1万人を変え、日本の未来を変える。大規模組織のための「多層構造型ふりかえり」実践論 Regional Scrum Gathering Tokyo 2026 登壇レポート
2026年1月6日から9日にかけて、Regional Scrum Gathering Tokyo 2026が開催されました。
同イベントのゴールドスポンサーを務めたSHIFTからは、ふりかえり&アジャイルアバンジェリストの森 一樹(以下、びば)が「1万人を変え日本を変える!!多層構造型ふりかえりの大規模組織変革」と題したセッションに登壇。
「アジャイルやふりかえりは導入しているが、一部の現場だけで盛り上がって終わっている」「組織全体に浸透させようとすると、どこかでブレーキがかかってしまう」。
そんな大規模組織特有の壁に悩むリーダーは少なくありません。
グループ連結で従業員数が1.5万人規模(FY2025時点)に達し、日本の社会課題を解決する企業として成長をつづけるSHIFTのなかで、「日本を変える」という壮大なビジョンを掲げ、組織変革に取り組むのが、びばです。
なぜいま、組織変革の手段として「ふりかえり」に着目するのか。そして、単なる開発手法の枠を超えた「多層構造型ふりかえり」とは一体何なのか。
本記事では、一企業の取り組みを超え、日本全体の文化変革を見据えたびばの挑戦の全貌を紐解きます。
同イベントに登壇した秋葉 啓充のイベントレポートも、ぜひご一読ください。
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ふりかえり&アジャイルアバンジェリスト 森 一樹(びば)
黄色いふりかえりの人。みんなに強化魔法をかける人。野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントや組織変革を推進し、プロダクトマネージャとしての経験を経て、2025年にSHIFTに入社。社内外へのアジャイル教育や、ふりかえりの啓蒙から、社内各部署や他社との連動など、支援の幅を広げ活動中。著書に「アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック」など。
目次
日本の未来への危機感と、立ちはだかる「500人の壁」
「20年後、50年後の日本を、子供や孫の世代が誇れる場所にしたい」。
そう強く願う一方で、私を突き動かすのは、日本の未来に対する強烈な危機感です。少子高齢化、市場の縮小、海外への資本流出。
閉塞感の漂う日本の将来を考えたとき、「このままでは、子どもたちが日本で働けなくなるかもしれない」という焦りを感じます。
子どもたちの世代が「日本で働きたい」と思える国を残したいと強く思うのです。
エンジニアリングやITの力で世の中を変えようとする人々は多くいます。そのなかで私は、自身の強みである「ふりかえり」を通じて、日本の未来を支える土台をつくることを決意しました。
日本全体を変えるためには、まず社会を牽引する大企業の文化を変革し、そこから波及するムーブメントを起こす必要があると考えたのです。
しかし、組織変革の道のりは平坦ではありませんでした。私はこれまで数多くの組織支援を行ってきましたが、ある壁にぶち当たりました。それが「500人の壁」です。
アジャイル開発やスクラムの文脈で導入される「レトロスペクティブ(ふりかえり)」は、チームビルディングの文脈では機能します。
しかし、DX推進部門やイノベーション部門といった感度の高い部署までは浸透しても、そこから全社へ広げようとすると、途端にブレーキがかかるのです。
縦割り組織の弊害、組織改編によるキーマンの離脱、現場ごとの評価の仕組みの違い。
「チームでふりかえりをしても、個人の評価につながらない」といった声や、「楽しそうにやっているがビジネス成果が見えない」という経営層からの冷ややかな視線。これらが壁となって立ちはだかりました。
まずはSHIFTが、変革の背中を見せる。手にした新たな武器とは
「レトロスペクティブ単体では、組織全体を変える『本流』にはなれない」。
そう痛感した私自身が選んだのは、外部からの「お客様支援」という立場ではなく、グループで1.5万人、単体で約1万人の従業員規模をもつSHIFTのなかに入り、変革の主体となる道でした。
SHIFTという急成長する大企業が変われば、それは業界への競争圧力となり、他社も追随せざるを得なくなります。
もちろん、それだけでSHIFTへの入社を決めたわけではありません。SHIFTは労働生産性の向上、多重下請け構造の改革といった「社会課題の解決」を掲げる企業です。
そして、すべての従業員を輝かせるための人的資本経営を考えています。
私もそれらに共感し、SHIFTとともに日本を変革したいと思ったんです。SHIFTからはじまる社会変革を隅々まで波及させるために、私は「多層構造型ふりかえり」という武器を手にとりました。
組織の隅々までふりかえりを浸透させる「多層構造型ふりかえり」
従来のふりかえりは、チームで行うレトロスペクティブと混同されがちでした。
一方、「多層構造型ふりかえり」とは、「ふりかえりを行う4つの目的 × 複雑な組織構造 × 時間の階層」を掛け合わせ、組織のあらゆる場面にふりかえりを組み込む仕組みです。
ふりかえりを行う目的は、以下の4つに整理されます。
「フューチャースペクティブ」「ポストモーテム」「レトロスペクティブ」「リフレクション」。これら4つの目的を適切に使い分け、すべての活動を具体的な行動変容へと繋げることが、変革の第一歩です。
次に考慮するのは、組織構造です。
大規模組織は、単純なツリー構造(社長→本部→部→課)だけでは説明できません。プロジェクト、委員会、コミュニティなど、組織図を横断したつながり(セミラティス構造)が無数に存在します。
また、時間軸も重要です。日次、週次、月次、四半期、年次と、期間が入れ子状(フラクタル構造)になっています。
多層構造型ふりかえりは、これらを整理して特定のチームだけでなく、経営から現場まで、あらゆるレイヤーでふりかえりが自律的に回る状態を目指します。
現場の「やりたい」を引き出す、自律的な導入プロセス
SHIFTでは、人的資本経営を支える仕組みを多層構造型ふりかえりで強化しています。例えば、多くの企業で形骸化しがちな業務日報を、リフレクションの場へと進化させました。
社内ポータルに実装されたふりかえり機能では、YWT(やったこと・わかったこと・次やること)のフォーマットに加え、感謝を伝える欄を設けました。
業務日報を自身のキャリア形成につながる記録であるとともに、同僚への感謝を伝える場と捉えたのです。
その結果、社内で「ありがとう」という言葉が飛び交う頻度は体感値で5倍以上に増加。新入社員研修でもこの書き方をレクチャーし、入社直後から「毎日ふりかえる」ことが当たり前の文化として定着しつつあります。
また、組織横断的な繋がりをつくるため、「ふりかえり部」を設立しました。同部には現在約500名が所属しており、日々の日報やふりかえりをシェアしています。
ここでは、単に「いいね」をしあうだけでなく、「そのふりかえり、どういう視点で書いたの?」といった相互学習が生まれています。
ふりかえりが得意な人の思考プロセスを模倣することで、組織全体のふりかえりスキルが底上げされる仕掛けです。
さらに、人事部門と連携して業務日報を利用したふりかえりを毎月開催しています。
これは、ランチタイムなどに集まり、ふりかえり欄の書き方について5分間のレクチャーを受けた受講者が、その後一斉にひと月分のふりかえりを行うというもの。
SHIFTでは年に2回目標設定や評価面談が行われます。
一般的にみると目標設定は多くの社員にとって孤独で重荷になりがちな作業ですが、これを「みんなでやる前向きなイベント」に変えることで、質を高め、納得感のある評価制度の運用を支えています。
私は、特定の部署だけでふりかえりが盛り上がるのを避けるために、「現場主導」の形を意識しています。
例えば、ある事業部に対してふりかえり研修を実施した後、その効果や感想を参加者自身の言葉で社内ポータルに発信してもらいます。
「やらされるふりかえり」ではなく、「隣のチームがやっていて成果が出ているから、うちもやりたい」という口コミによる広がりをつくることで、自律的な導入を促進しています。
こうした活動により、社内では「ふりかえり」に対する心理的ハードルが下がり、ポジティブな文化が醸成されつつあります。しかし、私はここで満足していません。
次のフェーズは、これらを明確な「ビジネス成果」に結びつけることです。生産性の向上、売上への貢献、インシデントの再発防止率など、経営層が納得する定量的なデータを出すこと。
これこそが、大企業で文化を変革し続けるための必須条件です。
SHIFTでの成功事例は、あくまで通過点です。1万人規模の企業で「多層構造型ふりかえり」が機能し、業績にも寄与するという事実が証明されれば、それは日本中の大企業にとって無視できない事例となります。
「競合のSHIFTがやっているなら、うちもやらなければ」。そういった健全な競争圧力が生まれたとき、日本全体の働き方や組織文化が大きく変わるはずです。
まとめ
ふりかえりは、組織変革の「本流」ではないかもしれません。しかし、最強の「援護射撃」にはなります。
どんなに優れた戦略やシステムがあっても、それを運用し、継続的改善を行うのは組織です。いわばふりかえりは、人と組織が自律的に学習し、進化するためのエンジンです。
SHIFTで実践されている多層構造型ふりかえりは、単なるチームビルディングではなく、組織の血流を変える取り組みです。
私は、この知見をオープンにし、企業や業界の枠を超えて連携することで、日本全体にムーブメントを起こしたいのです。
ともに、次世代に誇れる日本をつくりましょう。
1万人を変え、日本を変える挑戦は、まだはじまったばかりです。
(※本記事の内容および対象者の所属は、イベント開催当時のものです)