AWS CDK Conference Japan 2026 登壇レポート
2026年7月18日、JAWS-UG CDK支部が主催するAWS CDK(Cloud Development Kit)やCDKTF(CDK for Terraform) / cdk8s(+) の最新動向やベストプラクティスを共有する年次カンファレンス「AWS CDK Conference Japan 2026」が開催されました。
SHIFTからは、AIアジャイル開発部 DevOpsエンジニアの奥田が「AWS DevOps AgentでCDKメンテナンスは楽になるのか?〜検証から見えた最適解〜」というタイトルで登壇しました。
インフラストラクチャをコードとして管理するIaC(Infrastructure as Code)の分野において、AWS CDKは非常に強力なツールです。
再利用性や抽象化の高さから多くの開発現場で重宝されている反面、導入時の学習コストや日々の保守工数が大きな課題となっています。
「この便利で強力なツールを、もっと誰もが簡単に使いこなせるようにならないものか」
そんな開発現場の悩みを解決する有望な選択肢として期待されているのが「AWS DevOps Agent」です。
本記事では、奥田が、実務への適用を想定して行った徹底検証のストーリーを通じて、AWS DevOps Agentの活用術とその検証結果をご紹介します。
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AIアジャイル開発部 DevOpsエンジニア 奥田 雅基
2016年、システム運用保守としてIT業界でキャリアをスタート。通信会社の新規ネットワークサービス立ち上げPJのPMO・ネットワークエンジニア、人事(社員教育担当)、社内プロダクト開発PJのシステムエンジニアを経て、2025年8月、株式会社SHIFTに入社。DevOpsエンジニアとして案件に取り組みつつ、社内外への技術発信活動にも挑戦している。
目次
CDK導入の壁は“ハードモード”? 現場の悲鳴を救うDevOps Agentの登場
AWS CDKの最大の魅力は、高い再利用性と抽象化にあります。
TypeScriptなどのプログラミング言語を用いてAWSリソースを定義できるため、たとえば一度作成した構成のリージョン設定だけを変更して別環境に複製するといったことが容易に行えます。
Constructによって一部設定が抽象化されるため、開発者の負担は大きく軽減されます。
一方で、学習と保守といった観点では扱いづらさが残ります。AWS CDKを実務で使いこなすためには、インフラの知識だけでなく、TypeScriptの型システムやアルゴリズムの理解、さらには複雑な環境構築が必要です。
初学者にとってこの学習コストはまさに“ハードモード”であり、チーム全体へ定着させる際の大きな足かせとなっていました。
この壁を乗り越える希望となるのが、2026年4月に一般提供が開始された生成AIサービス「AWS DevOps Agent」です。
AWS DevOps Agentは、AWSアカウント内のリソースをモニタリングし、インシデント管理から予防保全の提案までを自動で行うAIアシスタントです。
性能はアップデートのたびに向上しており、現在では日本語にも対応しています。さらにGitHubやSlack、PagerDutyといったサードパーティツールとの統合も可能です。
本格的な導入にあたって気になる利用料金ですが、エージェントの実行時間に対して課金され(1秒あたり約0.0083ドル)、仮に24時間稼働させた場合は1日約10万円のコストがかかります。
個人利用としてはハードルが高いものの、企業向けのサポートプラン等に加入していれば一定の割引が適用されるため、法人利用においては十分に導入を検討できる範囲といえるでしょう。
こうした数ある機能のなかでも、AWS CDK運用において特に期待が高まっているのが、2026年6月にプレビュー版として登場したリリース管理機能です。
この機能は、AWS CDKやTerraformで定義されたコードをAWS環境へ本番適用する前に、AIがコードの不備を事前チェックしてくれるというものです。
どれほど熟練したエンジニアであっても、本番環境への変更適用には心理的な不安が伴います。
リリース管理機能を活用し、本番前にコードレベルでの評価を行うことで、「確実に動く」という安全基準を担保し、デプロイ時の不安を大きく取り除くことができるのです。
なお、本機能は現在プレビュー版であるため、現時点での業務適用は困難かなと思われます。
バージニア北部リージョンに構築したAWS DevOps Agentでのみ利用可能という制約がありますので、検証やテスト導入を行う際は、この点にご留意ください(※2026年7月18日時点の情報です。最新情報は公式サイト等でご確認ください)。
実務を想定した徹底検証!現場目線で挑んだ6つの独自シナリオ
「AIが事前チェックをしてくれるのは素晴らしいが、はたして実務の複雑な要件にどこまで通用するのか?」
私は、そんな疑問を抱いていました。
初学者がAWS CDKを定着させるためのハードルを、AWS DevOps Agentは本当に下げてくれるのか。コードベースの検証において、AIはどのような精度で、どのようなアウトプットを返してくるのか。
自らの目でAIの現在地を確かめるべく、実務を徹底的に想定した検証プロジェクトをスタートさせました。
検証環境を構築するにあたり、誰もがイメージしやすいよう、Amazon CloudFront、Amazon Simple Storage Service(S3)、Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)を用いたシンプルな構成の、中小規模のWebサービスを想定しました。
真の実用性を測るため、単に正しいコードを読ませるだけでなく、意図的にさまざまなトラブルを混入させた6つのシナリオと15の検証観点を用意しました。
一般的なHTTPS未対応といった障害だけでなく、AWS CDK特有のアンチパターンであるAMI IDやアカウントIDのハードコーディングを注入。
さらに、構築済みのインフラをAWSコンソールから直接操作してしまう手動ドリフト(コードと実環境の乖離)や、環境構築パッケージが未インストールの状態まで網羅しました。
現場で実際に起こりうるトラブルをAIがどう捌くのか。その実用性を検証する準備が整ったのです。なお、今回の検証で使用したCDKコードはGitHub上で公開しています。
記事を読んでAWS DevOps Agentの実力に興味をもたれた方は、ぜひご自身の手でも検証を試してみてください。
今回の検証で使用したCDKコードはこちら
AIの実力とハルシネーションのリアル。検証から見えた得意領域と課題
検証の結果、AWS DevOps Agentコードレビューにおいて大きな成果をあげました。特にGitHubと連携させたシナリオ(パターン1・2)では今回設定した検証項目をすべて検知しました。
AWS CDK特有のハードコードAMI IDやアカウントIDといった問題については、高い精度で検知できることが確認されました。
さらに、GitHubのプライベートリポジトリとのセキュアな接続も問題なく行えるため、高いセキュリティ要件が求められるプロジェクトでも導入できること、そしてコードレビューにおけるAWS DevOps Agentの有効性が確認できました。
一方で、実環境の検証だからこそ見えてきた課題もありました。手動で行われたリソース変更(ドリフト)の検知において、ハルシネーションが確認されたのです。
検証では、Amazon Elastic Container Service(ECS)の設定を手動で変更しました。しかしAIは、変更していないはずのセキュリティグループの設定が変更されたと判断してしまったのです。
また、EC2上に直接格納されたコードをチェックするシナリオでも、AIが対象を上手く読み取れないケースが発生しました。
これらの結果から、リリース管理機能はまだプレビュー版であり、ドリフト検知やプロンプトに改善の余地があることが分かりました。
しかし、これは決してツールが使えないという意味ではありません。
「GitHub連携によるコードレビューには極めて強いが、実環境の直接的な手動変更検知はまだ発展途上である」という特性を正しく理解し、得意領域に絞って活用することが重要です。
適切な環境と設定を用意すれば、AWS DevOps Agentは強力な味方となります。
プロジェクト固有ルールもAIが担保。属人化を防ぐスキルセット機能の威力
AWS DevOps Agentの機能のなかで、現場のエンジニアにとって有用な機能のひとつが、スキルセット機能です。
開発現場では、プロジェクトごとに固有のルールやセキュリティ要件が存在します。スキルセットを活用すれば、こうした独自のドメイン知識をAIに注入することができます。
不特定多数のメンバーが開発に関わり、品質にブレが生じやすい環境であっても、AIがプロジェクト固有の基準に照らしあわせてコードをチェックし、デグレードのリスク低減が気体できます。
また、AWS DevOps Agentは、初学者にとってむずかしかったAWS CDKの学習環境を劇的に改善します。
例えば、エラーが発生して行き詰まった際、エラーログを読み解く代わりに、AWS DevOps Agentに対して「なぜこのエラーが起きたのか? どう直せばいいか?」と自然言語で質問することができます。
AIが対話形式でスムーズに調査をサポートしてくれるため、初学者が挫折しにくく、AWS CDKの概念や実装方法をキャッチアップできるようになります。
AIは便利な道具から“開発パートナー”へ。AI SDLCが描く共創の未来
私は、この検証を通じて、これからの開発プロセスの未来像を実感しました。それは、近年ソフトウェア開発の現場で普及しつつある「AI DC」(AI駆動開発ライフサイクル)という考え方への統合です。
生成AIアシスタントであるAmazon Qを活用してインフラのコードを書き、そのコードをAWS DevOps Agentが検証し、フィードバックを行う。
人間はそのフィードバックをもとに改修を重ねる。複数のAIが連携し、コード作成からレビュー、テスト、運用までをシームレスに支援するこのサイクルは、開発生産性を引き上げるものと考えています。
複雑で学習コストの高いAWS CDKですが、AWS DevOps Agentのリリース管理機能やスキルセットを活用することで、その保守工数の削減や、品質向上に寄与する可能性が確認できました。
プレビュー版ゆえのハルシネーションなどの課題は残るものの、それを補って余りある高いコードレビュー精度と、初学者を支える学習サポート機能は、現場の課題を解決する力をもっています。
AIはもはや単なる便利ツールではなく、共にシステムをつくり上げる「開発パートナー」へと進化しています。AIと共創する新しい開発体験の第一歩として、ぜひご自身のプロジェクトでもAWS DevOps Agentの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
※本セッションの登壇動画は、こちらからご覧ください。
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)