000万件を超えるECシステムの開発・保守・運用を経験。スタートアップでは、不正対策・安全対策などのサービスを開発、経営にも携わる。2017年SHIFT入社後は、技術組織の醸成拡大に従事、数名の組織を1,000名以上に拡大した。現在はVPoEとして、組織的技術力の強化を担う。

※SHIFT EVOLVEとは?
SHIFTグループが主催する技術イベント。エンジニアの学びの場をつくりたいという想いで運営し、メンバー登録者数は3,700人を超える(2024年12月時点)。開催予定のイベントは以下よりチェック。
https://shiftevolve.connpass.com/

目次

SHIFTのこれまでと、エンジニアキャリアとの向き合い方

まずは池ノ上より、SHIFTがこれまで行ってきた、エンジニア組織の運営に関する取り組み内容が紹介されました。

現在、さまざまなインダストリー領域で売上を拡大しているSHIFTですが、最初は、流通などからはじまり、金融といった領域へと事業を展開。 それぞれの業界知識をもった人材を採用するという形で順調に成長してきました。

「事業成長の過程で特に苦労したのはソリューション開発のマネジメントです。市場ニーズはトレンドに食いついていくものですが、我々はトレンドにすぐ飛びつくのではなく、いまあるところから一歩ずつ踏み出して、自分たちの知識を体系化していくというアプローチでやってきました」(池ノ上)

そしてご入社いただいた方へのリターンとして、SHIFTはあるべき職場環境を整えてきたことをご紹介。

例)
・勉強会や検定試験など、学びやキャリアアップの仕組みづくり
・CoE(センターオブエクセレンス)によるノウハウのマネジメント(提案営業責任、アセット開発、プロセス整備など)を実施
・イベントや技術ブログなどエンジニア個人が社外にでる機会の提供

こうした環境のなかで遂げられたそれぞれの成長は、役割等級制度(ミッショングレード制)により年2回評価されます。

2024年9月からはじまったFY2025。SHIFTは売上成長に責任をもつ事業部と、技術の進化に対して責任をもつソリューション本部という組織がそれぞれ事業経営を行う体制になりました。 

ソリューション本部は技術面で事業部を支援することはもちろん、新たなサービスの開発も行っており、ビジネスとエンジニアリングのいい関係性が築けていると池ノ上は語りました。 

カケハシの取り組み(湯前 慶大氏)

つづいて湯前氏より、「日本の医療体験を、しなやかに。」をミッションに掲げるカケハシの事業概要などが紹介されました。

カケハシは、薬歴や服薬指導をはじめ、服薬期間中のフォロー、業務のみえる化など、薬局のDXを推進している会社です。

「我々としては、薬局業務のDXは第一ステップであり、最終的な目標としては医療全体をどうよくしていくかにあると考えています。ですから、ここからさらに医療の深いところに入っていき、医療全体の課題を改善したいと考えています」

そんななか、湯前氏は現在のカケハシが置かれている状況を説明します。

「ビジネスとして期待されている成長率を実現してきたのを示すのが上側の線です。ただ、プロダクトの成長率はそんなにすぐに上がるわけではなく、期待値とのずれが品質ギャップとなって表れているのが現状です。具体的には、UXや機能数、非機能要件、技術的負債などがあげられ、それらに対してどう向き合うかが課題になっています」

ここからは、お二人によるトークが展開されました。特に重要なポイントをピックアップしてお伝えします。

ディスカッション①プロダクトの品質はどうやったら上がるのか

池ノ上:我々の主戦場である、いわゆるエンタープライズインテグレーションのなかでいわれる「品質」は機能的・非機能的な仕様と実態のギャップを指すのに対して、湯前さんのスライドの最後で示されていた「プロダクト品質」はビジネス的な期待値を表しているじゃないですか。

これは誰からの要求で、どういうギャップなのかを教えてください。

湯前:端的にお伝えすると、投資家ですね。我々のように投資を受けているスタートアップだと、年間成長率として売上の40%ぐらいは少なくとも成長することが期待されています。

急激な成長率を実現していくための組織の整備がたとえ十分にできていない状況であっても、売上を上げていく必要がある。

それが結果的にギャップを生んでいきます。もちろん、採用を増やすというのが一つの対処法にはなりますが、人を増やすだけでできる仕事なのかというと、そういうわけでもありません。

最初はすごく小さいギャップだったとしても、年々膨れ上がっていく。そのなかで、我々がなぜここの場にいるのか、何のためにやっているのかという情熱みたいなものが、結局は一番大事だなと感じています。

いまつくっているのは薬局向けシステムだけど、実はその先にいらっしゃる患者やそのご家族のためにやっているとか。いかによい技術的な資産をつくっていくかに、ちゃんと向き合わないといけないと考えています。

池ノ上:事業会社ならではという感じがして、うらやましさも感じます(笑)。

いまお話しいただいた内容ですが、実際に現場の第一線でコードを書いているエンジニアのみなさまも同じような目線なんですかね?

正直、僕自身が現場にいたときは、そんなことは全然考えていなくて、そういう思想になっていったのは40歳を超えてマネジメントサイドにきてからなんですよね。

湯前:そうですね。それこそ「医療は誰でもお世話になっている領域だと思うので、ちゃんと恩返しをしたい」みたいに考えているメンバーが多いです。

もちろん、一人ひとりのマインドセットだけでなく、例えばエンジニアが薬局業務改善に関わる際に、現場見学や患者インタビューを通じて、現状の理解や改善点をみつけることが重要とも考えています。

実際の声や視点を共有し、業務改善の目的を明確にすることで、モチベーションの維持や業務への姿勢を高めていると思います。

人それぞれの向き合い方を尊重しつつ、6つ掲げているバリューのなかでも「高潔(自分に矢印を向け、易きに流れず、言行一致で信念をつらぬこう。)」を大切にして、最終的にいいプロダクトやサービスを生み出せればよいと考えています。

ディスカッション②エンジニアが輝ける組織はどうやったらつくれるのか

池ノ上:SHIFTでは「相対評価ではなく、その人の絶対評価として市場価値でエンジニアを評価しよう」という思想があって、その考え方をベースに施策を考えています。

個人として頑張ってきたことが認められたことで、この会社をもっと大きくしていこうとか、いろんな人にこの会社のよさを知ってもらいたいとか。そういった考えが自然と芽生えていく人をみてきました。

湯前:いいですね、そうなんですよね。難易度が高いけど、成果が出たらめちゃくちゃすごいことになるとか、マネジメントする立場としてはそういう仕事をちゃんと渡していくことも大事だなと思います。

池ノ上:僕らの職業って、ポータビリティがめちゃくちゃ高いじゃないですか。世界中どこに行っても通用するエンジニアが、自分の会社を選んでくれたらいいなという思いで、日々仕事をしています。

そのために、「エンジニアが輝ける組織って何だろう」という議論はつねにしていて、だからこそ僕らは人という資本に投資する「人的資本経営」という経営の仕方をしています。

意識がすごく高い人たちがいる一方で、そうはいってもマインドとして振り切れない人って、やっぱりいるじゃないですか。そういう人に対するケアはどうされていますか?

湯前:そもそも別に僕、人を変えたいとは思っていなくて。

変わりたいかどうかはその人自身の課題なのでいいのですが、それとは別の視点として、事業として解くべき課題は何かということを適切に提示することが大事だと思っています。

池ノ上:よく分かりますが、それと技術スタックをあわせるのってけっこうむずかしくないですか?

湯前:むずかしいですね。でも、色々な方と面接・面談をしていったなかで、技術スタック以上に「それをどういうふうに解決しようと思ったか」というスタンス・姿勢の方が、実は大事なんじゃないかなと思っています。

そういう意味だと、何かやって失敗した経験も、めちゃくちゃ大事ですよね。失敗って絶対、誰しも起こることなので、その人にとってはすごくいい経験になっていると思います。

ディスカッション③ビジネスの成功×技術への好奇心

湯前:今回のテーマであるビジネスと技術の両輪についてですが、どちらが欠けてもよくないですよね。「売上がすべてを癒す」という言葉もあるとおり、ビジネスも技術も両方が本当に大事だよなと。

池ノ上:そこに異を唱える人ってほとんどいないと思うのですが、もしもそこに対立構造みたいなものを想像する人がいるとすれば、それは単に時間軸のズレだと思っています。

つまり、どのタイミングの成功なのかの認識が違うだけなのかなと。そこのゴール設定をチューニングしてあげるような役割があれば、組織としてうまくいくと思っています。

湯前:そうですね。対立構造があった時に「時間軸ってどうなんだろう?」と考えるのは、すごくいいフレームワークだと思います。

池ノ上:とはいえ、これってけっこうむずかしい話でもあって、特に我々のような企業って、いくら大きくなってもベンチャー企業ですから、今日の売上を上げないといけないわけです。と同時に、先のことも考えなきゃいけない。

結局、時間軸が違うだけだとわかったとしても、「で、どうする?」となってしまう。すごくむずかしいテーマなんだろうなって思いますね。

CTOをやっていらっしゃると、なんのためにやっているのかという観点での話が多くなりますか?

湯前:経営メンバーとはよく、そういう話をしていますね。大事なことは、相手が普段考えているフレームワークで話ができているかどうかだと思っていまして、テクニカルにそれができることが大事だと感じています。

「BSに跳ねる話なんです」とか、「PL的にこうなんです」みたいな感じで。

池ノ上:技術とビジネスを両立させることは、今後あたり前にあるものになっていくでしょうね。

湯前:そうですね。資本主義的に短期間に成功するものにしかチャレンジしない傾向があるなかで、技術の探求はしづらいというのはたしかにあるとは思います。

だからこそ、探求によってどれだけビジネスインパクトがあるのか。そこについての対話が非常に大事になってくるだろうと思います。

池ノ上:そこのマネジメントも、すごくむずかしいですよね。純粋な技術の探究って、ある種の娯楽や福利厚生としたら、見方を変えるとやりがい搾取と捉えられることもあるだろうなと。

湯前:弊社の場合、技術的な探究とビジネスを融合させるというある種の制約は、ポジティブに捉えていますね。

ビジネスとして成功したら、また新しい技術に投資できるようになる。もっと人を増やしたり、より工数をかけたりもできるよねと。

その正のループをどうまわしていくかを考えていくことが、大事なんじゃないかなと思っています。

池ノ上:その自由度は現場のエンジニアにもあるんですか?

湯前:お客様から期待されている期間やタイミングがあるなかでも、私たちはクオリティの高いものをだしたいと思うわけです。

質が担保できているかはマネジメントしつつ、「ちょっと余裕ができたから、このスプリントは自由研究だ」みたいな感じで探究するチームもあります。

池ノ上:すばらしい。その裁量がある程度現場に任されているわけですね。やっぱり、カケハシさんの組織はレベルが高いですね。

動画全編をご覧になりたい方はこちら

―――さまざまなテーマでイベントを開催中のSHIFT EVOLVE。「エンジニア組織の未来」と銘打ったシリーズは今回が二回目。次回以降もぜひお楽しみに。

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(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)