プロセス信奉ではなく、価値を生む「テーラリング」を。PMBOKの変遷から読み解く今後のプロジェクトマネジメント

2026/06/16

2026年3月4日、SHIFTが手がける技術イベント「SHIFT EVOLVE」において「チームプロジェクトマネジメントとPMBOK第8版(Agile in Motion vol.6)」と題したセッションを開催しました。  

品質にこだわってきたSHIFTならではの目線で、アジャイルに長年携わってきたゲストを招き、アジャイルの神髄に迫るという本シリーズ。 

今回は、株式会社レッドジャーニー システムリデザイナー 森實 繁樹(samuraiRed) 氏とAIアジャイル開発部 アジャイルエバンジェリスト 渡会 健による対談です。 

AIなどの技術進化が加速する一方、日本のITマネジメントはオールドスタイルのままであると警鐘を鳴らす二人が語る、PMBOKの変遷(第6〜8版)と今後のプロジェクトマネジメントとは? 

本記事では当日の内容のうち印象的な部分をピックアップし、一部再構成してお届けします。 

同日に行われた森實氏単独のセッション、渡会単独セッションのイベントレポートも、ぜひご一読ください。  

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  • 株式会社レッドジャーニー システムリデザイナー 森實 繁樹 (samuraiRed) 氏

    大手SIerでの開発運用、大規模プロジェクトマネジメントを経験した後、ミドルベンチャーでCTO、通信系事業会社でエンジニアリングマネージャー、国立大学で非常勤講師などを歴任。プロダクト開発や組織づくりに造詣が深い。2003年からアジャイルを実践しており、社内外問わずいくつものチーム、組織の支援を行ってきた。現在は、認定スクラムプロフェッショナルとして組織変革支援に邁進している。

  • AIアジャイル開発部 アジャイルエバンジェリスト 渡会 健

    2025年、株式会社SHIFTに入社し、Customer Quality Agileを掲げて日々活動中。キャリア前半をPM畑で過ごした後、2008年に40代でアジャイルに出会ってからは、10年程受託開発で20件近くの実践を積み、その後コーチやコンサルとして50件以上の支援を行うなど、17年で70案件以上の多種多様な実践経験をもつ。マネジメント(≠PM)の力を信じ、その経験を活かしながら、一般社団法人PMI日本支部アジャイル研究会代表、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)アジャイルWG構成員等を歴任し、マネジメント視点と現場視点の両軸からアジャイル領域に貢献。 PMI日本フォーラム2025 優秀講演第6位(52講演中)。  

目次

技術進化に取り残される日本のITマネジメント

森實氏:エンジニアリングの世界はAIの登場などによって猛スピードで進化していますよね。現場は新しい技術を追いかけ必死に食らいついている。しかし、マネジメント手法のアップデートがそこにまったく追いついていないように感じます。 

渡会:おっしゃるとおりです。例えば、昔は「Kstepあたりのバグ密度」や「設計書の厚さ」「レビューの回数」などで価格や品質を管理していましたよね。 

しかし、AIがコードを書く時代に、Kstep単位の管理に何の意味があるのか?と。

ものづくりのスピードは上がっているのに、マネジメントだけがオールドスタイルのまま。このギャップが、いまの日本のIT組織にゆがみを生み出しています。 

森實氏:多くの国内企業では、自社の「ソフトウェア開発標準」をモデルにしてプロジェクトを回しています。

開発標準はPMBOKなどをもとにつくられているわけですが、最新の内容をどう取り込めばいいのか悩んでいる企業が多い印象です。 

渡会:歴史の長い会社ほど、古いバージョンのPMBOKをベースにした開発標準を使いつづけています。しかし、PMBOKは時代にあわせて約4年ごとに改訂されているため、本来は自社の開発標準もアップデートする必要があります。 

森實氏:一度つくったルールを変えるのは大変だからと、放置されがちですよね。 

渡会:欧米では「アジャイルか、ウォーターフォールか」という二項対立をすでに終わらせて、スピーディーに業務を変化させています。いま求められているのは、両者を統合し変化に適応することです。 

例えるなら、世のなかではステルス戦闘機やドローンといった最新の武器が使われだしたにも関わらず、日本は刀で戦おうとしている。だから「デジタル小作農」なんていわれてしまう危機的状況にあるのだと思います。 

森實氏:ここで視聴者からの質問です。『SI型(受託開発)と自社開発で、変化への対応力に差はあるのか?』という疑問ですが、これはいかがでしょう? 

渡会:自社製品の方が自分ごとにしやすく、時代についていきやすい面は確かにあります。しかし本質的には、自社開発か受託開発かはあまり関係ありません。

つくったものが「どういう価値を生み出すのか」という中身は同じはずだからです。受託だからむずかしいというのは、自分で壁をつくってしまっている状態なんですよね。 

森實氏:同感です。たしかに自社開発の方が、企画から実運用まで見通せる分、変化に対する「感度」は高まりやすい面はあります。

一方で受託開発は、プロジェクト範囲が切り出されているため、感度を高めるのがむずかしいのも事実です。

しかし大切なのはOODAループを回しつづけ、状況の変化を感じ取ること。その感覚の重要性は、自社開発でも受託開発でも変わらないですよね。 

渡会:ええ。根本的な問題は、お客様と開発企業が「発注者と作業者」のように固定化された関係になってしまっていることにあります。

本来は、ビジネスのプロとつくるプロが協働して一つの価値を生み出すべきです。本気で思考し提案すれば、受託開発でもうまくいくと思いますよ。 

辞書から経典、そして実践書へ。PMBOKの変遷を辿る

森實氏:ここでPMBOKの歴史を振り返りたいのですが、第6版から第7版、そして第8版への変化をどう見ていますか? 

渡会:第6版は「辞書」、第7版は「経典」のような存在でした。第6版まではプロセスが詳細に定義されていて、「このプロセスに従っていれば成功する」という誤解を生みやすい、分厚い辞書でした。 

森實氏:プロセスを守ることが正義、というのは現場にとってはわかりやすかった面もありますよね。 

渡会:それに警鐘を鳴らしたのが第7版です。プロセスではなく原理原則や価値の創出に大きく舵を切った方針書であり、精神論に近い“経典”のようになりました。 

森實氏:第7版が出たとき、あまりの急激な変化に現場は戸惑ってしまいましたよね。私も当時、「まずは第6版のプロセスを理解してから第7版を読むと腑に落ちるよ」とアドバイスした記憶があります。 

渡会:ソフトウェア開発宣言の精神に戻るような大きな視点に行きすぎて、実務を担う現場の人たちが少し置いていかれてしまったのは事実ですね。 

森實氏:そこで登場したのが第8版です。第8版は何に例えられますか? 

渡会:第8版は、いわば“実践書”です。第7版で描かれた原理原則をちゃんとやっていくためのルールブックのようなもので、40のプロセス群に分けたモデルケースが載っています。 

これは「この40のプロセスを使うならば、自分たちのプロジェクトにあわせてテーラリングして使いなさい」という実践的なガイドラインになったと受け取ってもらうのがよいと思います。 

※プロジェクトの特性にあわせて手法やプロセスを最適化すること 

「真のテーラリング」は、プロセスの取捨選択ではない

森實氏:第8版でプロセスが復活したことで、「なんだ、やっぱりプロセスに従えばいいんじゃないか」と安心してしまう人もいそうですね。 

渡会:そこは誤解してほしくないですね。「プロセスに戻ったから安心だ」と盲従してはいけません。

スクラムガイドのとおりにやっても、自分たちの文化や目的にあわせてテーラリングしなければ効果的なスクラムが組めないのと同じです。 

森實氏:現場ではテーラリングのことを、プロセスの「いる・いらない」を選ぶことだと勘違いされがちです。

でも私はそういった取捨選択ではなく、用意されたプロセスを「自分たちなりにどう解釈し、どう使うかを言語化すること」こそが真のテーラリングだと考えています。 

渡会:まさにその通りです。わかりやすい例として、「トンカチ」というツールがありますよね。家を建てるときは「釘を打つ」ために、家を解体するときは「釘を抜く」ためにトンカチを使います。 

何のためにこのツールを使うのか、そしてどう使うか。それを自分たちでしっかり考えることがテーラリングです。

第8版で示された40のプロセスも、ただのトンカチと同じです。自分たちのプロジェクトの目的にあわせて、どう扱うかを考えてほしいですね。

ルールを守るのではなく、価値を創れ。新時代のプロジェクトマネジメント

渡会:プロジェクトの成功指標は何かといえば、第7版でも明記されている通り「価値を生み出すこと」です。

プロセスに従っていれば安心なのではなく、「このプロセスを使うことで、私たちは本当に価値を生み出しているか?」をつねに問いかけなければなりません。 

森實氏:ルールを守ることが目的化してはいけない、ということですね。「価値実現」という本質から目をそらしてはいけないと。 

先ほどのトンカチの例えでいえば、チームビルディングも同じですね。

「トンカチ担当」という固定の役割をつくるのではなく、いまは打つのが得意な人が使い、次は抜くのが得意な人が使う。1対1の固定された関係ではなく、必要なときに必要な人が臨機応変に関わっていく。 

渡会:ええ。ツールも役割も、自分たちで解釈して適材適所で使っていく。そういう流動的で目的志向のチームのあり方が、これからの時代には求められています。

森實氏:最後に、これからのプロジェクトマネジメントはどうあるべきだと思いますか? 

渡会:学んでいくというよりは、「価値実現から逆算していく視点」をもつことです。そして、冒頭でも触れましたが、ビジネス側(発注者)と開発側(受注者)が本気で協働すること。 

相手の要望をただ実現するのではなく、同じ目的に向かって「自分ごと」としてプロジェクトを推進する。そのためのガイドとして、PMBOK第8版のプロセスを利用してほしいですね。

外部の権威ある実践書として、組織や上司を説得するためにもうまく使うことで、真の価値創出に向かいやすくなるのではないかとも思います。 

森實氏:古いルールや主従関係に縛られず、ビジネス側と開発側が協働して価値を生み出す。今回の内容が、変化の激しい時代に立ち向かう皆様のプロジェクトマネジメントのヒントになれば嬉しいです。 

渡会:森實さん、本日はありがとうございました! 

イベント全編をご覧になりたい方はこちらから  

―――さまざまなテーマでイベントを開催中のSHIFT EVOLVE。次回以降もぜひお楽しみに。 

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(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです) 



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