いま、国内の防衛産業は過去50〜60年の歴史のなかでも最大級の変革期を迎えています。
AIや民間の先端技術が急速に進化し、「高品質なものを時間をかけてつくる」という従来の開発手法だけでは、国際情勢の変化に対応できず、脅威に立ち向かうことは困難になりつつあります。
そこで防衛の現場では、ITに関する民間の知見やアジャイル開発を取り入れながら、これまでの常識そのものを見直す動きがはじまっています。
今回、話を伺ったのは、SHIFTおよびSHIFTグループで防衛産業特化のコンサルティング企業である株式会社Japan Aerospace & Defense Consulting(JADC)で顧問を務める3名。
防衛省、自衛隊、防衛装備品製造企業の要職を歴任した彼らへのインタビューから、防衛産業のいまと、なぜ私たちSHIFTが国家中枢のプロジェクトで求められる存在になっているのかを紐解いていきます。
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インダストリー顧問 渡辺 秀明 氏
初代防衛装備庁長官、現・防衛技術協会理事長。防衛技術全般の見識に加えサイバーセキュリティに関する知見も高く、「産業サイバーセキュリティ基準」(米国NIST SP800-171準拠)の日本導入を推進するなど、国家安全保障領域において広範囲に活躍。
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インダストリー顧問 岩﨑 茂 氏
防衛大学校(第19期)。航空工学を専攻し、1975年、防衛大学校を卒業後に航空自衛隊に入隊。第201飛行隊長、第2航空団司令、航空幕僚監部人事教育部長、西部航空方面隊司令官、航空幕僚副長等を経て、2009年、航空総隊司令官に就任。2010年、第31代航空幕僚長に就任。2012年には第4代統合幕僚長に就任。退官後は防衛大臣政策参与を務めた。現在は、隊友会理事長、日本安全保障危機管理学会会長等を務めている。
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インダストリー顧問 原 芳久 氏
1983年に三菱電機株式会社へ入社以来、一貫して防衛宇宙事業に従事。航空機搭載用合成開口レーダー、衛星搭載用合成開口レーダーをはじめ、さまざまなレーダー開発に携わる。2016年4月に同社鎌倉製作所長、2018年4月に通信機製作所長に就任。2019年から2023年まで防衛宇宙システム事業本部長を務め、三菱電機において防衛宇宙事業を統括した。また、2020年から2021年まで日本航空宇宙工業会副会長を務めた。
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目次
防衛産業の最大のボトルネックは「開発スピード」
――本日は防衛分野の顧問のみなさまにお集まりいただきました。防衛産業において、技術面ではどのような変化が起きているのでしょうか。
渡辺氏: 防衛装備品もIT化、AI化が進んでいますが、自衛隊や国内大企業の装備品ソフトウェアは未だC言語などの古いソースコードで構築されており、脆弱性を抱えています。
陸海空だけでなく宇宙・サイバーが主戦場となるなか、この「装備品自体のサイバーセキュリティ」という、目立たないが致命的になりえる課題をどう克服するかが、いままさに最大の課題となっています。
原氏: 予算が倍増されることもあって、防衛産業の現場では過去にないレベルの量産に対応しています。さらに海外共同開発も急増しており、国際共同ファイナンスや交渉能力の不足も課題となっていますね。
最大のボトルネックは、開発スピードです。従来の「研究開発から部隊装備まで10年以上」を費やすウォーターフォール方式では、製品が完成した頃には、激変する環境や脅威に適合できません。
今後は開発期間を大幅に短縮し、スタートアップや民生IT企業とアジャイル方式で迅速に実装していく仕組みが不可欠です。
岩﨑氏: 戦い方のルール自体が非対称(非等価)に変化していますよね。
数百億円もする精緻な装備品が、安価な民間ドローンによって無効化されている。1機100万円のドローンを10億円の迎撃ミサイルで撃ち落とすような非効率な戦い方は、防衛費をどれだけ増やしても国家を破綻させます。
UAV(無人航空機)とAIを融合するなど、低コストな装備品へのパラダイムシフトが必要です。
原氏:宇宙領域をみても、新鋭スタートアップはミルスペック(軍用規格)ではなく「民生スタンダード」で人工衛星をつくっています。
1個ずつの完璧な品質保証ではなく、予備機を前提として「サービスレベルで稼働を保証する」という、極めて合理的かつ迅速な民生ITの思想で動いています。
この民生スタンダードをいかに防衛に持ち込めるかが、勝敗をわけるのです。
現場に向き合い、本質的な課題を紐解く実装力
――そのような「民生IT」と「旧来の防衛慣習」の狭間で、双方のブリッジとなり実装力を発揮できるのがSHIFTとJADCですね。最近はどのようなプロジェクトが動いていますか?
原氏: 陸上幕僚監部(陸幕)からは2025年度に大規模装備品中心のRMF業務を受託しました。2026年度においても、新たに業務を受託しています。
さらに、防衛装備庁のAI装備品等の技術的審査に係る支援役務を落札したり、 ある組織からのAI関連の付帯設備調査を受託したりもしています。
―――なぜ、これほどの超難関プロジェクトが大手のシンクタンクや戦略コンサルではなく、SHIFTに集まるのでしょうか。
渡辺氏:SHIFTとJADCはより現場のリアルな課題にフォーカスし、民間IT市場ならびに装備品製造現場で培った品質保証の実装力を活かした具体的な実務解決にこだわっているからです。
有識者の知見をまとめたレポート作成などの支援手法が有効な場面もなかにはありますが、私たちは設計・改訂、そして現場のシステムを実際に動かすところまで実装・監査できる存在だからこそ信頼を置かれているのです。
岩﨑氏: その強みは、自衛隊OBから民生サイバー、AI専門家、装備品設計製造、コンサル出身者など「人材の多様性」によるものです。
多様な人材が上から、下から、斜めからアプローチすることで、物事の真の立体像がみえてくる。この自由な発想と圧倒的な集合知こそが、急変する安全保障環境を突破する最大のエンジンになっています。
渡辺氏:いろいろな装備をつくっていた側の人、使っていた人、開発者などいろんな方が仲間になってくれていますからね。
あらゆる視点で課題をみつけることもできるし、発想の転換もできる柔軟な組織だからこそ、真に破壊的なイノベーションを起こすことができる。予測不可能なこれからの時代に対応するには、この“異能の多様性”が必要不可欠です。
デュアルユースの時代だからこそ、防衛経験の有無は問わない
―――現在、SHIFTとJADCではさらなる組織強化に向けて、シンクタンク、コンサル、SIer、ハイテク産業出身の方々の採用を強化しています。どんな方が活躍できるのでしょうか。
岩﨑氏:「防衛の専門知識がない」は壁になりません。現代の防衛は「デュアルユース※」の時代です。
※民間(民生)と軍事の両方の分野で利用できる技術・製品・サービス
宇宙、サイバー、ネットワーク、AIといった領域は、民間企業こそが最先端のノウハウを蓄積しています。民間IT業界やビジネスファームで培ったプロジェクトマネジメントやアーキテクチャ設計、ネットワーク構築の能力は、そのまま防衛という国家レベルのフィールドで最大の武器になります。
JADCには「衛(まも)るを、守る。」というスローガンがあります。防衛産業を「儲かるから参入する、成長率の高いハイテクビジネス」と捉えることなく、「国に貢献したい」「日本の安全を守りたい」という確かな使命感を抱いています。
―――共通の価値観をもちながら、専門分野は多様なんですね。
渡辺氏:経験を積んだプロフェッショナルにとって、これほど面白い環境はありません。 製造や設計の一部分からではなく、国家の防衛戦略から実際の運用までを俯瞰し、現場を導いていく。これは極めて知的でダイナミックなやりがいです。
現在、日本の防衛省や防衛大企業は、セキュリティ要件「RMF」や、拡張性をもたせた設計思想「MOSA(オープンシステムアーキテクチャ)」への対応を前に支援者を求めています。
RMFの実装とは、単なるセキュリティ対策ではなく、製造から実際の運用承認(オーソライゼーション)に至るまでの「ライフサイクル全体」を統合的に理解し、ものづくりのあり方を根本から変えることです。
少しでも先にRMFやMOSA、アジャイル、DevSecOpsの本質を深く理解していれば、 戸惑う巨大防衛産業に対して、私たちが「こっちが正しい方向だよ」と先生役の立場に立てるのです。
原氏:昔の防衛事業というのは極めて狭いサプライチェーンに閉じた狭い世界でした。しかしいまは、数千億円規模の防衛システムに民生の最先端技術を注ぎ込み、変革していく地殻変動がまさに起きています。
「自分の経験を社会や国家を動かす課題で試し、日本の防衛を導きたい」——そんな挑戦意欲に溢れた方々の参画を、私たちは心からお待ちしています。
――本日は、貴重なお話をありがとうございました!
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)