AIでソフトウェアテストを自動化。膨大なデータ、経営層とのやりとりにみるSHIFTの引力

2025/03/24

幼少期からプログラミングに親しみ、中学2年のときに初出場したロボカップジュニア世界大会で優勝。高校2年で国際学会での論文発表、さらに京大在学中にアプリ開発やエンジニア人材開発を手がける企業DeMiAを起業。

そんな経歴をもつのは、SHIFTグループの1社でもあるDeMiAの代表を務める坂本氏です。

今回の記事では坂本氏に一エンジニアとして、同社が現在SHIFTと共に進めるソフトウェアテスト×生成AIの開発研究について聞いてみました。エンジニアにとってSHIFTという会社の魅力はどんな点にあるのでしょうか。

  • 株式会社DeMiA 代表取締役社長 坂本 京也

    京都大学工学部電気電子工学科卒。幼少期よりプログラミングやロボット制作に親しみ、SpaceRobotContest11優勝、RoboCupJunior世界大会優勝。高校2年で国際学会での論文発表を経験。京都大学入学後、2018年5月に学生団体AkaDeMiAを発足。2019年8月には株式会社DeMiAを設立、同社は2022年5月、SHIFTグループに参画。RoboCupJuniorJapan 技術委員も務める。

――まずDeMiAについて教えてください。坂本さんが京大在学中に創業した会社ですよね。どんな事業を展開しているのでしょうか。

坂本:Webアプリ・スマホアプリの受注開発を基幹事業とし、その過程で得た「DeMiA ナレッジベース」を活用して、研究や教育事業も展開しています。

特に研究は、新規技術の導入を積極的に行い、ブロックチェーン・AI・3Dモデリングなど先端技術を用いた開発に対応しており、京都大学出身のアカデミックな集団による研究と高品質でスピーディーな価値検証が特徴です。

例えば医療系スタートアップ様向けに、数理・深層学習モデルを組みあわせて需要予測を算出した事例があります。突発的な需要の増減にも対応し、実測値との誤差も少なくできました。

―――現在はSHIFTが開発するテスト設計支援ツール「TD(Test Designer)」にAIアシスタント機能を搭載しようと試みている(TD AI Assistant)と聞きました。

坂本:はい、高速かつ高品質なテスト設計を実現するために、テストシナリオの作成などをAIをもちいて自動化しようとしています。

Azure OpenAIのGPT-4oや独自モデルを含む12個の生成AIを使いわけていて、オープンソースで公開されているモデルをファインチューニングしています。

ソフトウェアテストには論理的な思考が必要とされ、それによって十全な設計ができるわけです。

一方で生成AIはすべてを網羅するというのが苦手なので、その点をどうやって人間に近づけるかというアプローチが技術的にむずかしい点ですね。

そのために仕様情報を複数の観点から構造化し、観点を分類することで網羅的な出力を可能にできるようなアプローチをとっています。

もちろん、元になるデータ2,500万件に対してEDAをおこなったり、細かいところも丁寧に行うことで生成の精度自体を向上させたりすることも必要ではあるのですが。

―――なるほど。ちなみにTD AI Assistant以外にSHIFTグループ内でどんな取り組みを?

坂本:グループ会社のSHIFT PLUSが提供する「VoiceMill」のAI分析を行いました。お客様からの問いあわせを要約し、分析分類するものなのですが、Azure OpenAIを使うのではなく、独自のLLMモデルを組みあわせています。

「とりあえずAIを使うためにAPIを」というものではなく、課題に対する最良の解決方法を複数の観点から模索するという観点で、興味深い取り組みでした。

そのほか、SHIFTにはすでに総合ITソリューションを提供する顧客基盤があるため、高い解像度でお客様の課題解決に取り組むことができています。

例えば、需要予測といったテーマでは、実際に取得できているデータとモデルが必要とするデータとの乖離があることはよくあることだと思いますが、将来的に取得可能にすべきデータの提案など、「本質的に意味のあるものをつくる」という点でSHIFTと私たちは同じ方向を向いているため、ポジティブにプロジェクトを進めることができます。

―――なるほど。SHIFTとさまざまな取り組みを進めるなかで、エンジニアとしては特にどんな点が面白いと感じますか?

坂本:ソフトウェアテストに関する膨大な独自データを保有している点です。

国内屈指であることはもちろん、海外に目を向けてもこれほどのテストの実績とデータをもっている企業は稀有ではないかと個人的には思っていて。

このデータを思う存分つかっていいですよ、という環境は、エンジニアにとって非常に魅力的。システムやアプリといったいわゆる「ガワ」「箱」をつくれる会社は多くても、実データをもっている企業は少ないですから。

また、データはたくさんあるとしてもそれが構造化されているかという点は別問題です。

テスト標準観点をベースに、ある程度整理されたデータがラベリングされた状態で存在しているというのはPoC的にデータ解析を行うときに非常にありがたいのはわかっていただけると思います。

それからエンジニアにとってありがたいのは、SHIFTの経営層は技術的なテーマも論理的に理解してくれ、よい提案はその場で即決まる点。

相手のレイヤーの高さに忖度をして提案を通しきるまでのマイルストーンを敷いたり、エレベーターピッチをしたり、といった行動が不要です。

世を見渡すと感情論や政治で意思決定されることも意外とおおいですが、SHIFTでそうしたシーンに出会ったことはありませんね。

事業をどんどん成長させていこうという想いの強い経営層なので、グループ連結で従業員数が1万人を超える規模であっても日ごろから勢いを感じますし、AIを使った研究開発には期待が大きい。

そういう環境でどんどんチャレンジしたいんだというエンジニアには合っていると思います。

―――勢いやスピードはSHIFTらしさの一つでもありますね。ところでSHIFTにはいわゆるCTOがいませんが、その点はどう思われますか?

坂本:CTOというとあらゆる技術を広く深く知っているスーパーCTO的な人を想像しがちなのですが、そういう人は世の中にはほとんどいません。

じゃあCTOの役割って何かというと、この会社はこの技術にbetします、注力します、と決めること。その判断をしてカルチャーを浸透させる人がSHIFTに必要かという議論が必要だと思います。

テクノロジーを絞り込むと、人も集めやすいしカルチャーもつくりやすいんですが、さきほどいったように話がわかる経営層がいるので、「会議ごとにテックリード的な役割を担う人が技術領域の話をする」というやり方で、いまはスムーズに進んでいます。

―――今後、坂本さんが貢献したいと思っていること、ご自身がもつ社会への想いをお聞かせください。

坂本:世の中には目的の範囲が広いAI、狭いAIがありますが 、多くの企業はさまざまな状況に適応できる前者を用いて問題解決したいと思っているでしょう。

でもそれでは情報資産が残らず、いつまでもデータの保有者にはなれません。モデルやサービスのアップデートに影響を受けるという点でもリスクがあります。

その点、SHIFTの経営層は、汎用型と特化型それぞれを適切に使いわけようと冷静に判断する姿勢なので、エンジニアの視点で「特化型AIが必要です」と論理的に提案すれば話が通りますし、その先で私やDeMiAが貢献できる部分が今後も増えていくと思います。

AIエージェントについても、推論モデルの発達、高度な自動化思考、AIへの権限付与という3つで完成するわけですが、データ構造やルールを変えることも含め「人間の活動自体をAIに寄せていく」ことは社内で粛々と進んでいます。

先に伝えたTD AI Assistant以外にも人事やバックオフィス、営業といったさまざまな領域で取り組みがあるので、それらの知見を結集して大きなチームをつくり、確度をたかく研究開発を進めていけたらと個人的に考えているところです。

少し大きな視点でいうと、日本はまだまだトレンドとしてのAIに飛びついている状況で、AIをツールとして理解したうえでの適切な活用や競争が生まれていないように感じています。

例えば建築業界のように一つ一つの造作物の必要性を当たり前に判断していくようなことが、IT特にAIまわりでは浸透していません。

非エンジニアを含めた社会全体がAIを正しく理解すること、ひいては国際社会で日本が戦えることにもつながる、その起点にSHIFTグループがなれたらうれしいですね。

―――本日はお忙しいなか、ありがとうございました!

※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです

この記事のタグ