2024年11月13日、SHIFTが手がける技術イベント「SHIFT EVOLVE」より「トップエンジニアに学ぶ成功術(もっと良くなる日本のIT vol.2)」と題されたセッションが開催されました。
アメリカで最先端の技術を開発しながら、SHIFTの技術顧問も務めている川口耕介氏が“いま話したい人”をゲストに迎える本シリーズ。
今回はニフティ、はてな、一休と数々の有名企業で成功を収めてきたトップエンジニアの伊藤直也氏に、その経験のなかで得られたプロダクトマネジメントとチームビルディングの成功術についてディスカッションしていきました。
※1時間半近いセッションだったため、特に印象深かった箇所をピックアップして編集しております。
※SHIFT EVOLVEとは?
SHIFTグループが主催する技術イベント。エンジニアコミュニティから技術をEVOLVEしていこう、という想いで運営し、メンバー登録者数は3,700人を超える(2024年12月時点)。開催予定のイベントは以下よりチェック。
https://shiftevolve.connpass.com/
※「もっと良くなる日本のIT vol.1」のイベントレポートはこちら
▶︎クレディセゾンCTO小野和俊氏に訊く、エンプラ企業DXの成功事例
-
伊藤 直也 株式会社一休 CTO
青山学院大学大学院物理学博士課程前期終了後、新卒でニフティ株式会社に入社。ブログサービスココログを開発。その後、株式会社はてなの取締役CTOに就きはてなブックマーク開発などを主導。フリーランスでの活動を経て、2016年4月に一休に入社し、執行役員CTOに就任(現職)。
-
川口 耕介 株式会社SHIFT 技術顧問
・Sun Microsystems在籍中にCIツールの草分けJenkinsを開発
・米CloudBeesにてCTOとしてJenkinsや関連サービス・製品の発展・普及を推進
・SHIFTの技術顧問に就任(2019年)
・AIを使って自動テストの効果を改善するサービスLaunchableを米国で立ち上げ(2020年)
・同サービスの日本法人Launchable Japanを立ち上げ(2020年)
https://www.launchableinc.com/
目次
文章を書くのも、プロダクトをつくるのも、本質は一つ
川口:伊藤さんとこうしてお話をするのははじめてなのですが、いろいろな記事を拝見すると、言語化能力がすごい方だなって思っていました。
伊藤:言語化が上手ですねとよく言われる気がするのですが、僕自身は自分がそこにすごく強みがあるとか、こだわっているという感覚はほぼゼロなんですよ。
ただ、表現によって物事をコントロールしているという認識はあって、プレゼンテーション能力が仕事に重要な役割を果たしているって感じることは多いんですよね。
もっといいますと、基本的に文章を書くときも、プロダクトを作るときも、社内に対して何か発信して影響力を与えるときもそうなんですけど、本質は一個しかなくて、「コンテキストを相手に合わせる」って、ただそれだけ。
文章を書くときに、読み手の人が何を読みたいかって考えて書く。プレゼンテーションをするときも、ここにいる人たちにどういう言葉を伝えたらこの人たちが動いてくれるかということを考えて話す。
今日の話も、実はちゃんと視聴者のことを考えてお話ししています。
川口:それは本来インタビュアーが果たすべき役割なので大変恐縮です。
伊藤:いえいえ。ソフトウェアをつくる時もどういうインターフェイスにすれば、それを見た人が意図を読みとれるかっていうことを考える。全部共通しているじゃないですか。
僕は何かのときにそれに気づいて、仕事というのは基本的にそれさえやっていれば、うまくいくっていう感覚をもつようになりました。
世の中のプログラミング論みたいなものを見ていると、「コンテキストをユーザーに合わせる」という視点が欠けてるなって感じることが多いですね。
より良いプログラムを作るには、「実装の詳細よりもインターフェイスの方が大事」というのはまさにそういうことだし、「意図が相手に伝わるように変数名をつける」ということも突き詰めていくと、相手のコンテキストに立って全てができていればいいということを言っているのだと思います。
とにかく「問題」を理解することが大事
川口:伊藤さんのマネジメントスタイルについても伺いたいです。CTOというある種なにをやってもいい立場だからこそ、「いまこれをやっていていいのか」みたいな感覚ってありませんか?
伊藤:僕の場合はあまりその感覚はなくて、「要するにこのチームでめちゃくちゃいいものをつくれればいいんでしょ」「なんなら自分がコード書いてそれができればいいんでしょ」みたいな感覚でやっていますね。
達成しなくちゃいけないものが明確なので、足りないものを足せばいいと。
あとは、多く存在する課題に対して、「いま一番大事なことを解決すれば、それでいいや」と思って割り切っているという感じです。
川口:一番大事だと思ったものにコミットすると。
伊藤:もともとはマネジメントをやりたい人間ではないのですが、ある障害対応をしているときに、「何が大元の問題なのかをまずは明らかにしなきゃいけない」と気づいてですね。
障害が収束しないのは、メンバー個々人の力が足し算になっているだけで、掛け算になってないからだ、と。
「それぞれができることをやっていれば障害も解決できるかもしれない」という考えから、「解けるかわからないけど、問題はこれだ」と明らかにしていくよう取り組みました。
そこで物事を考える順番が、マネジメントとひとりの現場メンバーとしての立場で全然違うということに気づいたんです。
マネジメントとして問題を明らかにすること、問題が大きければ人を集めて解いてもらうということをやってもらうようになってから、問題先行型で思考がまわるようになりました。いまもその姿勢は変わっていません。
プロダクトマネジメントの教科書とかを見ると、まさにそういう「とにかく問題を理解することが大事」ということを書いていると思うんですけど、ソフトウェアエンジニアリングに限らず、人生においても同じことがいえるのではないかと思います。
川口:問題設定からスタートしないタイプの人は実は多いですよね。
伊藤:最近、チームマネジメントに悩む人たちが多いじゃないですか。
みんな、どうやってチームビルドすればいいかってことばっかり議論しているのですが、すごく大事なことは、マネジメントのプロセスのノウハウではなくて解くべき問題があるかどうかだと思うんですよね。
解きたい問題があって、そこにいる人がみんなその問題を解きたいと思っていたら、勝手にチームってビルドされていくじゃないですか。
だから、繰り返しになりますが、まず問題を明らかにするということは何よりも大事だと思っています。
川口:CTOとして結果を出す、みたいな観点でのプレッシャーはどうでしょうか?特に、いわゆるパラシュート人事ってやつで入った場合に。
伊藤:結論からいうと、すごく苦労しました。というのも、CTOに限らずマネジメントポジションでパラシュート人事で入ると、やれることが山ほどあるんですよね。
でも、些細なことばかりやっていると1〜2年後ぐらいに「もう無理」っていう状態になるなと。それこそ一休に入ったころ、やれることはたくさんありました。
レガシーコード対応とか1on1導入とか、それらを一個ずつやっていくだけで「仕事している感」が出ます。
でもずっとそれをやっていると、会社に3年もいるのに、ホテル予約とかレストラン予約のことを何もわかっていないっていう状態ができあがっちゃう。
1年目で頑張ってどこか本丸の領域に飛び込むと2〜3年目でその本丸に関わっていけるのですが、そこから逃げていると、3年もいるのにドメインのことがやれてないっていう自責の念に駆られて、辛いと思います。
川口:大きな夏休みの宿題を前にした小学生みたいな感じですね。とりあえずちょっと机の掃除からはじめようかな、みたいな(笑)やっぱり最後に向き合わせるのは、上の人の仕事っていうことですか。
伊藤:それはあると思います。だから僕もマネジメントとして、多少辛くても、相手にやらせなきゃいけないところはやらせるのが仕事だと思っています。
人間の能力なんてそんなに差がないので、あとは作法の問題だ
川口:チームビルドの話で、必要な人材を集めるよりも、人がもうすでに決まっている場合も多いと思うのですが……?
伊藤:僕のなかにある感覚なんですけど、人間の能力なんてそんなに差がないって思っています。
僕自身、別に何か特別な能力やIQがあるわけではないのに、やればできているわけですから、「みんなもやればできるでしょ」みたいな感覚があるんです。
もちろん得意不得意はそれぞれにありますし、メジャーリーガーになれってのは無理ですが、草野球くらいであればちゃんと真面目に練習したら勝てるでしょ、ぐらいの感覚でマネジメントをしています。
川口:外から見たら草野球のチームだとは思われてないと思いますけどね(笑)
伊藤:それこそ2000年代あたりって、Google最強みたいな話があったじゃないですか。もう本当にすごい人しかいない会社、みたいな。
そんななかで、はてなという小さな会社で国内向けSNSをつくっていたので、Googleの人たちにつくれないものをつくらないと生きていけないっていう感覚を強く持っていました。
いかに平凡な人たちでGoogleにつくれないソフトウェアをつくっていくかっていうことを突き詰めていくので、次第に僕たちでもできることがあるよねっていう道筋が見つかっていくし、それでいくつかヒットするサービスをつくれたからそれが自信になって、「やればできるじゃん」という感覚に至れたんだと思いますね。
川口:具体的にどうやってチームを動かしていったんですか?
伊藤:平凡な人たちが平凡なつくり方をしてたら、平凡なものしかできないので、じゃあどうやって変わったつくり方をするかということを追求していましたね。
一つのプロダクトをつくるのに、朝から晩までずっと議論するとか、合宿に行くとか。いろんな変わったことをやると、いつもと違う出力が出ることに気づいて、その再現性を確認しながら進めていました。
人を変えるのはむずかしく、チームのインタラクションそのもののデザインを変えて出力を変えることの方が圧倒的にコントローラブルなので、そっちにフォーカスしましたね。
この辺の感覚は、プロダクトとかサービスを自分自身で上から下までつくったことがあったからこそ身についたんだと思います。
川口:すごく夢と希望のもてる話だなって思います。みんな大丈夫だよ、あくまで作法なんだよと。
伊藤:そうです、すべては作法の問題なんですよ。みんなミーティングを朝にやったりするじゃないですか。
あの朝会を何気なくやっている人たちがたぶんすごく多いと思うのですが、僕なんかは、その朝のミーティングで何を話すかがプロダクトをつくるときに重要なことだと思っているんです。
そこで大事な話ができるかどうかが、プロダクトづくりの成否を決めるぐらいに思っていて。
だから朝会のやり方がうまくなかったり、重要なアジェンダが自然にあがってこないようなチームがあったら、「明日の朝にこういうコンテンツをもってきてくれ」みたいに、まずは作法を整えるようにしています。
そうやって毎日自分のサービスについてみんなで激論を交わしてると、当たり前ですけどオーナーシップが生まれますからね。あくまで作法の話なので、個人の能力に依存してないと思っています。
イベント全編をご覧になりたい方は👇
―――さまざまなテーマでイベントを開催中のSHIFT EVOLVE。今回は「もっとよくなる日本のIT」と題したシリーズ第二弾でした。次回以降もぜひお楽しみに。
3,700名を超える登録者数!技術イベント SHIFT EVOLVEをチェック
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)