なぜ改善活動は自然消滅するのか?事例からみる、組織に定着させる3つの打ち手

2026/07/16

Scrum Fest Niigata 2026 登壇レポート

「いい取り組みだったはずなのに、なぜか活動がつづいていない……」 

勉強会やアジャイル導入、1on1など、現場発の改善活動がいつの間にかなくなってしまったという経験はないでしょうか。 

熱意をもってはじめたにもかかわらず、周囲は動いてくれず、推進者だけが疲弊していく。実は、そこには個人の熱量や努力では解決できない構造的な問題が潜んでいます。 

本記事では、ふりかえり&アジャイルエバンジェリストの森 一樹(びば)が2026年5月9日に登壇した「Scrum Fest Niigata 2026」の講演内容をもとに、改善活動が消滅してしまう5つのパターンを紐解きます。 

そのうえで、個人の熱量に頼らず、改善を組織に定着させるための3つの打ち手と5つのステップを事例とともにお届けします。

  • ふりかえり&アジャイルエバンジェリスト 森 一樹(びば) 

    黄色いふりかえりの人。みんなに強化魔法をかける人。野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントや組織変革を推進し、プロダクトマネージャとしての経験を経て、2025年にSHIFTに入社。社内外へのアジャイル教育や、ふりかえりの啓蒙から、社内各部署や他社との連動など、支援の幅を広げ活動中。著書に「アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック」など。   

目次

実は構造が原因。改善活動が消える5つの共通パターン

熱意をもって自発的にはじめた社内勉強会やグループ横断施策を、1年後には自分も含めて誰もやっていない。 

あるいは上司の立場として「いい取り組みをしているな」と思っていたのに、知らないあいだにひっそりと終了していた。 

そんな経験をもつ人は多いのではないでしょうか。 

改善活動が自然消滅するのは偶然だけでは片づけられない要因があります。そこには構造的な問題があります。私のこれまでの経験から、消えていく改善活動は大きく5つの共通パターンに分類できます。

1. 属人化:推進者が異動した瞬間に終わる
2. バーンアウト:熱量が保てなくなった瞬間に終わる
3. 成果の不可視化:「何が変わったの?」に答えられない
4. 組織再編:「方針が変わりました」の一言で消える
5. 言語の断絶:現場の熱量が上層部に届かない 

なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。その背景には改善活動を進めるプロセス上の要因が大きく影響しています。 

ここからは改善の火を消さないための3つの打ち手――「翻訳する」「巻き込む」「仕組み化する」について、実際の事例を交えてご紹介します。 

【打ち手1:翻訳する】決裁者を動かす言葉の選び方

最初は、「翻訳」の失敗事例から。 

あるスクラムマスターがマネージャーにこう問題提起をしました。 

「チームの心理的安全性が低く、属人化が進んでいる。プロセスにも改善の余地があり、複数のチームでワークショップをやらせてほしい」。 

しかし、マネージャーからは「いろんなプロジェクトが佳境なのに、追加で1人月以上の工数を割く判断はできない」と却下されてしまいました。

これは翻訳が不足していた典型的な例です。 

「チームの雰囲気がよくなる」という言葉では、問題と改善の因果関係がみえません。結果として、マネージャーには「コストをかけて勉強会をする」という提案に聞こえてしまったのです。 

また、「複数チームで実施したい」という提案は投資規模が大きい印象を与え、マネージャーに重い判断を迫るものになっていました。 

こうした場合の打ち手は、「現場の言葉」を「上層部にとっての判断材料となる言葉」へ翻訳することです。 

例えば「雰囲気がよくなる」ではなく、「相談コストが下がる」「手戻りが週○時間減る」といった表現に変えると、改善が業務や成果へ与える影響の大きさを伝えられます。

なぜなら、上層部がみているのはコストや納期、品質などのKPIだからです。改善活動の話も、コストや納期、品質などのKPIに翻訳して説明する必要があります。 

したがってまず活動をはじめる前に「この施策を実施すれば、この数値が変わるはずだ」という仮説をたてる必要があります。

そして、まずは1チームで試して結果を示し、上層部が投資判断を行うハードルを下げることが重要です。 

また、同じプロセス改善でも、重視されるKPIは相手の立場によって異なります。誰に打診するのかを意識し、その人が判断しやすい言葉に置き換えることも大切です。

【打ち手2:巻き込む】人を動かす「体感」の場づくり

2つ目の事例は「巻き込む」に関係するものです。

ある若手のスクラムマスター自チーム成果のでた「ふりかえり」をほかのチームへ横展開したいと考えていました。

そこで、タスクやステップを体系的に整理したアクションリスト部長にほかのチームへの声掛けを依頼。

部長はよさそうな活動だ」と理解を示し掛けてくれましたが後日声がけしたチームからいい反応が得られなかったの一言で終わってしまいました。 

この例で意識していただきたいのは「言葉で伝えれば、推進者と同じ熱量で動いてくれる」は幻想であるということです。 

巻き込んだ相手が提案内容を理解するだけでなく、納得して協力できる状態をつくることが大切です。 

そもそも、ふりかえりとはアクションそのものよりも、「体感の場」を設計することでプロセスをいっしょに体感することが大事なのです。 

そのうえで部長に「部長にきてもらえたらチームの士気があがります。一度、ふりかえりに参加していただけませんか」と声を掛け、場に招きます。

その際、「最後に一言いただけると助かります」と役割を渡しておくことで、当事者として関わってもらいやすくなります。 

さらに、あらかじめ自身のチーム内でもすりあわせを行い、活動の成果と魅力が120%伝わるよう意図的に設計しておくことも大切です。 

効果を報告するだけでは、動きにつながりにくい場合があります。そのために、巻き込み方も事前に設計しておきましょう。 

【打ち手3:仕組み化する】推進者がいなくてもつづく、設計の引き渡し

最後に紹介するのは、「仕組み化」にかかわる事例です。

CoEメンバーが、組織横断の勉強会を立ち上げました。最初はCoEメンバーが毎回テーマを決め、丁寧に資料を準備し、進行まで担当。参加者の満足度が高い状態がつづいていました。 

5回ほど開催したところで、「チームだけでも自走できそうだ」と判断し、運営を別の人に引き継ぎました。しかし数ヶ月後、勉強会は自然消滅してしまいました。 

表面上はうまくまわっているようにみえていましたが、参加者には「毎回素晴らしい資料を作らなければならない」という暗黙のハードルがあり、加えて誰がどの役割を担うのかも明確ではなかったのです。

運営の進め方も決まっておらず、一度エンジンが止まった際に再起動するスイッチ(改善の場)がなかったことが消滅の原因です。 

ここで本当に必要だったのは、「設計の引き渡し」です。

たとえば「資料作成は任意」などハードルを下げて無理なく継続できる形をあらかじめ整え、次回の担当決定や運営のふりかえりをプロセスに組み込んでおく。

参加者が自分ごととして関われる動機づけも設計しておくことが重要です。 

個人の熱量は、仕組みに変換されてはじめて組織の文化になります。推進者がいなくてもまわりつづける設計こそが、改善を定着させる鍵になります。 

改善の火を絶やさない、実践ロードマップ

前述の3つの打ち手を踏まえ、改善活動を組織に定着させるための具体的な5つのステップを紹介します。

STEP1:小さくはじめて事例をつくる
いきなり壮大な計画を上層部に提案しても、なかなか通りません。まずは自分が動ける範囲(週1時間を1ヶ月程度など)で小さくはじめて成功事例をつくります。 

このとき、「ここまでやって成果が出なければ一旦やめる」という撤退基準もあらかじめ決めておきます。うまくいかなければ無理につづけず、静かに閉じましょう。 

STEP2:成果を周囲へ「魅せる」
事例ができたら、その結果を周囲を巻き込むための材料にします。このとき、上層部への説明を想定し、仮のKPIを事前に設計しておきます。 

KPIが適切かどうかは、ふりかえりを通じて見直していきます。「何のためのKPIなのか」という観点も含めて改善しつづけることが大切です。 

STEP3:味方をみつけ上層部を巻き込む
まずは話を聞いてくれそうな味方をひとりみつけます。その味方とともに材料を整理し、有効な打ち手を考えます。

上層部にもち込む際は「数ヶ月後にふりかえりを実施し、必要に応じて軌道修正します」と上層部が判断しやすい提案を心がけましょう。 

STEP4:興味のある層を巻き込む
上層部の承認が得られたら、いきなり全社に広げるのではなく興味をもってくれた層から徐々に巻き込んでいきます。活動の一部を少しずつ渡し、巻き込んだ人が成功体験を積めるようにします。 

STEP5:仕組み化して広げる
人が集まってきたら、Aさんがやったら次はBさん、その次はCさんというように、無理のないもちまわりの仕組みをつくります。手上げ制だけにせず全員が少しずつ関わる形にすることで、負荷が分散されます。 

あわせてふりかえりを継続し、ゴールや進め方を更新していきます。みんなが無理なくつづけられる形に整えていくことが大切です。 

明日からできる「最初の一歩

「いっていることはわかるけれど、どこからはじめればいいの?」という方へ、今日からできる具体的なアクションをお伝えします。 

相手の求める指標(KPI)がわからないとき 
上層部が何を求めているか想像するのには限界があります。わかる人(先輩や視座の高い人)を探して、「とりあえずの指標」を立てたうえで相談する形で巻き込んでみましょう。 

協力してくれる味方がみつからないとき 
チャットで募集しても返信がない場合、募集に「いいね」を押してくれた人に直接DMで「興味ありますか?いっしょにやりませんか?」「助けてください」と声をかけてみてください。 

仕組み化の第一歩がわからないとき 

まずは誰にも依存しない形で、自分一人で3回はつづけてみてください。3回つづけば型がみえてきます。型がみえてから、新しいメンバーに巻き込んで渡していきましょう。 

最後に

いきなり仕組み化しようとしても、人はついてきません。味方をつくらないまま一人で進めてしまえば、自分の熱量が切れたときに活動も止まってしまいます。

小さくはじめ、成果を示し、味方を増やし、ふりかえりながら広げていく。順番を守ることで、改善活動は組織のなかに根づいていきます。 

改善の火を、いっしょに燃やしつづけましょう。



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