組織の「ひずみ」は飛躍のサイン。7,000人超のエンジニア組織を動かすSHIFT流マネジメント論 Developers Summit 2026 登壇レポート
2026年2月18日から20日にかけて、毎年開催されているITエンジニアのための祭典「Developers Summit 2026」が開催されました。
本イベントのダイヤモンドスポンサーを務めるSHIFTからは、開発事業部 事業部長の伊藤 隆介が「急成長した企業のエンジニアマネジメント~7,000人超のモチベーションを保つ3つの秘訣~」と題したセッションに登壇しました。
ソフトウェアの品質保証事業を中心に現在は年間売上高3,000億円を目指すSHIFT(SHIFT3000)。急激な拡大は、組織の内部に「ひずみ」を生じさせがちです。
多くの企業では、このひずみを解消すべき問題として捉える傾向にありますが、SHIFTはそれを成長のためののびしろと定義し、組織の駆動力に変えています。
本記事では、伊藤が実践する、個人と組織の成長を加速させる三つの極意について紐解きます。
-
開発事業部 事業部長 伊藤 隆介
1979年生まれ。独立系大手SIerでキャリアを開始。PG、SE、PMを経験し、海外事業企画・海外拠点責任者を務めた後、2017年にSHIFTに入社。品質保証PMを数案件担当後、EPF前身のBP推進部長を拝命。エンジニアプラットフォーム事業を企画・推進し、現在はEPFサービスを推進している。1児の父。
目次
ひずみは悪いことではない。「成長のためののびしろ」と捉える逆転の発想
経営の方針にも現場の声にも、それぞれ正しさがあります。しかし立場や視点が異なるため摩擦が生じることが多々あります。
経営層からトップダウンで降りてくる「世界を変えたい」というような熱いビジョンは、現場にとって重荷になることがあります。
一方で、現場からも「もっとこうしたい」「技術的にこれを追求したい」といった要望が発生することもあるでしょう。
加えて、組織が大きくなればなるほど、部署間の横連携においても、それぞれの視点の違いから摩擦が生じます。
多くのマネージャーは、これら経営層と現場、あるいは部署間の板挟みになり、この状況を解消すべきネガティブな問題(ひずみ)と認識しがちです。
ですが、SHIFTでは「ひずみは悪いことではない」と捉えています。むしろ、ひずみがない組織には成長もないと考えます。
組織がより高くジャンプしようと変化を起こせば、必ず摩擦やひずみが生じます。つまり、ひずみがない状態というのは、摩擦を避けて「現状維持」に留まっている証拠なのです。
企業が成長する際には、高い目標と現状のギャップ、変化への抵抗と推進力の衝突など、至る所にひずみが生まれます。これは組織が生きている証拠であるとともに、組織に健全な成長痛が起きているともいえます。
極意①:意思を引き出すマネジメント。命令ではなく「選択肢」を渡す
ひずみを成長のエネルギーに変えるには、三つのポイントがあります。
一つ目は、個人の意思を育てること。そのためにSHIFTでは、メンバーに対して「あなたはどうしたいのか」を引き出す問いかけを徹底しています。
人は他者から強制された目標に対しては、もてる能力のすべてを発揮することができません。自分の意思でコミットしたときにはじめて、主体性が生まれ、成長が加速します。
そのため、マネジメントの第一歩は、メンバーのなかに「こうしたい」「こうなりたい」という意思を芽生えさせ、強くすることにあります。
では、どのようにして意思をもたせるのか。SHIFTでは「選択肢を与えること」を重要視しています。
例えば、エンジニアが描く「3年後の理想像」というゴールがあったとします。そこに至るルートは一つではありません。技術を極めるルートもあれば、マネジメントするルートもあります。
マネージャーの役割は、ゴールへ導くための多様な選択肢を提示することです。
例えば、私は「君の目指す場所に行くには、今のスキルに加えてこれが必要だ。だから、次はAのプロジェクトでこの経験を積むか、あるいはBのプロジェクトで別の視点を養うか、どういう道筋がいいと思う?」と部下に問いかけています。
複数の選択肢を提示されたメンバーは、そのなかから自らの意思で一つを選び取ります。「上司にいわれたからやる」のではなく、「自分でこれを選んだ」という事実が、仕事へのオーナーシップと責任感を醸成します。
自ら選び取った道で成長機会を得て、上司から適切なフィードバックを受ける。このサイクルを回すことで、個人の意思はより強固なものへと育っていきます。
もちろん、このプロセスを機能させるには「心理的安全性」が不可欠です。安心して相談できる関係性があってはじめて、メンバーは本音を語ることができます。
さらに、フィードバックでは「ポジティブな変換」を意識しています。メンバーが抱える悩みの多くは、自分ではコントロールできない環境要因(変えられないもの)に向きがちです。
マネージャーは、それを「解釈を変えることで乗り越える」あるいは「自分で変えられる行動にフォーカスする」ように導き、ネガティブな状況をポジティブな成長機会へと変換して伝えることが求められます。
少しアカデミックな話になってしまいますが、深いレベルでメンバーの意思を引き出すために、私はアーノルド・ミンデルの提唱する「3つの現実レベル」という概念を対話に応用しています。
通常の業務ミーティングでは「現実レベル」の話に終始しがちです。ですが、それでは会話は退屈になりますし、深い共感が部下のなかに生まれません。
そこで意識的に「私はこういう世界観をつくりたいんだけど、どう思う?(ドリームレベル)」や「君のその考え、すごくいいね(エッセンスレベル)」といった話を織り交ぜます。
業務の話と夢や想いに関わる話を行き来させることで、メンバーは「自分のことを深く理解してくれている」と感じ、業務と自分のビジョンが接続され、モチベーションが飛躍的に向上します。
極意②:「組織の未来を想像させる」。マネージャーは経営と現場をつなぐ「翻訳者」であれ
ひずみをエネルギーに変える二つ目のポイントは、「組織の未来を想像させる」です。想像できない未来は、現実のものになりません。
例えば、経営層の「世界を変える」「売上1,000億円」といったメッセージは、往々にして抽象度が高く、現場のメンバーには自分事として捉えにくいものです。
マネージャーは、経営と現場をつなぐ「翻訳者」であるべきです。
経営が目指す方向性を噛み砕き、メンバー一人ひとりの業務やキャリアにとってどのような意味があるのか、彼らにとってのメリットは何かに変換して伝える能力が問われます。
そのためには、マネージャー自身が現場に指示を下ろす前に、「なぜいま、この旗を掲げるのか」という背景や目的、つまり「Why」を自分なりに深く咀嚼し、準備しておくことが欠かせません。
この事前の思考プロセスを疎かにしたまま言葉を投げても、メンバーの心に響くメッセージにはならないからです。
ただ「これをやってください」とタスクを振るだけでは、メンバーは作業者になってしまいます。納得していない仕事に対して、人は100%のパフォーマンスを発揮できません。
「なぜこれをやる必要があるのか」「これが社会やお客様、そして自分たちの未来にどう繋がるのか」。
「Start with Why(なぜからはじめよ)」という意思決定プロセスの1つです。これを徹底することで、メンバーは納得感をもって業務に取り組み、自律的に動くようになります。
「未来を想像すること」を具体的なアクションとして落とし込むため、私の管轄するチームでは、3ヶ月に一度「未来を考える会」を実施しています。
この会では、3ヶ月間の取り組みを振り返り、「自分たちが進んでいる道はあっているのか」「これから3年後、5年後にどうなっていたいのか」をマネジメントチームで徹底的に議論します。
トップダウンで決められた未来ではなく、自分たちで考え、合意形成した未来だからこそ、強い意思が宿ります。
ここで固まった意思を、再びマネージャーが各メンバーへ翻訳して伝えることで、組織全体が同じ未来に向かって突き進む強力な推進力が生まれるのです。
極意③:人を動かすのはロジックより熱量。ベトナム現地法人のリモート経営で学んだこと
ひずみをエネルギーに変える三つ目のポイントは、「熱量を伝える」。ロジックは人を納得させるための手段であり、人を動かす手段は理屈を超えた「熱量」です。
私は2019年12月からベトナム現地法人(SHIFT ASIA)の代表を務めていましたが、直後にコロナ禍に見舞われました。2020年4月からは約1年半もの間、現地に行くことができず、日本からのリモート経営を余儀なくされました。
物理的な距離が離れると、どうしても熱量は伝わりにくくなります。
私は、250名規模の組織を画面越しに動かすことのむずかしさに直面し、キーマンとなる現地のマネージャー陣に対し、それまで以上にコミュニケーションをとることを決意しました。
「あの人、また同じことをいっているよ」。
部下にそう思われることを恐れてはいけません。むしろ、それくらい繰り返してはじめて、メッセージは浸透し、組織の基準値として定着します。
この徹底的なコミュニケーションと熱量の伝播により、ベトナム拠点のマネージャーたちは視座を高め、私が不在の間も自律的に判断し行動できるようになりました。
結果として、コロナ禍という逆境に加え、その後の円安という激動の環境下でも、組織は成長をつづけることができました。
熱量を伝える際のテクニックとして有効なのが、主語を「会社」や「指示」にするのではなく、「私(I)」にすることです。
「会社の方針だからやってください」ではなく、「私はこういう世界をつくりたいんだ」「こうなったら面白いと思わない?」と、リーダー自身の主観的な想い(Want)を語っています。
「やりなさい(Do)」という命令ではなく、「こうしたい(Want)」に対する共感の誘発。
焚き火のそばにいると自然と体が温まるように、リーダーが熱く語りつづけることで、その熱は周囲に伝播し、組織全体を動かす大きなうねりとなっていきます。
まとめ
AI技術の台頭により、ソフトウェア開発の現場だけでなく、あらゆるビジネスにおいて人の価値が再定義されようとしています。
正解のない、未来が予測しづらい時代だからこそ、私たち人間には「未来を可視化し、意思をもって突き進む力」が求められています。
組織の拡大に伴うひずみを恐れる必要はありません。それは高くジャンプするために膝を曲げている状態であり、成長へのエネルギーそのものです。
1. 個人に選択肢を与え、意思をもたせること。
2. マネージャーが翻訳者となり、組織の未来を想像させること。
3. 圧倒的な熱量で共感を生み出し、推進すること。
この三つの極意を実践し、ひずみをのびしろに変える姿勢こそが、SHIFTの急成長を支えつづける原動力であり、これからの時代を勝ち抜く組織マネジメントの要諦といえるでしょう。
(※本記事の内容および対象者の所属は、イベント開催当時のものです)