堅牢な業界・マルチベンダー制。高難度の案件で、アジャイルコーチとして信頼を得るには

2024/07/17

「アジャイルが適していないご相談には、キッパリと『やめた方がいい』と伝えるべきです。少なくとも私はそういうスタンスで挑んでいます」 

このように話すのは、SHIFTのアジャイルサービスグループを率いつつ、自身もアジャイルコーチとして活躍する船橋 篤史です。 

アジャイルコーチと聞くと、アジャイル開発プロジェクトの成功に向けたリード役とイメージするでしょうが、大前提として、そのプロジェクトがアジャイルに適している/いないの判断が大事だと船橋は強調します。 

これまでアジャイルコーチとしてさまざまなプロジェクトに携わってきた船橋は、どのような経験/スキルを活かしながら、お客様の信頼を得てきたのか。某金融系事業会社様の案件を例に挙げてもらいながら、じっくりと聞きました。 

  • アジャイルサービス1グループ グループ長 船橋 篤史

    SES企業やソフトウェアベンダーでの保守開発や自社サービスの開発、スクラムマスター、SREなどの経験を経て、2020年8月にSHIFT入社。入社直後からアジャイルコーチやQAリードエンジニアなどのロールで各種プロジェクトに参画。2021年9月からはグループ長としてグループ管理を担いつつ、お客様のアジャイルチーム化を総合的に支援・マネジメントしている。

目次

“アジャイル風”からはじまったアジャイルキャリア

――船橋さんは現在、アジャイルサービスグループのグループ長であり、またアジャイルコーチとしても活躍されていると思うのですが、そもそも、いつごろからアジャイルに携わるようになったのでしょうか? 

船橋:それっぽいことをやりはじめたのは2012年からですね。当時、パッケージソフトベンダーに勤めていたのですが、そこでアジャイル開発を謳うプロジェクトに参画していました。実際にはアジャイル開発じゃなかったんですけどね。 

――というと? 

船橋:適切なフィードバックもなければ、教科書通りでもなくて、ただプロジェクト期間を区切って進めていただけ。それを当時は“アジャイル開発”と表現していました。 

最初はそんなものかと思っていましたが、独学で学んでいくうちにすぐに「こりゃ全然違うな」と思いはじめ、一度原点に立ち返りましょうということで、2016年の大きな組織改正のタイミングで、“なんちゃってアジャイル”ではなく、基本的なアジャイル開発のプロジェクトに変更しました。 

――そこから4年後にSHIFTへと入社されているわけですが、どんなきっかけでSHIFTを知ったのでしょうか? 

船橋:いまのアジャイルサービス部 部長の佐藤さんとの繋がりからです。業界内のコミュニティで佐藤さんと仲良くなって、お互い北海道出身ということもあっていろんな話をするなか、当時から感じていた課題感も共有していました。 

アジャイル開発でも、品質はちゃんと考えないといけないよね、と。 

事業推進のスピード感は損なわずに品質担保できるようなアジャイルコーチとして活動していきたい、と伝えたところ「だったらSHIFTがいいのでは?」となったわけです。 

前職の会社でアジャイルコーチをやるという道ももちろんあったのですが、特定のサービス領域である必要性はないなと思ったんです。

SHIFTのように他社を支援していく立場で、幅広いプロジェクトを経験していきたく入社を決めました。 

マルチベンダー体制下でのアジャイル開発を推進

――SHIFT入社後から一貫してアジャイル開発プロジェクトに携わられていると思いますが、数あるプロジェクトのなかでも特に印象的だったものを教えてください。 

船橋:いろいろとあるのでチョイスがむずかしいですが、某大手証券会社様のWeb株取引サービスの開発プロジェクトは面白かったですね。

お客様のグループ会社がプロジェクトオーナーとなって、開発会社2社がシステム開発を進めていき、SHIFTがQAを担当するという、いわゆるマルチベンダー体制のプロジェクトです。 

アジャイルコーチとして5社を一つのチームとして束ねていく必要があり、プロセスがどうあるべきかなど、難度の高いポイントが何点もありました。

私以外のSHIFTメンバーとしては、テスト自動化のアーキテクトとQAリードエンジニアがそれぞれいて、残りは全員品質保証エンジニアという感じです。 

――金融業というだけでもアジャイル開発難度が高い印象ですが、さらにステークホルダーも多いと。お客様とはそのプロジェクトが初回取引だったのでしょうか? 

船橋:いえ、もともとアジャイル関連カンファレンスにSHIFTが登壇した際にお声がけいただき、そこから3つほどQA関連のプロジェクトを担当させていただいたうえでのご依頼でした。 

今回は特に株取引サービスということで、ダイレクトにエンドユーザー(利用者)へと影響をおよぼす以上、ユーザーからのフィードバックがとても重要になります。

とはいえ、私たちが直接フィードバックを受けることができるわけではありません。 

ユーザータッチポイントとして、一番の強みである窓口でお客様からヒアリングなどをしていただく必要があるため、そこの調整やヒアリング項目案の作成など、細かいところを整えていきました。 

もちろんそのほかにも、プロジェクトの存在目的や達成ゴールの整理、チームビルディング、開発プロセスの分析・改善、メンバーのモチベーション管理、プロジェクト品質の分析など、アジャイルコーチとして必要なこと全般を担当してきました。 

――船橋さんがこのプロジェクトで一番ワクワクしたポイントは何ですか? 

船橋:アジャイル開発って基本的には、プロジェクトチームのなかだけに働きかけるのではなく、組織全体を巻き込んで改善していく必要があります。

特に今回のプロジェクトはベースとなる企業規模や巻き込む人数が非常に多いので、その分やりがいもあってワクワクしましたね。 

開発、スクラムマスター、SREなど。幅広い経験で得た学びを応用

――そういった「巻き込み」のために、このプロジェクトで特に工夫されたことはなにかありましたか? 

船橋:巻き込まれる人が多くなるほど意思決定が遅くなりがちだと思うのですが、そうならないようコミュニケーションをとる際に、数値を根拠にお伝えすることですね。 

細かい話ですが、JIRAやGitの更新データとか、プロセスの活動時間とか、コードレビューにかかった時間とか、ソースコードがどれだけ改修されているかとか、SHIFTだと当たり前ですがテストケースの不具合数とか。

データを収集・整理し定量分析をしたうえで、気づきを与えつつ議論し、意思決定を促していく。 

そういうことを通じて、定量的な材料をもとに議論する土壌を整えていきました。あと、このプロジェクトに限った話ではないですが、アジャイルを押しつけないことも日々意識しています。 

これまでその企業が採用してきたプロセスって、絶対に何かしらの意図があってやっているはずなので、いままでのやり方を否定するのではなく、うまく整理したうえで取捨選択したり肉づけしたりしています。 

――いろいろと細かい気配りや幅広い知識が必要になってくると思うのですが、船橋さんとしては、ご自身のどんなキャリアが活かせているとお考えですか? 

船橋:そこは前職も含めて、いろんなことをやってきた経験が奏功していると思っています。開発からはじまってカスタムサポート、スクラムマスター、アジャイルコーチ。

前職の最後は新サービス立ち上げのためにSREもやったりと、営業とバックオフィスと経営以外はそこそこやってきました。そういった引き出しを基に、応用していますね。 

――なるほど。プロジェクト開始時と比較して、チームの成果はいかがでしょうか? 

船橋:先ほどお話ししたことと関連して、定量的な会話ができるようになってきていますね。振り返りをするにせよ、分析をするにせよ、データに基づいた会話になってきています。

みんなが感覚的にインパクトがあると思っていたものが実はなかった、といった発見もあったようです。

品質との両立をどう叶えるのか

――SHIFTに入社して5年近くたつと思いますが、企業のアジャイル開発を支援するなかで、先ほどあった「品質」との両立をどう実現していますか? 

船橋:今回のプロジェクトでもそうだったように、SHIFTはQAメンバーを専属ロールとしてプロジェクトにアサインしています。

ロールベースで「だれが」「いつ・どのタイミングで」「どのテストを」担うのか、品質保証への関わり方を細かく整理したうえでそれぞれが責任をもって対応できると考えています。 

あと、これは自分がつくり進めていったものなので手前味噌ですが、「SQF(SHIFT Quality Framework)」というSHIFT独自の品質保証標準のアジャイル版があるので、それも一つのアドバンテージなのではないでしょうか。 

――今後、どんな人にジョインしてもらいたいですか? 

船橋:アジャイル開発をやりたいというより、究極、「アジャイルは一つの手段だよね」という感じで、アジャイルに固執していない人に来てほしいです。 

プロダクトやプロジェクトによってはアジャイルが適していない可能性もあるので、そういったときにしっかりと「アジャイルは今回やめた方がいい」とバッサリ切ってあげる人の方が適していると思いますし、そっちの方が結果としてお客様に信頼していただけると思います。

少なくとも私はそういうスタンスですね。 

――最後に、今後、船橋さんがやってみたいことをお聞かせください。 

船橋:いまはグループ長として部門の責任者をとしてのやりがいも感じていますが、エンジニアリングマネージャーなど、もっとエンジニアの成長にコミットするポジションもいいなと思っている今日このごろです。 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)