JaSST’26 Tokyo 登壇レポート
ソフトウェア開発が高度に複雑化する現代、「テストを重ねてバグをなくしたはずなのに、なぜかまだ開発現場は疲弊している」――そんな状況に陥っていませんか?
システムの巨大化やAI・DXの台頭により、プロジェクトのルールやゴールが流動的になる場面も増えてきているなか、「完成したプロダクトのテストを行う」という受け身の品質管理では、プロジェクトの成功はおろか、メンバーの離職といった問題すら招きかねません。
これからの時代に求められるのは、「品質を守る」という姿勢から脱却し、「プロセスから品質を創る」という新たなアプローチです。
本記事では、2026年3月20日に開催され、SHIFTがプレミアムスポンサーを務めたイベント「JaSST’26 Tokyo」に登壇したAIテストサービス部 技術支援グループ 兼 AI自動実行グループ グループ長 纐纈(こうけつ)望の講演をもとに、厳しい局面をプロセス変革で乗り越えた3つの事例を紹介します。
これからのQA(Quality Assurance:品質保証)が果たすべき新たな役割と、疲弊する人を生まないプロジェクトの実現方法を紐解きます。
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AIテストサービス部 AI自動実行グループ グループ長/技術支援グループ グループ長 纐纈(こうけつ) 望
独立系SIerにて13年間、SEからPMとして組込・Web・業務システムやAI研究開発など多岐にわたるプロジェクトに従事。2018年にSHIFTへ入社し、部門横断のプリセールス組織を新設。現在は通信・ネット・メディア事業を中心に、品質保証のプリセールスや組織立ち上げコンサルティングを担当し、大規模・高難易度案件を牽引。社内講師も務める傍ら、品質保証とAIを掛けあわせた新サービス開発にも注力する。
目次
不確実性の時代、品質管理はどう変わるべきか
近年、品質管理の難易度は飛躍的に上昇しています。この状況を、簡単な算数に例えてみましょう。
30年以上前のメインフレーム全盛期は「3+?=9」という問題に似ていました。ゴールも実現方法も決まっているなかで、穴埋め式に正解(6)を導き出すプロジェクト管理でした。
約10年前、オープンソースやパッケージが普及しはじめた時代は、問題が「?+?=9」へと変化しました。複数の選択肢から最適な組みあわせを選ぶ“最適解”を見つける時代です。
しかし現代は、DXやAIの台頭により「なんでもシステムで実現しよう」という世界観になりました。これは「?□?=?」という状態です。足し算なのか引き算なのか、どのような条件で答えを出すのかさえ決まっていません。
ゴールもルールも決まっていないなかで、関係者間でしっかりと合意形成を行い“納得解”を導き出すマネジメントが不可欠となっているのです。

プロジェクトマネジメントの世界標準であるPMBOK®も、この変化に対応しています。
第6版までは「決められた順番で工程を進めれば一定の成果が出る」というアプローチでしたが、第7版では「原理原則を指針とし、状況に応じてテーラリング(最適化)しつづけること」へと大幅に変更されました。
固定の正解に従うのではなく、つねに状況に適応しつづける行動が求められているのです。

さらに、テクノロジーの多様化や、リモートワークの定着による「組織カルチャーの形骸化」など、プロジェクト進行や品質管理の妨げとなる要素が多数存在しています。

こうしたことから、私は現代の品質管理において極めて重要なのは、プロダクト品質はもちろんのこと、上流工程からプロセス品質をしっかりと保つことだと考えています。
継続的に品質に焦点を当てながら、ユーザーのニーズに合致した成果物を、関係者全員が納得する形で構築していく。これこそが、現代の開発現場に求められる原理原則なのです。

【事例1】「品質より納期」と一蹴される現場での先回り戦略
ここからは、私がどのように品質管理を行ってきたか3つの事例を交えてご紹介します。
最初の事例は、関係者2,000名以上、数百ものサブシステム群のうち約200システムに手を入れる超大型プロジェクトです。このシステムは災害対策や人命救助に関わるため、最高ランクの品質が求められていました。
しかし同時に、急な法改正に伴い10ヶ月間での納期必達という至上命題も抱えていました。
私は、プロジェクト全体の品質総責任者(品質PgMO)として参画しました。ところが、初日に渡されたプロジェクト計画書には「重要視すべきは品質ではなく納期である」と明記されていたのです。
「品質の重要性を啓発しても、納期優先だと一蹴される」。これが、このプロジェクトにおける最初の壁でした。

また、現場の状況は混沌としていました。
2,000名が関わるなかでコミュニケーションツールは統一されておらず、Microsoft Teams、Slack、口頭連絡が入り乱れる始末。不具合の報告もMicrosoft ExcelやBacklogなど各社が好きなツールで行う状態でした。
いざテスト工程に向けた準備を進めようとしても、約200ものシステムを最終的に組み上げるステージング環境すら用意されていませんでした。
さらに、数十年前から稼働しているシステム群であったため、人によっては昔の略称でシステムを呼ぶなど、呼称が統一されていなかったのです。
こうした状況下で、「口を開けて待っているだけでは、テストがはじめられない」と、私はテスト担当の枠を大きく超えた行動に出ます。
自らデプロイの承認フローやルールを定めたデプロイ戦略を策定。システムの名称を統一し、不具合の管理計画を一元化してプロジェクト全体に適用しました。

「テストをはじめる前にPMやPMOが組み立てておくべきプロセスをも自ら巻き取って構築する」。この“品質を創る”という観点に立った先回りの準備が功を奏し、このプロジェクトは無事にリリースへと至りました。
【事例2】諦めムードの現場を動かした、“役員への通知表”
2つ目の事例は、数百万人が利用するコンシューマー向けシステムを運営する事業会社での品質組織立ち上げです。
利用者の急増に伴い、1年間で従業員を倍増させた結果、独自のやり方で開発を進める人も増えて不具合が多発。アジリティ(俊敏性)とガバナンスを両立させる横断的な品質専門の組織づくりが急務でした。
しかし、品質改善コンサルタントとして参画した初日、開発部門の責任者からこう告げられます。「過去にコンサルが2社入って失敗している。SHIFTさんで3社目だね」。
現場は「また別の会社が来たか」と諦めている状態、つまり“期待値ゼロ”からのスタートとなりました。
私たちがそれまで方向性などをすり合わせていたお客様側の役員たちと、現場の気持ちには乖離があることを肌で感じた以上、トップダウンの方針をそのまま押しつけても現場は絶対についてきません。
そこで私は、現場の心をつかむべく、ボトムアップの組織構築へと舵を切りました。
1ヶ月間、毎日2〜3人ずつ、計50名の現場担当者と対面ヒアリングを敢行。
「企画部門から渡される企画書の情報が不足している」などの現場のリアルな声を拾い集め、日々の業務フローに紐づく「100個以上の不満と課題」を洗い出しました。
この不満と課題を役員陣へと確実に伝えたい。役員陣の心を動かす方法を模索した結果、2ヶ月目にして私は現場の不満と課題を“通知表”という形で役員に提示しました。そこで示した評価は“最低”です。
その上で、理想と現場の課題を解決するハイブリッド戦略を提案し、合意形成しました。この本気の姿勢が役員や現場の心を動かし、結果的に5ヶ月という短期間で強固なガバナンスとプロセス品質の構築に成功しました。
【事例3】自由を愛するエンジニアに“規律”を。反発を乗り越えた定量化のプロセス改善
3つ目の事例は、100万人近くの国内利用者を擁するシステムの開発プロセスを刷新するプロジェクトです。SHIFTは開発プロセスの刷新、開発成果物のフォーマット、ガイドラインの策定を依頼されました。
最大のハードルは、企業カルチャーでした。CTOが採用時に「うちに入れば自由に何でもできる」と謳っていたため、エンジニアたちは自由を求めて入社してきていました。
そこに、開発フォーマットやガイドラインといった“規律”を導入しなければならないという、ジレンマを抱えたプロジェクトでした。
自由を愛するエンジニアにルールを押しつければ、猛烈な反発を招くのは火を見るより明らかです。そこで私が着目したのは、「彼らは自由を求めるが、無駄な作業は嫌う」というエンジニアの特性でした。
スキルアップの妨げになる業務は切り離し、有意義なプロセスだけを構築する。そしてその意義を、感覚ではなく定量化して証明しました。
現在の傾向を分析するとともに、新しいプロセスのトライアルを行い、結果をデータとして提示しながらPDCAを回していきました。

具体的な成果も現れました。エンジニアたちはテスト工程に入った際、QAメンバーからの質問への対応を煩雑に感じていたのです。
そのため、「質問が来ないように上流工程のプロセスを改善しませんか?」と提案し、その結果、質問対応が半減しました。
自らの業務効率化というメリットを実感したことで現場の意識が変わり、結果的に上流工程の生産性は1.3倍に向上。いまではお客様自身でPDCAを回し、自走するカルチャーが確立されています。
誰も疲弊しないプロジェクトへ。QAに求められるのは「PMと同等の視座」
ここまで、プロダクト開発に関わるすべての方々に向けて、私たちが手掛けてきた事例をお話ししてきました。
これらの事例の根底にあるのは、私のなかにある「品質を創る」という信念です。これはSHIFTの品質に対する想いと似通ったところがあります。
どんなに丁寧にテストをしてバグのない状態をつくっても、なぜか現場のエンジニアは土日出勤を強いられている。子どもが生まれて家族と過ごしたいと願う優秀な若手たちが疲弊し、会社を去っていく――。
そんな状態を私は許したくありません。

上流工程からスムーズな開発ができるプロセスを構築し、品質を創る。そのためには私たちが「テスト専門のベンダー」という枠にとどまっていてはいけません。
後工程へのしわ寄せを防ぐためにも、調達などの一部を除き、弊社の品質管理担当者はPMやPMOと同等のスキルと視座をもつ必要があると考えています。
プロジェクト全体を俯瞰し、リスクや品質に関しては誰よりも高い感度をもち、上流工程からプロジェクトを牽引していく。そうして健全に開発できる環境を築くことこそが、私たちが目指す真の品質マネジメントです。
SHIFTの挑戦は現場のプロセス改善だけにとどまりません。
近年では、24時間365日稼働する品質AIソリューション「ネムラナイ」の立ち上げや、AIを用いて品質をどのように構築していくかという新たなサービスの開発・運用にも着手しています。
品質保証の新たな可能性を切り拓きつづけている私たちに、ぜひ今後もご注目いただければと思います!
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)