何をつくったかではなく、何を起こしたか。VUCA時代に必須の“価値重視”マネジメント

2026/10/06

PMI日本フォーラム2026 登壇レポート

「計画通りに精緻なモノをつくり、期日通りに納品する」——かつてプロジェクトの成功と信じられていたこの常識が、いま大きく揺らいでいます。 

社会・ビジネス環境の複雑性が増すなか、私たちが予測できない事象が次々と起こるVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる現代。

ビジネスの環境は刻一刻と変わり、昨日まで正解だったものが今日には通用しなくなることも珍しくありません。  

私たちは、お客様やエンドユーザーに対して、本当の価値をどのように届ければよいのでしょうか。 

本記事では、2026年7月11日から8月31日にかけて開催された「PMI日本フォーラム2026」に登壇したAI開発ソリューション部 アジャイルエバンジェリスト 渡会 健の講演内容をレポート。 

ウォーターフォールで20年、アジャイルで17年という両方のプロジェクトマネジメント手法を現場で実践・牽引してきた渡会の視点から、変化の激しい時代に求められる“価値重視(バリュードリブン)”なプロジェクトマネジメントに求められる思考を紐解いていきます。 

  • AI開発ソリューション部 アジャイルエバンジェリスト 渡会 健

    2025年、株式会社SHIFTに入社し、Customer Quality Agileを掲げて日々活動中。キャリア前半をPM畑で過ごした後、2008年に40代でアジャイルに出会ってからは、10年程受託開発で20件近くの実践を積み、その後コーチやコンサルとして50件以上の支援を行うなど、17年で70案件以上の多種多様な実践経験をもつ。マネジメント(≠PM)の力を信じ、その経験を活かしながら、一般社団法人PMI日本支部アジャイル研究会代表、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)アジャイルWG構成員等を歴任し、マネジメント視点と現場視点の両軸からアジャイル領域に貢献。 PMI日本フォーラム2025 優秀講演第6位(52講演中)。

目次

「計画通りのモノづくり」が揺らぐ、VUCA時代真っ只中の現代

プロジェクトマネジメントの世界で30年以上の経験をもつ私は、かつて成果物主義が当たり前だった時代を肌で知っています。

当時は、あらかじめ決めた要件を完成させ、QCD(品質・コスト・納期)に忠実であれば、お客様に喜ばれました。開発者も「つくり終えたらゴール!」と信じていたんです。 

なぜなら、当時は画一化された大量生産・大量消費の時代だったからです。

右肩上がりの経済成長のなかでは、成功の形もある程度決まっており、5年計画のプロジェクトであっても、完成時にはまだその価値が有効でした。 

しかし2020年代に入り、世界は一変しました。パンデミックによるリモートワークの急激な普及や、地政学的なリスクによるサプライチェーンの分断など、私たちの予測を超える大きな変化が日常的に起きています。

人々の価値観は多様化し、「これが正解」という画一的なニーズは姿を消しました。

こうした変化の激しい時代において、計画通りにモノをつくるだけではお客様の求める価値に追いつけません。

例えば、「RPAシステムをつくろう」とプロジェクトを進めていたのに、数ヶ月後には「生成AIの登場で前提がすべて変わってしまった」というようなゲームチェンジが平気で起こります。 

30年前の成功体験に縛られてQCDを満たした成果物を生み出しても、それが実際のビジネス環境で使えなければ価値はありません。

成果物のみに着目する手法では、変化のはやい時代への対応がむずかしくなる場合があります。

成果物から価値へ。世界基準が示すパラダイムシフト

では、そもそも成果物と価値は何が違うのでしょうか。 橋の建設をイメージしてください。つくられた橋そのものは目に見える“成果物”です。

しかし、橋をつくる真の目的は、「渋滞を解消したり、人々の生活を向上させたりすること」のはずです。橋がスケジュール通りに完成しても、目的が達成されなければ価値を提供できたとはいい難いでしょう。 

つまり、成果物とは「つくって渡すもの」であり、価値とは「受け取った人(受益者)に起きる変化や効果(意図した状況の実現)」なのです。

“価値重視”へのパラダイムシフトは、プロジェクトマネジメントの世界標準であるPMBOK®ガイドにも明確に表れています。 

第6版までは、いかに成果物を計画通りにつくるかというプロセスが重視されていました。しかし、第7版から第8版にかけて、PMBOK®ガイドは“価値重視”へと大きく舵を切りました。 

「価値こそがプロジェクト成功の最大の指標である」と明記され、成果物を生み出すことではなく、価値をどう実現するかに焦点が当てられるようになったのです。 

PMBOK®ガイドの変遷について詳述した記事も、ぜひご一読ください。

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一方、アジャイル開発の指針ともいえる「アジャイルソフトウェア開発宣言」も、本質的に追求しているのは価値の最大化です。

例えば、それに記された12の原則には、「価値のあるソフトウェアをはやく継続的に提供する」「開発の後期であっても要求の変更を歓迎する」といった項目があります。 

ウォーターフォールしか知らない人から見れば、開発後期の仕様変更は「とんでもないこと」かもしれません。しかし、お客様の競争力という価値を守るためには、変化を味方につける必要があります。

アジャイルは単なる開発手法ではなく、価値を最大化するためのマインドセットなのです。

アジャイル対ウォーターフォールではない。開発手法は向き不向きでフラットに選ぶ

ここで陥りがちなのが「いまの時代はすべてアジャイルでやるべきだ」という誤解、およびアジャイルの形骸化です。アジャイルとウォーターフォールは対立するものではありませんし、両者に優劣があるわけではありません。 

現在、「アジャイルを推進すること」自体が目的化してしまっている企業が散見されます。

アジャイルという言葉だけを輸入し、実態はウォーターフォール開発というような「なんちゃってアジャイル」では、変化への対応力は得られません。 

重要なのは、アジャイルかウォーターフォールかの二元論ではなく、目的(価値の実現)にあわせて最適な手段を選ぶことです。 

実際、プロジェクトの特性によって適した手法はまったく異なります。

ゴールが明確で、変更がほぼ発生せず、絶対に失敗が許されないようなインフラ構築などは、緻密な計画を立てて進めるウォーターフォールが適しているケースが多くあります。 

一方で、正解がどこにあるかわからず、試行錯誤しながら新しいサービスを生み出すようなイノベーション度の高いプロジェクトでは、短いスパンで反復し、変化に対応しやすいアジャイルが適しています。 

日本市場ではウォーターフォールが圧倒的に多い一方で、欧米ではプロジェクトの特性にあわせて両者が約半々で使い分けられています。そして、両者の違いがわかっている企業は業績が抜きんでています。 

私は、日本企業がアジャイルをフラットに選べるようになるよう啓蒙したいと思い、活動をつづけています。

お客様が本当に実現したい価値は何かを見極め、それにもっとも適したアプローチをフラットな視点で提案・実行してほしいですね。 

方向性を共有し、リスクも分担する。発注者と受注者を超えた、真のパートナーシップへ

価値を重視するプロジェクトにおいて、もっとも重要なキーワードが“協働”です。 

従来の成果物重視のやり方では、プロジェクトの初期段階で要件を合意し、あとは完成時に出来栄えを確認するだけでした。

しかしVUCAの時代では、数ヶ月もコミュニケーションを取らなければ、完成したころには「いまほしいのはこれじゃない」というズレが生じやすくなっています。 

価値を実現するためには、刻一刻と変わる状況をお客様と共有し、つねに期待値をすりあわせつづける密なコミュニケーションが不可欠です。 

そして、協働を進めるためには、「発注者が命令し、受注者が従う」という固定的な役割意識を見直すことが重要です。 

何をつくるか(What)の要件を固定するのではなく、何のためにつくるのか(Why)という方向性を深く共有すること。そして、成功の果実だけでなく、プロジェクトに伴うリスクも両者で分担すること。

このような真のパートナーシップがあってはじめて、変化を恐れずに最善の解決策を模索することができます。

この協働の輪は、開発チームの内部だけにとどまりません。チーム内の壁を越えたら、次はチーム間の壁、そして最終的には発注側・受注側を含めた組織全体の壁を越えていく必要があります。 

多様な意見を尊重する敬意をもち、ともに成長を目指し、最終的には事業の利益や本来の目的を達成する。この一体感をもった組織づくりが、価値創出を支える基盤の一つになると考えています。

価値に向き合ってはじめて得られる。全員が幸せになる、三方よしの未来

つくって終わりの関係から価値を共創する関係へとシフトすると、プロジェクトの景色は一変します。 

「納品したから終わり」ではなく、「世に出したこのプロダクトを使って、次にどんな価値を生み出そうか」と、未来をいっしょに語りあえるようになります。

そこには、単なるベンダーとお客様という関係を超えた、長期的で安定的な信頼関係が生まれます。 

価値に向き合うことは、関わるすべての人を幸せにする”三方よし”の未来をもたらします。 

1. お客様にとっての価値:変化に強い事業運営が可能になり、市場での競争力と成長を手に入れます。 

2. 開発チーム(受注者)にとっての価値:「いわれたからつくる」というやらされ仕事から解放され、「自分の仕事が誰かの役に立っている」という納得感と熱量を得られます。 

3. 個人(エンジニア・PM)にとっての価値:お客様の事業を深く理解し、幅広い課題解決に挑むことで、圧倒的な自己成長と新たな機会を獲得できます。 

「何をつくったか」ではなく「何を起こしたのか」。 

プロジェクトの真の成功は、生み出されたプロダクトが実際に使われ、人々の生活やビジネスに意図した状況をもたらしたときにはじめて達成されます。

成果物の先にある効果までをともに見届ける姿勢こそが、これからの不確実な時代を生き抜くための強力な武器となるのです。

SHIFTはこれからも、お客様と真のパートナーとして向き合い、変化に強いチームをつくり上げながら、お客様・チーム・社会の“三方よし”を実現する価値創出に挑みつづけていきます。 

あなたもいま、目の前にあるプロジェクトの成果物から視線を上げ、その先にある価値を見つめ直してみてはいかがでしょうか。 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです) 

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