プロジェクトの「完遂」とメンバーの「育成」を一人で抱え込み、疲弊しているプロジェクトマネージャー(PM)は少なくないのではないでしょうか。
しかし「ビジネス環境が複雑化し、変化のスピードが加速する現代において、PMが一人ですべてを背負う時代は終わりを告げようとしています」。
そう語るのは、2026年3月4日にSHIFTが主催する技術イベント「SHIFT EVOLVE」に登壇した、株式会社レッドジャーニー システムリデザイナー 森實 繁樹 氏です。
品質にこだわってきたSHIFTならではの目線で、アジャイルに長年携わってきたゲストを招き、アジャイルの神髄に迫る Agile in Motionシリーズ。
今回のセッションは、森實氏の著書をはじめ、同イベントで対談を行ったSHIFTのアジャイルエバンジェリスト 渡会の著書、そして最新の「PMBOK第8版」という3冊の共通項を探る形で進行しました。
自律的なチームをつくるための3つのアプローチとは―――。チームの総合力を最大化する新しいマネジメント術を紐解きます。
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株式会社レッドジャーニー システムリデザイナー 森實 繁樹 氏
大手SIerでの開発/運用、大規模プロジェクトマネジメントを経験した後、ミドルベンチャーでCTO、通信系事業会社でエンジニアリングマネージャー、国立大学で非常勤講師などを歴任。プロダクト開発や組織づくりに造詣が深い。2003年からアジャイルを実践しており、社内外問わずいくつものチーム、組織の支援を行ってきた。現在は、認定スクラムプロフェッショナルとして組織変革支援に邁進している。
完遂と育成の混同が、PMを疲弊させる
私はこれまで15年以上、主に金融領域のSIに携わり、その後いくつかの事業会社を経験して現在はさまざまな 企業やプロジェクトの支援を行っています。
ただ、どこの領域においても「プロジェクトマネジメント」は切っても切り離せないものだと感じています。
ただ、プロジェクトの話をする前の大前提として、現場で混同されがちな「マネジメント」という言葉への誤解を、まずはっきりさせておきたいのです。
私たちが普段何気なく使っているマネジメントには、プロジェクトの完遂を目指す「プロジェクトマネジメント」と、人材の育成を重視する「組織マネジメント」という、そもそも狙いの異なる2つの視点が存在します。
しかし、「マネージャー」という言葉で一括りにされることでこれらが混同されがちです。
組織からはマネージャーとしてのさまざまな能力を期待されるかもしれませんが、 プロジェクトの最大の目的が完遂であるならば、完遂する方法はいくらでもあるはずです。
一人の優秀なPMがすべてを抱え込むのではなく、「チーム全体で完遂する」という選択肢があってもよいのではないでしょうか。
リスクを分散して完遂の可能性を高めることを考えると、メンバーがいかに生き生きと働けるかが 、チームの最高のパフォーマンスにつながると私は信じています。
メンバー個人が自らの得意を活かして価値発揮を最大化できる環境をつくり、主体性を引き出すこと。それこそが、チームでプロジェクトを成功させるための大前提となるのです。

脱・受け身!説明責任はPMに、実行責任はチームに
チームの総合力を引き出すためには、従来のガチガチに固められた役割分担から脱却する必要があります。
例えば「インフラ担当はインフラの作業のみ行う」「週次の定例会議はどんな状況でも絶対に開催する」といった、これまで当たり前とされてきた型にこだわる必要はありません。
状況に応じて柔軟に動ける体制をつくることが、チームの能動性や自主性を引き出す第一歩です。
また、チーム全員にマネジメントさせるうえでもっとも重要なのは、責任の所在の明確化です。プロジェクトにおける「説明責任(Accountable)」は、これまで通り組織に対してPMがもちます。
しかし、「実行責任(Responsible)」までPMが一人で負う必要はありません。実行責任はチーム全員で共有するのです。
これは、タスクの責任分担を明確にするRACI(レイシー)チャートの考え方に基づいています。実行責任を共有するための具体的なアプローチには、役割の分散があります。
例えば、会議のファシリテーターや、アジャイル開発におけるスクラムマスターといった役割を、特定の一人に押しつける必要はありません。
全員がファシリテーションを持ち回りで経験し、「今日は私が議事録を担当します」「私がタイムキーパーをやります」といった小さな役割をチーム内で分散させるのです。
こうして一人ひとりが役割を担うことで、プロジェクトマネジメントの視点がチーム全員に宿り、「これは自分たちのプロジェクトだ」という当事者意識が浸透する、より自律的で強いチームが形成されていきます。
参考にしたい3冊の書籍
ここまでは、プロジェクトマネジメントの視点をチーム全員に宿すという、私の著書『ゼロから始めるチームプロジェクトマネジメント』の根底にある考え方をお話ししてきました。
さて、今回はさらに2冊の本を紹介したいと思います。同イベントに登壇されている渡会さんの著書『アジャイルに困った時に読む本』と、最新の『PMBOK®第8版』です。

この3冊はそれぞれ立ち位置こそ違いますが、ベースとしているところは同じことを言っていると私は思っています。
それは、単なる方法論ではなく、「チームと価値をどう動かすか」というところが、それぞれの本の共通の軸になっているということです。
自律的なチームをつくる3つのアプローチ
ではこれら3冊の共通項から見えてくる「自律的なチームをつくるための3つのアプローチ」を紐解いていきましょう。
1つめ:プロジェクトは「人と関係性」でできている

プロジェクトを実際に動かしているのは、無機質なタスクやスケジュールではなく、「人」と「関係性」です。
特定のリーダーに依存せず、互いに支えあう関係性を築くことが重要と考えており、私の著書でもチーム内に「小さなリーダー」を増やすことをお伝えしています。
渡会さんの著書でも、アジャイルがうまくいかない原因はフレームワークの構造自体ではなく、それを実行する「人の解釈」に対するアンチテーゼとして書かれています。
そして最新のPMBOK第8版でも、従来の「管理する」という領域から一歩抜け出し、リーダーシップなどチームのあり方に踏み込んだ内容になっています。
2つめ:万能なやり方は存在しない(テーラリング)

プロジェクトには「これさえやっておけば必ず成功する」という万能なやり方は存在しません。
だからこそ状況にあわせて役割を柔軟に変え、メンバーの体調不良などの不測の事態にもチーム全体でカバーしあう準備と心構えが求められます。
「これは私の役割」「それはあなたの役割」と線を引くのではなく、「これは“私たち”の役割」と捉える「オーナーシップの共同所有」を私は提唱しています。
渡会さんの著書でも「プロダクトオーナーは一人でなくてもいい」というように、やりたいことに対して手法を踏襲する必要はないと説かれています。
これはPMBOKが提唱する「テーラリング(※)」の考え方そのものであり、現場のリアルな課題に立ち向かうための強力な武器となります。
(※)プロジェクトの特性にあわせて手法やプロセスを最適化すること。
3つめ:価値とは成果物ではなく「変化」である

プロジェクトの価値とは、単にシステムやドキュメントといった成果物を納品することだけではありません。プロジェクトを通じて生まれる「変化」こそが真の価値です。
チームがプロジェクトを進めるなかで、メンバー一人ひとりが成長し、チームも成熟していく。その変化の積み重ねが重要です。
そのためには、プロジェクト完了後の世界観を共有するだけでなく、「自分たちは正しい方向に進んでいるか」をチーム全体で確認しあうことが不可欠です。
真のチームプロジェクトマネジメントを実践するためには、個人とチームの成長や変化をリンクさせていくことが重要です。
例えば、プロジェクト全体の「プロダクトゴール」だけでなく、1ヶ月単位の「スプリントゴール」、さらには「このプロジェクトを通じて自分はどのようなスキルを身につけたいか」という個人のゴールなど、複数のゴールを同時に設定します。
設定したあとは、ときにバックキャスト(※)でふりかえり、それぞれのゴールがリンクしているかを確認することで、納得感をもってプロジェクトに取り組むことができます。
(※)未来の目標から逆算して現在すべきことを考える手法。
渡会さんの著書では、この部分を「アウトカム思考」や「継続的な価値創出」という言葉で表現しています。
プロジェクトを単発の有期的なものとして終わらせるのではなく、もっと継続性のある営みの一部として捉える視点を謳っています。
最新のPMBOK第8版でも、プロジェクトを単なる一時的な活動ではなく、「継続的な価値創出(Value Delivery)のシステムの一部」として捉え直す必要がある、と語られています。
つまり、継続性のなかの一部分だけを切り出すと有期性のあるものであるということを謳っています。
こうしてみると3冊それぞれが、個人の変化、チームの変化、プロダクトの変化、そして生み出されるアウトカム(成果)の変化について語っているなというのが読みとれます。

まとめ
プロジェクトマネジメントにおいて、一人の優秀なPMにすべてを依存する時代は終わりました。マネジメントの目的を正しく理解し、実行責任をチーム全員で共有することが、現代のプロジェクトを成功に導く鍵となります。
興味をもたれた方は、ぜひ今回ご紹介した3冊を手に取ってみてください。そして、明日からあなたのチームにも変化を起こし、チームがもつ総合力を最大化していただけたらと思います。

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(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)