年間2,600人の採用ノウハウをサービスに── IT企業として構想する「国力を上げる道筋」 

2023/10/06

従業員数約1,000人、売上高55億円。人的資本の考えを根本から見直さなければ、これまで以上の成長は叶わない──2016年、SHIFTは「先行投資型」の人事戦略へと舵を切りました。 

あれから7年。 

連結従業員数約1万人、売上高880億円の企業に成長し、年間採用数は2,630人に到達。 (いずれの数値も2023年8月期実績)

こうした成果を基に、満を持してスタートしたのが『SHIFT人事支援サービス』です。いちIT企業がHRサービスを他社に提供するのは異例のことかもしれません。 

独自の知見やノウハウをもち出し、サービス化に乗り出した狙いはどこにあるのでしょうか。起案した古澤 美月と、彼女とともにコンサルタントを務める平澤 真吾に直撃しました。 

  • HRBP部 部長 古澤 美月

    20代は飲食事業を経営、2015年SHIFTに入社し、人事としてのキャリアをスタート。2017年のHRBP組織立ち上げから携わり、複数のインダストリーにおける人事グループのグループ⾧を兼務後、2021年に事業人事部の部長に就任。現在はHRBP部長を主務とし、約90名のメンバーマネジメント、SHIFTグループ年間数千の採用を管掌する傍らで、採用に悩む企業向けの採用コンサルも行っている。 

  • HRコンサルグループ 平澤 真吾

    前職は大手メーカーの人事として新卒採用を経験。リクルーター業務、採用戦略戦術の立案から実行、イベント企画まで幅広く携わる。2021年6月にSHIFTに入社後、ネットサービス領域でHRBPを担当。現在は事業会社様向けのHRコンサルタントとして日々奮闘中。

目次

企業成長を加速させた。先行投資型の採用と、HRBPとしての事業部貢献 

──本題に入る前に、SHIFTが人事施策に注力するようになった経緯を教えてください。 

古澤:2014年に東証マザーズへ上場した後、経営層の間で「今後の成長をどう描くか、どう実現するか」という話になったんです。しかし当時のSHIFTには、私たちが目指す水準での事業づくりや経営に携わってきたエキスパートが不足していました。 

そこで2016年、コストカット型から先行投資型に切り替え、大々的な採用活動を展開。その際に約50名の業界屈指の経験をもつ方々が入社したのですが、彼らがいたからいまのSHIFTがあるといっても過言ではないほど、事業、組織共に成長する起爆剤となってくれて。 

その成果を実感するに従って「人材には先行投資すべき」という考えが根づいていきました。 

──先行投資型の採用と並ぶSHIFT人事の特徴としてあげられるのが、各事業部の責任者のパートナーとしてのHRBPHuman Resource Business Partner)体制です。これは「事業部の成長に貢献する、事業を人事から変える」という思いからですよね。いまの組織になったのは、いつごろから? 

古澤:2017年からです。それまで事業部と人事はいわば主従関係に近かったと思います。人事は事業部からいい渡された人数と予算で、とにかく採用活動をがんばる。 

しかし、やはりここでも「売上年1.5倍成長を継続できるかどうか」が議論になって。事業部との関係性を変えないと必要な人事施策をスピーディに実行できない、という結論に達したんです。それでHRBPの考えが反映された事業人事部を新設しました。2020年から私が部長を務めています。 

立ち上げ当初は、事業部との関係構築に苦労しましたが、いまではお互いの課題を“自分事”と受け止められるようになり、二人三脚で中途採用や定着のための施策づくり、人事関連の課題解決ソリューションの提供など幅広く展開しています。従業員のパフォーマンスを最大化するべく、全社における評価や教育の制度なども拡充してきました。 

どれも大切な業務ですが、特に大きなミッションとして課せられているのは、やはり優秀な人材の獲得と定着です。冒頭で触れたとおり、FY2023には年間の採用数が2,630名となりましたが、HRBPとしての戦略があったからこそ達成できていると考えています。  

私たちの当たり前は、世間では当たり前じゃなかった。

──では、あらためて『SHIFT人事支援サービス』の概要を教えてください。 

古澤:SHIFTとして培ってきた知見やノウハウを基に人事全般のコンサルティングを提供しています。採用や教育、組織開発など、人事に関するお悩みを広くヒアリングし、方策を考え、実行に移すサポートをするというのが大まかな流れです。 

当然ながら、お客様も多くのお困りごとを抱えておられるので、課題解決の優先順位を考えつつ、支援内容をカスタマイズしています。 

どの企業にも共通してお話ししているのは、やはり「人事施策に先行投資する」「事業部・人事部が連携して採用活動する」ことの大切さです。 

特に投資に関しては、実際の数字をお見せすると、大抵納得していただけますね。一般的に企業が人事施策にかける予算は売上高の1%前後といわれていますが、私たちは8.5%(※)。投資がのちのちの成長につながっていることは、SHIFTの売上推移を見ていただければ一目瞭然です。 

※他社数字は、2023年3月6日付の日経産業新聞をもとに算定、また直近年度での決算資料からピックアップ 。なお他社数字は教育費(採用費含む企業もある)の投資額としている企業が多い 

──そもそもサービスを立ち上げるきっかけは何だったのですか。 

古澤:営業担当者を通じて、顧客企業から採用に関する相談があったんです。SHIFTは「ガラス張りの経営」を公言してきた会社。もともと他社に情報を共有できる素地があったので、SHIFTがやってきたことを包み隠さず話したところ「本当に幅広い人事施策を自社で展開しているんですね」と。 

社内の人間からすると当たり前にやっていたことが、社外の人には通常を超えていると感じられたのが発見で。サービス化の可能性を感じました。 

加えて個人的に、「売りを立てられる人事を体現したい」という思いをあたためていました。実は私、SHIFTに入社する前は飲食店を経営していて、ずっと数字を追う毎日を送っていたんですよね。これは新事業を立ち上げる絶好の機会だと思い、経営陣に申し出ました。 

採用における理想と現実のギャップは、ペルソナを設定してみてわかる 

──2023年4月のサービス開始から半年が経ちました。具体的にはどんなプロジェクトを支援してきましたか。 

平澤:直近では、大手メーカーグループのDXプロジェクトに伴走しました。各社の情報システム部門を集約し、グループ横断型のDX組織を立ち上げて1年が経過したものの、エンジニアの採用に課題感を抱いていらっしゃったんです。そこで、IT企業であり、採用ノウハウもあるSHIFTに声がかかりました。 

契約期間は2ヶ月。年間採用目標数を達成するため、IT人材採用の基盤をつくることを目的にスタートしました。 

古澤:キックオフの後、最初に議論したのが、DX組織の存在意義について。何のための、何をする組織なのか言語化し、共通認識をもってから、具体的な採用施策を考えていきました。 

エンジニアといっても、職種やスキルは多岐にわたります。このポジションにはどの職種が必要なのか、どんな人に入社してもらいたいのか……SHIFTのやり方と同様に、市況感に照らしあわせながら、まずほしい人材のペルソナを設定しました。 

──ペルソナを定めるメリットは何なのでしょう? 

平澤:ペルソナのような人材が市場にどのくらい存在するのか、エビデンスを基に理想と現実のギャップを知ることができます。すると「採用実現性はあるのか」、「会社や仕事の魅力をどのように訴求すれば採用できるのか」など課題が浮き彫りになるんです。 

例えば、アプリ開発のPLを採用するとなったとき。「20代後半の大手SIer出身者が理想だけど、任せたい業務はプロジェクト管理のみ」では候補者側の興味は引けません。 

そこで「エンドユーザーの声が聞ける機会はつくれませんか?」「ビジネスサイドとコミュニケーションをとりながら、UIを高めていくようなスキームづくりは?」といった問いを投げかけながら、できるだけペルソナのインサイトに訴えかけるような業務内容を目指していく。 

短期間での変更がむずかしくとも、中長期を見すえて、エンジ二ア組織の意思決定者と常日頃コミュニケーションを図る。マーケットの情報と自社の状態を勘案し、変革に向けて人事から働きかけていくことも採用活動においては非常に重要です。 

面接は会社のファンをつくるもの。人を見極めるだけのものではない 

──お話を聞いていると、短期間ながらとても密な連携をしていた様子がうかがえるのですが、特に印象に残っている出来事は? 

古澤:「先方の意識が変わった」と感じる瞬間は何度かあったのですが、そのひとつが面接官の目線や意識を確認していたとき。一人ひとりにヒアリングしてみると、みなさん面接の目的が「見極め」に寄っていた印象を受けたんです。 

自社が求めている条件に合っているか、質問に対して理想的な回答ができているかを見極めるだけの時間になってしまっていた。特にエンジニア採用は「スキルがマッチしていれば可」といった思い込みも発生しやすいので、業界あるあるだとは思うのですが。 

そこで私から「面接とは、プロの面接官とは」という話をさせていただいたんです。面接の最たる目的は、会社のファンになってもらうこと。そして候補者としっかり対話をしつつ同時に見極めができるのが、プロの面接官であると。 

まず、候補者のキャリアや人間性に興味を抱きながら話を聞く。もし候補者が自らのキャリアに課題感を抱いていたら、その人の伸びしろをフィードバックしつつ「うちの会社なら、こういうチャレンジができる」と提案する。すると、候補者自身にとってもよい時間となり、会社のファンになってくれる確率が高くなるんです。 

このお話をさせていただいた後、みなさん口を揃えて「見極めに走っていた。スタンスを変えなきゃいけない」と率直に振り返ってくださって。とても印象に残りました。 

──このプロジェクトで、今後のサービスに活かせる知見は生まれましたか? 

平澤:フロントに立ってプロジェクトを進行するたびに、「コンサルは自分でコントロールできる領域が少ない」ことを実感しています。提案してすぐに何かが変わるとか、自ら手を動かして成果をつくるのはかなりむずかしい。

限られた範囲のなかで、クライアントとの信頼関係をどう構築するか、私たちにどう価値を感じてもらうかがポイントだったんです。 

このことを突き詰めた結果、コンサルタントとして「一般論」「自分自身」「SHIFT」という3つの視点で話をするのが重要だと考えました。意見や情報を切り分けて伝達することで、先方からも「1つの物事を俯瞰してみられるようになった」と評価いただきました。今後担当する案件でも継続したい方法だと思っています。 

目指すは「Made in Japan」の復活。IT人材を増やし、国内のIT業を盛んにする呼び水に 

──最後に、『SHIFT人事支援サービス』で今後やっていきたいこと、目指したいことを教えてください。 

平澤:SHIFTは日本の労働生産性向上に貢献したいと考えている会社です。DX全盛のこの時代、国内のIT人口を増やすことで、IT業界が基幹産業に成長し、各産業を支えている状態を目指す必要があります。

私たちがいま展開している採用支援、DX支援はその一環。今後は IT人材の再配置を促進するため、人材紹介業や教育事業など事業拡大の可能性は十分にあると考えています。 

加えて、HRサービスという新たな武器で、お客様との接点からお困りごとを見つけ、社内の他部署とも連携して課題解決に貢献したい。その結果、売上3,000億円を目指す会社の成長に貢献できたら。個人的にはそんな野心も抱いています。 

古澤:DXを加速させるソリューションとして、事業会社をはじめとするお客様の発展に寄与していくのがひとつの目標だと捉えていますが、SHIFTの看板を背負っている以上、目指しているのは会社のビジョンと同じ。 

「かつて世界に大きな影響を与えたMade in Japan品質をIT業界でも実現させる」、「SHIFTは社会課題を解決する会社」という意識を強くもって取り組んでいます。 

──古澤さん、平澤さん、ありがとうございました

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)