採用から評価まで、現場と試行錯誤しながらつくるアジャイルの人事施策 人事図書館 登壇レポート

2025/12/18

2025年9月16日、人事に関わるすべての人が集い、学びあうコミュニティ「人事図書館」にて、「現場とともに挑むアジャイルの人事施策 ~SHIFTの採用から評価までを紐解く~」が開催されました。

その内容は、SHIFTでの、人事とアジャイルの現場との連携のリアルと、人的資本経営のビジョンに基づいた採用・評価・施策の裏側を語る、というもの。

本稿では、アジャイル推進部の向き合い人事である大畑と、ふりかえり&アジャイルエバンジェリスト 森の登壇内容をお届けします。

  • 事業人事部 大畑 裕美子

    アジャイル推進部の向き合い人事。
    2021年にSHIFT入社後、製造・モビリティ・アジャイル・AIなど各部門の採用に従事。

  • ふりかえり&アジャイルエバンジェリスト 森 一樹(びば)

    黄色いふりかえりの人。みんなに強化魔法をかける人。野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントや組織変革を推進し、プロダクトマネージャとしての経験を経て、2025年にSHIFTに入社。社内外へのアジャイル教育や、ふりかえりの啓蒙から、社内各部署や他社との連動など、支援の幅を広げ活動中。著書に「アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック」など。

目次

内定前に「入社後の活躍ストーリー」まで描く

森:今日はよろしくお願いします。まずはじめに、SHIFTといえば採用力が強いというイメージがありますよね。採用で大切にしていることを教えてください。

大畑:中途採用に関しては、「SHIFTと候補者、双方にとって幸せな転職になること」という価値観を大切にしています。

採用はSHIFTにとって未来投資であり、前述の価値観は、SHIFTの人的資本経営の本質にもつながる考え方です。

SHIFTの人的資本経営では、「人こそがビジネス・事業を成長させるための源泉」であるという考えのもと、従業員個々人が生み出す価値をLTVという独自のKPIで測定し、運用しています。

そのため、SHIFTでは「人材はコストではなく資産」という考え方が根付いています。

入社後も個々人の組織への定着をサポートするだけでなく、いかに個々人が生み出す価値を最大化できるかを考えつづけています。

ですから「この方が入社後にどんな形で活躍するのか、どんなキャリアを歩むのか」を、お互いにすり合わせ具体的なストーリーとして描けることを、内定の条件にしています。

人事は採用でのみ候補者に関わる存在ではありません。その方がどんな強みを発揮し、どんな成長を望み、どう未来を切り拓いていくのか。

いっしょに考え、伴走していくことで、本質的なマッチングや信頼関係が生まれると信じています。

森:入社後のストーリーを描くために大切にしていることはなんでしょうか。そこに至るまでの失敗もあれば。

大畑:うまくいかないこともあります。

たとえば、エージェント経由の情報と、実際にオファー面談で候補者が語った内容が違っていたり、転職活動の過程でご本人が考える会社選びの軸そのものが変わってしまったりするケースも珍しくありません。

その方が活躍するストーリーを仮説立てて内定を出したものの、ご縁につながらなかった経験を何度もしてきました。

そこから学んだのは、「情報や発言が誰の言葉によるものかを見極めること」、そして「候補者の言葉をそのまま受け取るのではなく、その裏にある背景や心境の変化を丁寧に探ること」の重要性です。

実際、この学びが活きた事例もあります。過去に、複数のコンサルティングファームしか受けておらず、希望するポジションもITコンサルタントと、一見“コンサル志向が強い”と見えた候補者がいました。

しかし直接対話をしてみると、「一度コンサルキャリアに進んだことで、次もコンサルしかないと思い込んでいた。でも本当はエンジニアの道に戻りたかった」と本音を語ってくれました。

そこで、私はSHIFTならエンジニアとしてのキャリアを再スタートできることをお伝えし、結果として、双方が納得した形でご縁をつなげることができました。

対話によって候補者の可能性を広げられることは、人事の醍醐味だと思います。失敗を経た学びを今後も活かして、候補者の未来につながる「対話」をこれからも大切にしていきたいと考えています。

アジャイルの現場と人事が協働して行う、多彩な人事施策

森:採用戦略や施策はどうやって立てていますか?

大畑:SHIFTは、事業の現場と人事の距離が近いのが特徴的です。現場に近い人事が裁量をもてるので、変化に応じて柔軟に施策をたてることができています。

私はアジャイル推進部の向き合い人事なので、採用施策やアイデアもマネジメントレイヤーの方と相談しながら考えています。

加えて、技術ブランディングを担っているDevRelグループとも連携した取り組みもしています。SHIFTには協力的な人が多いので、スピード感をもって動くことができています。

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森:現場と協力し、どのような施策を行ったか事例を教えてください。

大畑:象徴的な取り組みがハンズオン型説明会「シフキャン」です。人材紹介エージェントにSHIFTのアジャイルを正しく理解してもらうために、部長・グループ長も交えてアジャイルを体験できるゲームを実施しました。

単なる「開発手法」と捉えられがちなアジャイルが、自分たちのビジネスにどう直結するかを肌で感じてもらったことで、エージェントからの紹介数が前期比120%、前年度比180%と、大きく増加しました。

SHIFTはエージェントとも真正面から向き合い、いっしょに候補者の未来を考えています。

人事も評価に責任をもつ。半期に約600時間を費やす“本気の評価会議”

森:SHIFTは、評価にすごく時間をかけていますよね。

大畑:SHIFTの評価会議は、役員が半期につき約600時間を費やす大掛かりなものです。

各人の成長プランを評価者が考え抜き議論を重ねるのですが、徹底的なデータ収集による現状の可視化もSHIFTならではとなっています。

具体的には、その人の状態やモチベーション、成長意欲、退職リスクの兆候などです。現状を正しく把握しなければ、適切な成長プランは描けませんから。

この評価会議には、採用責任を現場とともに負う人事も参加しています。

入社いただいたみなさまのキャリア形成や活躍の場をどうつくっていくか考えたり、今後の採用戦略を検討したりするうえでも非常に重要な場となっています。

もちろんメンバー一人ひとりが自律的に意思決定し、組織の目標達成に向けて主体的に行動することが理想です。

自分でゴールを決め、課題を解決し、改善、成長をつづけるためにも、評価会議で話された内容は、本人にも丁寧にフィードバックし、次の目標設定につなげています。

また評価会議では、代表含めた役員・マネジメント層が組織戦略に関しても徹底した議論を行います。

組織としてどのような目標を設定するのか、市場をどう攻めていくのか、そのためにどのような組織をつくる必要があるのか。この組織戦略は、人材戦略に落とし込まれます。

採用は、人事が勝手に推進し、部門に人材をふりわけるものではありません。組織戦略やビジョン、そして現場のリアルをわかっていること。それらが揃ってはじめて適切な採用を実現できているのだと思っています。

森:私も、グループ長や部長陣と日々対話をして、現場・マネジメント層が抱えている悩みを聞き、どのような長所をもつ人がフィットするのかを考えています。

カンファレンスの場では、SHIFTの魅力や求める人物像などを伝える機会が多いのですが、大畑さんとも定期的に会話していますよね。

人事はどのような強みをもつ人を採用したいのか、一方でアジャイル推進部としてはどのような人が必要なのか。双方をわかったうえで、カジュアル面談などでは、候補者の魅力を引き出すような聞き方を心掛けています。

私はこの2ヶ月半で8名の候補者を人事にご紹介しました。そのうちすでに2名は入社していただきました。

求心力のある人が集まりつつある実感があります。これからはほかのメンバーをきっかけにして、さらなる採用拡大も見込めると思っています。

日々の「ふりかえり」が、自己効力感と横のつながりを育む

大畑:森さんは採用以外にも、人事施策に協力していますよね。ご紹介いただけますか。

森:入社したメンバーのエンゲージメントが低下しないような施策や、モチベーションが向上するような施策を行っています。具体的には、入社時研修でもふりかえりをとりいれるようになりました。

毎日の業務のなかで感じたことや気づき・学びをふりかえることで、疑問をすぐに解消できるようになる。

また、ふりかえった内容を周囲に共有することで、「横のつながり」をつくり、助けあえるようになる、といった効果を狙っています。

ふりかえりにまつわるコンテンツに関しては入社者だけでなく、内定者に向けたものもつくりはじめています。

入社してすぐに社風や周囲のメンバーとなじめるように、コメントやフィードバックをもらいやすい環境をデザインするためです。

SHIFTでは、前述の評価会議に紐づくものとして、従業員が半期ごとに「目標設定」を行います。

四半期ごとの中間面談で上長ともに現状を確認したり、目標を調整したりするのですが、これらとふりかえりをセットに、日ごろからサイクルをまわせる仕掛けをはじめようとしています。

そうすることで成長、自己効力感をより頻繁に感じられますし、モチベ―ションやエンゲージメントが満たされることで自発的な行動が促される。そのようなふりかえりを組織のなかで当たり前にしようとしています。

部内においても、入社者が個別に相談できるチャット窓をつくったり、相談会を開いたりと、「この会社でよかった」と安心できるような環境づくりをおこなっています。

人数がとても多い会社なので「横のつながりをいかにつくるか」は、かなり重要かつむずかしいです。

何もケアしないと、配属先の人としか会話しないという状況にもなりかねません。今後も、横のつながりをつくれる仕掛けを、組織をあげて試行錯誤しながらつくっていきたいと思います。

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)