生成AIで自治体の電話対応はどう変わる?品川区の実証実験

2026/09/30

AWS Summit Japan 2026 登壇レポート 

年間約100万件にものぼる電話対応。これは品川区が直面している切実な課題です。 

人口減少や職員不足が進むなか、品川区はSHIFTとともに生成AIを活用した電話対応の自動化に取り組んでいます。 

AWS Summit Japan 2026では、「区民の問い合わせ、AIにどこまで任せる? ─ 品川区×SHIFTが挑む自治体音声AI実証の現在地」をテーマに、実証実験の内容とそこでみえてきた課題、技術的アプローチが紹介されました。 

本記事では、AIに任せる業務と人が担う業務をどう切りわけたのか、また複雑な行政業務をAIに理解させるためにどのような工夫を行っているのか、その取り組みをレポートします。 

  • 品川区役所 企画経営部 DX戦略担当部長 CIO・CISO 西澤 拓氏

    2009年に日立製作所へ入社。15年間にわたりITエンジニアとして従事し、2024年に品川区へ入庁。現在は企画経営部 DX戦略担当部長兼 CIO・CISO として、現場課題から経営課題まで幅広く自治体DXを推進している。

  • 開発本部 アライアンス推進グループ シニアクラウドアーキテクト 寅野 理司

    新卒から一貫してIT業界に従事。独立系SIerでアプリケーションおよびインフラエンジニアや大規模PMOを経験した後、アクセンチュア株式会社でアウトソーシングコンサルタント、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社でクラウドインフラアーキテクトなど、ITに関するさまざまな経験を経て、2021年8月にSHIFT入社。現在はAWSのプロフェッショナルとして、お客様へのアーキテクチャ検討からデリバリーまでを一気通貫で担当しつつ、SHIFTのAWS CCoE活動を牽引している。2026/2025 Japan AWS Top Engineer (Services)、2026/2025/2024 Japan All AWS Certifications Engineersに選出。

目次

年間約100万件にのぼる電話対応。品川区が取り組む自治体DX

品川区 西澤氏:現在の自治体は「深刻な担い手不足」と「業務量の増大」という二つの課題に直面しています。

日本の人口減少と高齢化により、2050年には高齢者の割合が約2.6人に1人になると予測されています。これにより、自治体職員の担い手不足が深刻化しています。

特別区(東京23区)の採用倍率はここ10年で3分の1まで低下しました。

職員の確保がむずかしくなるなか、年々変わる法制度への対応や、多様化する住民ニーズへの対応など、行政特有の業務は増えつづけています。

一方で、住民対応業務の多くにはアナログな業務がまだ残っており、住民との主要な接点も窓口や電話に集中しています。

そこで品川区が着目したのが生成AIを使った電話対応の自動化でした。

AIで対応できない内容は人へ引き継ぎながら、定型的な問い合わせはAIが担い、職員は判断を伴う対応に集中できる体制への移行を目指しています。

品川区の代表電話には年間約100万件の電話が寄せられており、戸籍住民課や税務課、国保医療課といった窓口系部署への問い合わせが大半を占めています。

そのため、本実証実験では、代表電話からの転送件数がもっとも多かった戸籍住民課の転入手続きを対象に設定しました。

「AIと人の役割分担」を明確に切りわけ

品川区 西澤氏:戸籍住民課のAs-Is(現状)の電話対応は、代表電話で受付担当者が要件を確認したあと、担当課へ転送し、オペレーターがFAQやマニュアルを参照しながら回答するという流れです。

回答がむずかしい場合は職員へエスカレーションしており、人手中心の対応を行っています。

To-Be(AI導入後)では、住民からの電話を直接AIが受けて要件を聞き取り、AIがFAQやマニュアルを参照して定型的な問い合わせに回答します。

AIが答えられない場合のみ人間のオペレーターへ、さらにむずかしければ職員へ転送する仕組みを実現しようと考えました。

以下の5点に期待し、Amazon Connectを採用することに決めました。

この取り組みでは、最初からすべてをAIに任せようとは考えていません。「何をAIに任せ、何を人が担うのか」という役割分担を切りわけていきました。 

AIには、一般的な問い合わせへの回答とマニュアルに沿って答えられることを任せ、AIがわからないことは人につなげてもらいます。

個別事情への配慮や例外的なケースの判断、専門部署との連携が必要な業務は人が担う領域として定義しました。

AI活用の現場で直面した3つの課題

品川区 西澤氏:この取り組みを進めるなかで、大きく3つの課題に直面しました。

1つ目は「条件や属性をどう聞き出すか」。
行政手続きは複雑な手続きフローや条件が絡みあっており、申請者の属性によって必要な案内や必要書類などが変わってきます。

例えば転入手続きでも、新規転入なのか、外国籍なのか、代理人による申請なのかによって必要書類が異なります。そのため、申請者の属性を正しく把握する必要がありました。 

2つ目は「知識や制度をどう読ませるか」。
元々使っていたExcelベースの業務マニュアルは、セルの結合が多かったり、画像データを使っていたりして機械可読性がよくありませんでした。

人間向けにつくられたものを、どのようにAIが扱える形にするのかが課題となりました。 

3つ目が「ハルシネーションをどう防ぐか」。 
転入手続きの問い合わせであっても、会話の流れのなかでマイナンバーカードや児童手当、国民健康保険といった関連手続きの話題に及ぶことがあります。

こうしたスコープ外の内容について、AIが誤った案内をしてしまうリスクをどのように抑えるかも重要なテーマでした。

多段階対話設計とAIネイティブ変換で挑んだ解決策

SHIFT 寅野:現場でみえてきた課題に対して、どのような技術的アプローチを実施したのか、2つご紹介します。

まず1つ目は、属性ベースの多段階対話設計です。 

問い合わせ者の属性の組み合わせによって、必要な案内が変わってくるため、一問一答形式では問い合わせ者の正しい属性を把握することができません。

そこで、問い合わせ内容の確認を終えると、問い合わせ者の属性確認を進めるという多段階の問い合わせ対応フローを設計しました。

Amazon Connectの標準機能にAmazon Bedrockを組み合わせ、 AIが利用者の回答に応じて必要な情報を確認する仕組みを設計しています。

従来のルールベースのチャットボットではなく、業務マニュアルをベースにしたRAG(検索拡張生成)と、AIオペレーターとして定義されたふるまいをAIエージェントが活用し、まるで人間のオペレーターのように「ご本人の手続きですか?」「転出証明書はおもちですか?」といった形で対話を進めながら属性を確認していきます。  

一方で、こうした対話を実現するには、AIが業務知識を正しく理解できることも欠かせません。

そこで必要になったのが2つ目のアプローチである業務マニュアルのAIネイティブ変換です。

既存のExcelベースの業務マニュアルは、セルの結合があったり、補足情報が欄外にあったりと、人間が文脈を補いながら読むことを前提につくられていました。

そのため、そのままRAGに取り込んでも、AIが正確に理解できず、適切な回答を生成できませんでした。 

そこで、AIエージェントが正しく回答できることに加え、職員の作業負担を最小限に抑える形で、Amazon Simple Storage Service(S3)に格納された業務マニュアルを、AWSとAmazon Bedrockを使ってAIネイティブな形式へ自動的に変換するアーキテクチャを構築しました。

ハルシネーションを防ぐために、変換プロセスのなかで決定木モデリングやセマンティックチャンキングも実施しています。

また、転入手続きに関する問い合わせ中に児童手当などスコープ外の質問があった場合には回答しないよう、ガードレールも設定しました。

自治体、SIer、プラットフォーマーの専門知を結集

品川区 西澤氏:今回の実証実験は、品川区とSHIFTさん、AWSさんとともに取り組んでいます。

自治体の業務現場における課題解決に向け、自治体とSIer、プラットフォーマーの方々と本取り組みを進められたことは、品川区にとっても非常によい機会になったと考えています。 

SHIFT 寅野:西澤様と同感です。技術的な対応が困難なところも、AWSのアーキテクトや、SHIFT社内の生成AIのスペシャリストの方々の力をいただきながら進めることができました。

各領域の専門家の力を結集して推進でき、よいプロジェクトになったと感じています。 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)  

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