大規模組織にアジャイル文化を灯せ。3つのアクションで挑んだ「静かな組織」からの変革 SPI Japan 2025 登壇レポート

2026/04/13

2025年10月23日、ソフトウェア開発プロセス改善活動で得られた技術や知見を総集し、その普及と技術力向上の場を提供する「SPI Japan(ソフトウェアプロセス改善カンファレンス)」が開催されました。

SPI Japan 2025のテーマは、「つなぐ」~価値創造に貢献する「シン・ソフトウェアプロセス改善」~。

SHIFTからは、製造ソリューションサービス部でサービスエキスパート(SEP)(※)を務める村瀬 勇磨が登壇し、同部にアジャイル文化を醸成した実践例について共有しました。

リアクションが飛び交い、自発的な学びの活動まで起こる部へと発展させた、村瀬が仕掛けた3つのアクションとは?

(※)サービスエキスパート(SEP)…お客様のカウンターパートナーとしてつねに第一線に立ち、お客様の課題解決や事業拡大を図るポジション。SHIFTが次なる経営計画として据えている、売上高3,000億円の達成(「SHIFT3000」)を支えるコア人材の1つ。

  • 製造ソリューションサービス部 サービスエキスパート 村瀬 勇磨

    AIを利用した社内システム開発のプロジェクトを推進。仕事を楽しくしたいという思いのもと、異業種からSHIFTに入社。API自動テストのリーダーからPMを経験し、ゼロベースでWFからスクラムの立ちあげを行う現場に出会ったことでアジャイルの考えに共感。スクラムマスターとして活動。現在はラインマネージャーとしてアジャイル開発サービス導入から運用を行っている。「働くことへの価値観を変える」という志のもと日々に励んでいる。

目次

アジャイル文化を醸成しようと意気込んでいた私──100人の「静寂」に感じた課題

私がSEPとして担当してきた数多くのお客様は、「アジャイルの文化が社内になかなか根づかない」という課題に直面していました。実は、私も、SHIFT社内で同じ問題に悩まされたことがあります。

2024年9月、私はアジャイル推進部から製造ソリューションサービス部へ異動しました。

元いたアジャイル推進部では、メンバーが自主的に考え、活発に議論し、マネージャーはメンバーがいかに輝けるかを考える文化がありました。

異動後、最初に参加した部会では、約100名が参加するなかで、発言やリアクションが控えめで、落ち着いた雰囲気が印象的でした。

この違いにふれ、私は「アジャイル文化をつくる」という目標に向けて、まずはこの部ならではの進め方や空気を理解し、安心して意見を出せる土台づくりが重要だと感じるようになりました。

私が当時感じた部内の文化的な特徴は、大きく3つありました。

「無関心」「自分事化していない」「変化への恐れ」です。

これらは一見すると、全社的な特徴としての「SHIFTらしさ」と距離があるようにも見えましたが、決して誰かの悪意によるものではありません。

長い時間をかけて形づくられてきた、この部ならではの特性だと感じました。

だからこそ、これまでの強みや背景を尊重しながら、次の成長フェーズに向けて少しずつアップデートしていく必要があると考えました。

SHIFTは徹底した評価制度をもつ会社であり、それが急成長の原動力の1つとなっています。しかし、当時の部は「評価されるからやる」という外発的動機づけに偏りすぎているように感じていました。

人が本当に生き生きと働くには、外発的動機づけと内発的動機づけの両方が必要です。

本人の「やりたい」「楽しい」という内発的動機づけが不可欠であり、この2つが両輪となってはじめて組織は自律的に動き出します。

部のメンバーが内発的動機づけされた状態をうむことが、私の使命。社内の文化を変えることがいずれお客様にも提供できる価値になると信じて取り組みました。

アクション1:アジャイル人材100倍計画

最初のアクションは、組織全体の意識を変えるための土壌づくりです。個人の思いだけで実現することはむずかしいと考え、「アジャイル人材100倍計画」を立ちあげました。

アジャイル人材とは、不確実な時代に、お客様と対話しながら、仲間と協力して価値を届けられる人。

部の目標に「品質保証エンジニアをアジャイルQAに育てる」「アジャイル支援サービスで価値提供できる組織になる」という項目があったことを活かし、このアジャイル人材100倍計画を打ち立てたのです。

大切なのは人数ではなく、あくまでも「楽しんで働ける、成長できる人を増やす」「変化に強い人材・組織を育てる」こと。

初期段階では、部内から「そもそもアジャイルって何?」という基本的な疑問を投げかけられました。

部内のメンバーの多くは、アジャイルを「自分たちには関係ない特殊な開発手法」と捉えていたのです。 

そこで徹底したのは、「Why(なぜやるのか)」と「Benefit(どんなよいことがあるのか)」の共有です。 

アジャイルとは、特定の開発手法を指すものではない。変化に対応し、価値を届けつづけるための「あり方」そのもの。

プロセスやツールよりも、「個人との対話」「お客様との協調」「変化への対応」を大切にするのがアジャイルなんだ。 

こう説明して、アジャイルなマインドセットをもつことが、個人のキャリアにとっても、日々の業務のストレス軽減にとってもプラスになることを丁寧に説きました。

文化を変える仕掛け群──挨拶と感謝を伝え合う・雑談スレ・育成マップなど

文化を変えるには、現状を正確に認識することが必要です。私は組織会議で「我々の文化はどういう状態なのか」という問いかけを行い、全員で現状を見つめ直す機会をつくりました。

「意見を言いづらい雰囲気はないか?」「挑戦よりも、正解をだすことや失敗しないことが大事になっていないか?」といった問いを投げかけ、「こういう文化は、我々の組織としてよいものか?」という本質的な問いかけを行ったのです。

そして、改善のために最初の一歩として提示したのが、「ありがとう」や「挨拶」といった基本的な行動の徹底です。

文化はいきなりつくられるものではなく、日々の小さな行動の積み重ねで醸成されるもの。助けてもらったら「ありがとう」、朝は「おはようございます」と伝えあうことからはじめました。

さらに、メンバーがSHIFTという会社をより深く知るための機会も設け、提供しているサービスの価値や意義を共有することで、帰属意識と誇りを高める取り組みも行いました。

活動をはじめた当初はコミュニケーションが一方通行になりがちでした。それをなんとか打破しようと、Teamsに雑談スレを作成しました。メンバーが人に興味をもつ「きっかけ」が必要だったからです。

「マネージャー以外のメンバーのことを知らない」という人も多かったので、横のつながりを生み出す場をつくりました。

また、メンバーの成長意欲を刺激するため、ファンタジーRPGのような「育成マップ」を作成。

島国をイメージした地図上で、メンバーがスキルを獲得していく様子を視覚化し、学びを楽しいものに変える工夫をしました。

外部のカンファレンスやイベントへの参加も積極的に促し、組織外の刺激を取り入れる機会も提供しました。

重要だったのは、単に施策を全体に告知して終わりにしないことです。新しい取り組みをはじめても、告知だけでは人は動きません。可能な限り、メンバー一人ひとりに声をかけつづけました。

アクション2:上司との関係構築。活動を数値化し、組織のKPI達成に寄与することを明示

次のアクションは、上司との関係構築です。個人の想いだけでは持続的な変革を促すことはむずかしいため、組織のKPIと私自身の取り組みを連動させる工夫も施しました。

具体的には、私の活動がいかに組織のKPI達成に寄与するかを数値化し、上司に説明したのです。

「アジャイル人材が増えること」が「組織の利益」や「お客様満足度」に直結するロジックを組み立て、活動に対する公的な承認を得ました。

活動が公式に承認されることで、継続性と影響力を高められたと考えています。

アクション3:東日本、西日本の文化の違いを考慮した施策展開

また地域によって文化の違いがあることも考慮し、東京とは異なるアプローチで西日本のチームでもアジャイル文化の浸透を図りました。

「西は西のやり方で」という柔軟性をもたせ、カードゲームなども活用して関西の文化に合った形での展開を行ったのです。

蒔いた種が確実に芽吹いた。明らかな組織の変化

約1年間の取り組みの結果、会議や日常のコミュニケーションにおいて、これまでとは異なる変化が見られるようになりました。

マネージャー以外のメンバーからの発言が増え、チャット欄でもリアクションや意見が活発に交わされるようになっています。

会議は次第に、「参加しているだけ」の場から、「自分たちの意見をもち寄る場」へと変わっていきました。

アンケートにおいて「挑戦することを後押ししてくれる風土がある」という項目が高いスコアを示したことは、こうした日々の変化がメンバーにも実感として届いている証だと感じています。

さらに驚くべきことに、メンバー主導の勉強会が立ちあがりました。自発的に学び、共有しようとする動きが出てきたのです。これは、私が蒔いた種が確実に芽吹いた証拠でした。

部内のアジャイル人材の割合も40%から60%へ増加しました。

アジャイルというアプローチを取り入れたことによって、事業部という大きなくくりで文化を変えていけたことが1つの成果です。

部の成長は、SHIFT全体の成長につながります。今後は、これをほかの部門にも広げていきたいと考えています。

今回の成功は、私個人の情熱だけに起因するものではありません。SHIFTという会社がもつ「変革に対してNoといわない」組織基盤や評価制度と、私のアジャイルなアプローチがうまく融合した結果です。

アジャイル文化の醸成については、社内での成功事例をもとに、お客様への展開も視野に入れています。「アジャイル文化を根づかせることがむずかしい」と考えているお客様に対しても、実践的なノウハウを提供し、日本企業全体においてアジャイルが推進されるよう努めていきたいです。

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)



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