エンジニア採用アップデートday登壇。「テストの会社」を超えて挑む、 AIプロダクト開発と組織のかたち

2025/11/04

2025年8月26日、AI時代のエンジニア採用のあり方を掘り下げるイベント「エンジニア採用アップデートday」 が開催されました。

SHIFTからはAI統括室 室長補佐 兼 DAAE統括部 統括部長を務める大倉 奨貴とAI統括室 兼 DAAE統括部 DAAE部 部長の北原 俊が登壇。

ファインディ株式会社にてFindy/Findy Freelance事業部  B2Bマーケセールス部門 部長を務める末本 充洋氏と、「Slerの常識を超える─SHIFTが挑む、AIプロダクト開発と組織のかたち」というタイトルでSHIFTのAI戦略の概要について語りました。

本イベントレポートでは、特に印象的な部分をピックアップしてお届けします。

  • AI統括室 室長補佐 兼 DAAE統括部 統括部長 大倉 奨貴

    大学卒業後、富士通、PwCコンサルティングを経て、2022年9月にSHIFT入社。前職では、主に自動車メーカー、小売業の新規事業/DX戦略~企画、実行の伴走支援に10年弱、30件超の案件に従事する。現在はDAAE統括部長として、自社プロダクトの企画立ちあげやセールスマーケティング、資本業務提携先のバリューアップ、M&Aなどを通じた新規業務の推進などを担っている。

  • AI統括室 兼 DAAE統括部 DAAE部 部長 北原 俊

    大学卒業後、ソフトウェアエンジニアとしてヤフーに入社し、ふるさと納税やネット募金など公共・決済領域に携わった後、2018年にPayPayの立ちあげ初期にテックリードとして関わる。その後、PwCコンサルティングに転職、SHIFT入社は2022年9月。現在はDAAE部部長として、エンジニアメンバーのマネジメントはもちろん、複数プロジェクトにテックリードとして参画もしている。

  • ファインディ株式会社 Findy/Findy Freelance事業部 B2Bマーケセールス部門 部長 末本 充洋 氏

    大手人材会社に新卒として入社。製造業領域の企業様を対象としたリクルーティングコンサルタントに従事。その後ファインディにジョインし、Findy転職事業部責任者を務めたのち、現在はFindy 転職/FindyFreelanceの法人マーケ&セールス部門の責任者を務める。

目次

「テストの会社」からの進化。AIネイティブカンパニー構想

末本氏:SHIFTというと「テストの会社」というイメージが非常に強いです。そこから「AIネイティブのSIカンパニー」を目指すという大きな構想は、どのようなきっかけではじまったのでしょうか?

大倉:代表であり創業者でもある丹下の「AIを使いこなそう」という一声からはじまりました。この一声をきっかけに、専門組織である「AI統括室」も設けました。

末本氏:すごいスピード感ですね。その背景には、どのような狙いがあったのでしょうか?

大倉:現在、SHIFTは売上1,300億円の達成を目指していますが、さらにその先の3,000億円、そして1兆円企業へと成長していくうえで、AI活用は避けられません。

世の中のトレンドを見ても、AI活用はもはや当たり前になってきています。この大きな波にのり、事業成長を加速させるために、全社をあげてAIに取り組むことを決めました。

関連記事:「AI日本一」を目指すSHIFT。経営目標から逆算した必然の戦略  

末本氏:なるほど、会社の未来をかけているのですね。その変革を推進するための組織体制はどのようになっているのでしょうか?

大倉:期初の号令を受けて、AIに関するプロダクト開発などを一手に預かる「AI統括室」を経営直下に立ちあげました。ただ、いきなり独立した組織をつくっても、採用や育成は非常にむずかしい。

そこで我々は、新規事業開発や情シス、お客様にデリバリーしているエンジニアチーム、教育チームといった既存の組織を横断する形で「AI統括室」のメンバーを選んだんです。

このワンチーム体制で、AI人材の採用から開発ノウハウの共有まで、一気通貫でスピーディーに進めています。

末本氏:まさに部門横断のドリームチームですね。そのAI戦略を推進するうえで、まず社内のポテンシャルから調査されたと伺いました。

大倉:はい。まずSHIFT従業員のAIスキルの棚卸しを行いました。バックエンドやフロントエンドのエンジニアも含めて、「AIエンジニアは何人いるんだろう?」と。

目標として「500人くらいほしいね」と話していたのですが、調べてみたら、実は社内に500人いたんです。

末本氏:目標人数が社内にすでにいたんですか!

大倉:そうなんです。そして、次はAIエンジニアを1,000人確保することが目標です。

「データの宝庫」を武器に、PLに直結するAI戦略を

末本氏:次に、具体的なAIの活用事例についてお伺いしたいです。SHIFTでは、どのような視点でAI活用を進めているのでしょうか?

大倉:我々がもっとも強く意識しているのは「経営」の視点です。AIが「PL(損益計算書)にどうインパクトを与えるか」を考えつづける必要があります。

AIを活用して「どう売上を上げるか」、あるいは「どうコストを下げるか」。AI活用の成果は、このどちらかにつながっていなければいけません。

末本氏:その成果を出すうえで、重要視していることはありますか?

大倉:我々が肝だと考えているのが、「どういうデータをインプットするか」です。SHIFTは、とにかくあらゆるデータを保有しています。

例えば採用では候補者に承諾を得たうえで動画面接をとりいれており、膨大な人数分の動画アーカイブが溜まっています。こうしたデータが、AI時代において我々の大きな競争優位性を生んでいます。

ほかにも営業領域では、約200人の営業が1日に3件訪問すると、それだけで600件の議事録。この議事録は、AIにとってはまさに宝の山です。

AIに議事録データを分析させると、「金融業界でAIのPoCのニーズが高まっている」といったホットなテーマを抽出できます。

そして、その領域に強い人材を採用したり、ほかのお客様へ横展開したりといった営業戦略につなげることもできます。

末本氏:日々の業務データから、次の戦略を生み出すインサイトを見つけだしているわけですね。人事領域ではいかがでしょうか?

大倉:人事領域でもAI活用が活発で、実際に大きな効果が出ています。SHIFTグループは年間2,000人以上を中途採用しており、応募書類は約14万通にものぼります。

この書類選考にAIを活用し※、採用側の目線を学習させたモデルでポジションマッチ度を可視化することで、大幅な効率化を実現しました。

※AIレジュメアナライザー「Resumiru」:職務経歴書をアップロードすると、その候補者が採用要件に満たしているかどうかが判定されるほか、統一されたフォーマットで経歴の年数やスキルがサマリーとして可視化される。くわしくはこちら

また、最近では「対話型AIエージェント」※という取り組みも行っています。グループ従業員が1万人を超えているため、人事が一人ひとりと1on1をするのは現実的ではありません。

そこでAIがメンタリングを行い、例えば退職につながる悩みを早期に発見し、ケアにつなげる。この取り組みは、第10回HRテクノロジー大賞で、78社中最高賞の「大賞」を受賞しました。

※対話型AIエージェント「mentai」:明太子のキャラクターであるAIメンターの「めん太」くんが、従業員それぞれと対話、その内容から114種の悩み要因を可視化する。アドバイス生成と即時フィードバックを特徴とし、退職予防はもちろん従業員体験価値(EX)の最大化、人的資本経営にも貢献している。くわしくはこちら

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AIはエンジニアの仕事をどう変えるか?生産性向上と「設計思想」の重要性

末本氏:営業から人事まで、全社的にAI活用が進んでいることがよくわかりました。ここからは、開発現場にフォーカスしてお話を伺います。

北原さん、エンジニアの開発チームでは、AIをどのように活用し、どんな影響を受けていますか?

北原:開発現場では、市場に次々と投入される生成AIプロダクトをどう活用するかが重要なポイントになっています。

我々は、開発で使うAIツールをあえて決めていません。エンジニアそれぞれがいいと思うものを使っています。

VS Code派はCursor、Junie派はMicrosoft Copilotといった具合に、各々が慣れた環境でAIを自発的に使っています。これが結果的に、非常にいい効果を生んでいます。

末本氏:ボトムアップでAI活用が進んでいるのですね。生産性への効果はいかがでしょうか?

北原:効果は非常に実感できていますね。特に、シニアエンジニアほど生産性向上の度合いが大きい傾向にあります。

ある新規プロダクト開発を、エンジニア2名(稼働30%程度)とAI開発エージェントのDevinで4ヶ月間にわたり開発したところ、コードのコントリビューションの約半分がDevinによるものだった、という事例もありました。

末本氏:半分がAIですか!ただ、開発スピードが上がることによる弊害、例えば技術的負債といった課題はありませんか?

北原:おっしゃる通りです。開発速度が上がると、技術的負債が溜まるスピードも上がります。

いわゆる「Garbage In, Garbage Out」で、質の低いコードベースでAIを活用すると、質の低いコードが量産されてしまう。

AI開発の生産性の高さを維持するためには、いかにコードベースを良質な状態に保つかが、これまで以上に重要になっています。

末本氏:となると、これからのエンジニアに求められる役割も変わってきそうですね。

北原:実装の多くをAIにアウトソースできるようになったいま、エンジニアの役割は「設計」へとシフトしています。

そこではコードに対する深い理解や、なぜその設計を選ぶのかという「思想の深さ」が何より重要になります。これは、AI時代のエンジニアの武器になると考えています。

未来の「AIカンパニー」を支える採用とリブランディング

末本氏:これからは、採用戦略もアップデートが必要になると思います。AIカンパニーへの変革を加速させるために、どのような採用戦略をとっていますか?

大倉:ポイントは、「SHIFT=テストの会社」というイメージをアップデートすることです。

そのために、私や北原のような現場の人間がイベントに登壇したり、オウンドメディアや外部メディアでの露出を意図的に増やしたりと、AIネイティブカンパニーとしての訴求に力を入れています。

「SHIFTは本気でAIを活用している」ということを、少しでも多くの方に知っていただきたいですね。

末本氏:どのようなエンジニアの方に、SHIFTの魅力を感じてほしいと考えていますか?

大倉:我々の組織には、世に広く知られた「大きな」プロダクトが存在するわけではありません。

だからこそ、0→1の立ちあげフェーズに面白さを感じる方、変化を恐れず前のめりにチャレンジできるマインドをもった方にフィットする環境です。

多様なテーマで小さいプロダクトを高速で開発する、0→1の挑戦を楽しめる方を歓迎しています。

末本氏:採用において、国籍などは意識されていますか?

北原:我々の組織は、むしろ海外国籍のメンバーが多いですね。最近だとブラジル、韓国、ギリシャ、フランス、インドネシアなどの国籍の方が入社しました。

大倉:海外の方は我々を「テストの会社」だと思っていないので、先入観なくカジュアルに応募してくださることが多いんです。AI時代になり、国籍のボーダーはどんどんなくなっていると感じます。

末本氏:本日はありがとうございました。代表の一声からはじまった壮大な変革が、組織、開発、採用において着実に進んでいることがよくわかりました。SHIFTの挑戦は、まさに道半ばといったところですね。

大倉:はい、その通りです。我々はテスト事業で長年培ってきた「品質へのこだわり」という強力な武器をもっています。

この強みを活かしながら、「AIネイティブのSIカンパニー」として、世の中に新たな価値を提供していきます。

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)