AIエージェント「mentai」と挑むSHIFT流ピープルアナリティクス――人的資本経営の最前線

2025/08/29

第10回HRテクノロジー大賞で、栄えある「大賞」を受賞。

こんなうれしいニュースが飛び込んできた2025年8月。評価されたのは、AI活用を含む高度な人事データ分析を業務への実装にまでつなげることで、人材流出の防止や生産性向上に寄与する取り組みでした。

その具体例が、従業員の本音をAIで引き出して社内コミュニケーションの改善に役立てる「mentai」の開発・運用です。

これを推し進めるのはピープルアナリティクスラボ。同ラボは採用・配置・育成・定着など人事領域の意思決定を支える解析と、生成AIや機械学習を活用した人事DXに取り組んでいます。

今回は、悩みを抱えるメンバーの早期発見にもつながっているという「mentai」開発の裏側や同ラボが目指す方向性について、所長を務める福山に聞きました。

第10回 HRテクノロジー大賞 授賞企業決定! 

  • コーポレート人事部 ピープルアナリティクスラボ 所長 福山 晋太郎

    新卒で日本郵便の総合職として入社し、経営企画や新規事業開発、DX戦略・推進など幅広い業務を経験。2021年にはJTへ転職し、HR領域でピープルアナリティクス組織を立ちあげ、AIを活用したデータドリブン人事の推進により成果をあげる。2024年7月にはSHIFTに入社し、「ピープルアナリティクスラボ」を立ちあげ所長に就任。AIと統計学を活用した高度な人事データ分析と業務実装に取り組むとともに、生成AIを活用した「AIエージェント|mentai」をゼロから企画・開発。プロダクトマネージャー(PdM)としても実績をあげている。2025年8月には、自身が推進するピープルアナリティクスと「mentai」の取り組みが評価され、第10回HRテクノロジー大賞において、応募総数78事例のなかから栄誉ある「大賞」を受賞。

目次

社内コミュニケーションを最適化し、人的資本を最大化する

――ピープルアナリティクスラボは福山さんが入社に伴って立ちあげたと聞いています。どんな活動をしているんでしょうか?

福山:はい。具体的な業務内容には、ピープルアナリティクスの戦略企画、AIなどの最新テクノロジーを駆使したデータ収集・分析、AIを活用した予測モデルの構築やレコメンドモデルの構築があります。

  1. ピープルアナリティクスの戦略企画については、従業員体験(EX)の向上を軸に、従業員との信頼関係を構築して、良質なデータが収集できる仕組みを設計。
    データ活用でSHIFTが大切にしているLTVモデルがうまく機能するよう、戦略を策定しました。

  1. AIなどの最新テクノロジーを駆使したデータ収集・分析については、「mentai」という従業員の深層心理を可視化するAIエージェントのプロダクトマネジメントと業務への実装をしています。
    「mentai」とは、AIと上司が協働してすべての従業員の悩みに向き合えるAIプロダクトです。

親しみやすい明太子の「めん太」キャラクター(AI)が能動的に従業員に話しかけ、1on1面談をはじめます。

ラボで開発した独自の対話技術と構造化により、従業員と同じ目線で対話し、心理的安全性を確保しながら自然と本音や深層心理に触れることができました。 

  1. AIを活用した予測モデルの構築やレコメンドモデルの構築については、例えば、当社で独自開発した人材マネジメントシステム「ヒトログ」に蓄積したデータを活用して、ブラックボックスにならない退職予測モデルを構築し、業務への適用を行っています。

――「めん太」くん可愛くて、ついつい話したくなっちゃいます!対話のなかではどのような工夫がされているのでしょうか。

福山:まずは、共感や承認、悩みへのアドバイスを交えながら従業員と対話すること。

そして、対話終了後には、自身の現在の状態とネクストアクションを明記した個人向けフィードバックシートを即時生成し、従業員体験(EX)価値を最大化することです。

また、上司向けフィードバックシートには、個人の性格、特性や価値観、めん太くんが1on1をして聞き出した悩み要因データをもとにAIで解析した最適な面談方法レコメンドが記載されています。

このシートは、主に上司が部下とのコミュニケーションを改善する目的で使われます。

つまり、「AIによる1on1 → 悩み要因の特定 → 上司へのレコメンド → 効果的な解決策の実施」という、人的資本を最大化するサイクルを構築しようとしています。

これは、従来の1on1ミーティングに革命をもたらす取り組みです。

AIと上司が協働することで、1on1を全従業員に届けられると同時に、上司はもっとも重要な解決策に専念した対話に臨めるようになります。

また、ピープルアナリティクスにおいては、「mentai」での1on1対話データを、独自の「二層タグ構造技術」によって解析し、悩みの要因を可視化しています。

これまで、こうした定性分析には膨大な工数を要していましたが、生成AIを活用した分析で、属性ごとの従業員の悩み要因やモチベーションの源泉、感情などを可視化する高度なピープルアナリティクスを実現しました。

――「mentai」の開発において、特にこだわった点は何ですか?

福山:従業員の本音を引き出すには、高いユーザー体験が不可欠です。特に、誰もが親しみをもてるキャラクター設計、機械感のない会話体験、適切な所要時間の設定にこだわって開発を進めました。

なかでも、「めん太」のキャラクターづくりやフィードバックを含めた対話体験は試行錯誤を重ね、従業員にとって心理的安全性の高い世界観になるよう、緻密に設計しました。

――定性情報をAIで分析し、具体的なアクションにつなげる部分も、技術的に難易度が高そうですね。

福山:はい。データ設計とAI実装の総合力が必要でした。mentaiでの対話から得た定性情報をもとに、生成AIでスコアリングを行い、機械学習系のAIや統計的解析を用いて退職予測モデルを構築しました。

予測結果と先ほどの面談レコメンドシートを用いて、深い悩みを抱えている従業員には、上司が全員面談を行い、退職を防ぎ、パフォーマンスを底上げする取り組みを推進しています。

裁量と熱量のある場所で、「日本の人事」の革新に挑む

――福山さんはSHIFTに入社するまでのキャリアで、一貫してデジタルを活用した新規事業開発やAI活用、ピープルアナリティクスに携わってきましたよね。転職を考えたきっかけは何だったのですか?

福山:会社のブランド力や知名度に頼らず、自分の力でピープルアナリティクスや、新規事業、HRtechプロダクト開発に勝負してみたい気持ちが大きくなったからです。

これまで成果を出せたのは、誰もが知っている老舗の大企業のブランドや知名度による影響もあったと思うので。

SHIFTに決めた大きな理由は、外注はせず内製する文化や、内製化したものを積極的に事業化していくベンチャーマインドに惹かれました。

また、SHIFTのクレド(行動指針)である「楽しいと思えることを提案し、自ら仕事を創りだす」「できないとは言わない、できると言った後にどうやるかを考える」に共感したためです。

こういうマインドをもった従業員が集まる組織は、会社としても急成長できますし、それが日本経済を復活させる重要な要素になるとも感じました。

HRtech系のスタートアップへの入社を検討したこともあります。しかし、まずは勘と経験に頼り過ぎている日本の人事の仕組みを革新したいと思いました。

人的資本経営に取り組むSHIFTなら裁量をもってこの野望にチャレンジできると考えたのです。

ゼロからの立ちあげ10ヶ月、第10回HRテクノロジー大賞での大賞受賞

――ピープルアナリティクスラボの立ちあげから短期間ですでに大きな成果を得ていると聞いていますが、具体的に聞かせてもらえますか。

福山:はい、2025年2月から全正社員の約5,200名に「mentai」を使ってもらい、それらのデータを活用したピープルアナリティクスにより、例えば以下のような成果を得ています。

  1. 従業員が抱えている悩み要因の詳細(本音)を可視化
  2. 対話実施率95%を達成。79%の従業員が「AIとの対話が有用」と評価
  3. mentaiと従業員満足度や評価フィードバックなどのデータを活用して退職予測モデルを生成し検証したところ、予測結果の母集団から通常の13倍の退職者が発生したことや、上司との感覚との相関も認められたため、予測モデルの有用性を確認
  4. 退職予測モデルで抽出した退職リスクの高い従業員に対し、mentaiと個人特性データから作成した「面談レコメンドシート」で面談を実施
    その結果、71.9%の従業員がポジティブに変化し、退職阻止につながるとともに、約2.8億円のコスト削減効果(試算)を創出

さらに、この10ヶ月間がむしゃらにチャレンジしつづけた取り組みや成果が、社外からも評価していただき、第10回HRテクノロジー大賞で大賞受賞に至りました。

応募総数78事例からの選抜、SHIFTでは同賞において初の大賞受賞でしたので感無量でした。

――これだけの成果を短期間で実現できた背景には、どのような要因があったのでしょうか?

福山:ピープルアナリティクスとプロダクトのすべてを内製で開発したことが大きいと思います。

もちろん、内製開発だと苦労する点は多いですが、あらゆるデータ分析やAI活用、プロダクト企画・設計をすべて私が理解して実装することで、自社内にすべてのナレッジや運用ノウハウが蓄積されます。

そのノウハウがあるから新規事業化にもつなげていくことができるのです。

このような挑戦を後押しするSHIFTの文化があったことが、成功の要因の1つだと考えています。SHIFTでは、個人の「圧倒的な主体性」を尊重していますから。

――今後、福山さんはどのような活動に挑戦していきたいですか?

福山:今後は、第10回HRテクノロジー大賞で大賞を受賞した「mentaiとピープルアナリティクス」の取り組みを広く発信していきます。

これにより、日本全体におけるAI×ピープルアナリティクスの進化を促し、ネガティブな退職をなくすとともに、誰もが個性を活かし、いきいきと働ける真の人的資本経営の実現を目指していきます。

また、「mentai」のプロダクト自体も進化させる方針です。

現段階でも従業員を深く理解できるようになっていますが、今後は一人ひとりに合わせたパーソナライズ機能の強化や、マルチエージェント化による機能拡張を進めていきます。

その他、効果が出はじめた退職防止に加え、データドリブンな最適配置のために、新卒新入社員の性格データやハイパフォーマーデータをもとにした活躍予測と業務実装も進行しております。

稼働率などの経営に直結する指標と、mentaiや従業員満足度、個人特性データといった個に関連する指標を紐づけたピープルアナリティクスにより、人的資本経営に貢献していければと思っています。

――本日はありがとうございました! 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)

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