1,500件の不具合は「宝の山」。ジュニアPdMの意思決定力を鍛える「チケット千本ノック」 pmconf 2025 登壇レポート

2026/05/20

2025年12月4日pmconf 2025が開催されました。

SHIFTからは、DAAE部 ワスレナイグループ グループ長 金城 貴大が、「小さな判断で育つ、大きな意思決定力 ― 不具合チケットから学ぶプロダクトマネージャーの基礎」と題したセッションに登壇。 

プロダクトマネージャー(PdM)にとって、プロダクトの価値を左右する「意思決定力」は不可欠なスキルです。

しかし、実際の開発現場では「経験がないから重要な判断は任せられない」、ジュニアPdMからすれば「任せてもらえないから経験を積めない」という育成のジレンマに陥っている組織は少なくありません。 

このジレンマを断ち切るため、金城は不具合チケットを活用した「意思決定の千本ノック」というユニークな育成手法を採用しています。

単なるネガティブな作業と思われがちなバグ対応の山を、いかにして「ジュニアPdMが意思決定者へと成長するための宝の山」に変えるのか。 

約2年間で1,500件の優先度づけを行った自身の体験と、ジュニアPdMを3ヶ月で劇的に成長させたリアル実例から、その軌跡を描き出します。 

  • DAAE部 ワスレナイグループ グループ長 金城 貴大

    前職でライフサイエンス領域の製品開発に従事し、要件定義から設計、開発、テスト、保守まで一気通貫で経験。SHIFT入社後はテストの現場で3年間の経験を積み、最大40名規模のテストチームを率いるプロジェクトマネージャーを担当。2022年からは自社SaaS「ワスレナイ」のプロダクトマネージャーとして、開発経験とテスト現場で培った知見を基盤に、品質とスピードの両立を目指したプロダクトづくりに取り組んでいる。

目次

ジュニアPdMを阻む「育成のジレンマ」と意思決定のむずかしさ

私がソフトウェアテストを担当していたころ、約2年間で1,500件の不具合が見つかったことがあります。みなさんは、この数をどう捉えますか?「こんなに不具合があるなんて…」と思うでしょうか。 

私は、「これは自身の意思決定力を鍛えるチャンスの数」と考えます。当時の私は不具合チケットに自分なりの根拠をもって 優先度をつけ、それをPdMに報告していました。その過程で、「当該プロジェクトで大切にすべき価値観」という軸を自分でもてるようになりました。 

このスキルは、SHIFTが開発した情シス業務効率化のためのSaaS・IT資産の一元管理ツール「ワスレナイ」のPdMを務めるいまでも役立っています。

PdMの仕事は判断の連続ですよね。機能開発の優先順位、仕様をどこまで突き詰めるか 、あるいはリリース直前に見つかった不具合への対応など、PdMが決断しなければならないことは山のようにあります。 

PdMが適切に意思決定を行わなければ、開発チーム全体の動きが鈍くなり、最悪の場合プロジェクトが止まってしまいます。そのため、限られた情報と時間のなかで、迅速かつ的確に決める能力がPdMには求められます。 

しかし、経験の浅いジュニアPdMが意思決定力を鍛える機会は非常に少ないんです。意思決定には責任が伴うため、「経験がないから重要な判断は任せられない」と周囲は考えます。

一方で、当のジュニアPdMからすれば「任せてもらえないから経験を積めない」という状態に陥ってしまいます。 

たしかに、影響範囲の大きいロードマップの策定や重要機能の方向性決めなどをいきなり新人に任せるのは、組織としてもリスクが高いですよね。

この「育成のジレンマ」という負のループを断ち切るための工夫が、開発現場には求められています。 

では、意思決定力をどのように身につけるのか。まず、書籍や座学だけで身につくことはありません。なぜなら、本が教えてくれるのは一般的なセオリーや正解の型に過ぎないからです。 

しかし、実際の開発現場で直面するのは、「私たちのプロダクトはいま、どの方向を目指すべきか」「この限られたリソースで何を優先すべきか」という、状況に応じた個別具体的な判断です。 

どんな名著を読んでも、目の前の自社プロダクトの固有の課題に対する答えは書かれていません。だからこそ、現場の状況に応じた生きたトレーニングの場を意図的に用意する必要があるのです。

不具合チケットで回す、意思決定の高速サイクル

PdMの意思決定プロセスは、大きく3つのステップに分解できます。

新しい機能開発も、この3ステップを踏んで進行します。つまり、このプロセスをいかに多く経験させるかが、意思決定力を鍛える鍵となります。 

そして、この3ステップを高速で回すのに最適な教材が「不具合チケット」です。開発中やテスト中には、バグや仕様の考慮漏れなど、期待値とのズレが毎日のように大量に発生します。 

不具合チケットとは、プログラムのバグや使い勝手に関する違和感など、仕様とのズレを記録・管理するものです。 

不具合チケットには対応の優先度があり、それを「P1(最優先・即対応)」「P2(リリースまでに修正)」「P3(次回以降のリリースで対応)」「P4(仕様として許容)」の4段階で表します。

なぜなら、限られた期間ですべての不具合を直すことは不可能だからです。

不具合チケットの優先順位づけもPdMが意思決定します。そのプロセスの一例を以下に示します。

こうして図解してみると、一見ネガティブで面倒な不具合対応も、視点を変えれば「意思決定力を鍛える千本ノックの場」としてこれ以上ない好機であることがわかるのではないでしょうか。

チームの「価値基準」をジュニアPdMにインストールする

不具合チケットを活用したトレーニングの真の目的は、プロダクトの「価値基準」をジュニアPdMにインストールすることです。 

実際の現場では、情報が100%揃うことはほぼありません。情報不足のなかで最後の拠り所となるのは、「チームやプロダクトが何をもっとも大切にしているか」という価値基準(物差し)です。 

チケットの優先度についてマネージャーとすりあわせを繰り返すことで、「いまはスピードを優先すべきか、それとも品質を優先すべきか」といった判断軸が少しずつ共有されていきます。 

この価値基準の同期こそが、材料不足の状況下でも自信をもって決断できる「強いPdM」を育てるのです。

判断のズレから学んだ、個人的な正解よりも優先すべきこと

私がソフトウェアテストを担当していたときに、あるテストの進行を妨げる不具合を発見したことがあります。

私は「直るまでは他の部分のテストを進めればいい」と考え、最優先のP1ではなく一段階下げた優先度と判断しました。 

しかし、当時のPdMは「ユーザーが目的を達成するための正常な操作経路(ハッピーパス)が通らないと、その他の不具合対応も遅れ、結果として全体の開発スケジュールが遅延する。だからこれは即対応すべきP1だ」と指摘しました。 

私の判断は、テストチームの作業効率という観点では正解だったかもしれません。しかし、プロダクトを早くユーザーに届けるという当時のプロジェクトの価値観にはあっていませんでした。 

別のプロダクトであれば、私の判断が正解だった可能性もあります。 

大切なのは、自分の個人的な正解を押し通すのではなく、「いま、このプロダクトが重視している価値基準は何か」を探し出し、そこに自分の判断軸をアジャストしていく姿勢だと気づかされました。 

不具合対応の現場で叩き込まれた「価値基準の同期」は、現在の私のPdM業務の根幹を支えています。 

例えば、冒頭でお話ししたワスレナイの事業責任者とは、週2回のミーティングのなかで思想や価値観を吸収したり、ユーザーに対しては要望を鵜呑みにせず「本当に実現したい状態はこれですよね」と自分の言葉に変換してぶつけたりすることで、相手の隠れた価値観を引き出しています。 

不具合チケットの山と格闘するなかで培った「相手の価値観を引き出し、自分の物差しをアップデートするスキル」は、PdMとしてのあらゆる場面で強力な武器となっています。

「千本ノック」で作業者から意思決定者へ

この「不具合チケットを活用した千本ノック」の有効性を証明するため、現在私が率いるチームのジュニアPdMにも実践してもらいました。 

期間は3ヶ月。約170件の不具合チケットの優先度づけをジュニアPdMに任せ、毎日の朝夕会で「なぜその優先度にしたのか」を説明してもらいました。

そして、その場で私がプロダクトの価値基準に基づいたフィードバックを徹底的に繰り返しました。 

「ここまでやるか」と思われるかもしれませんが、この高頻度で泥臭いフィードバックの継続こそが、私たちのチームが実践する人材育成の形です。 

開始当初、ジュニアPdMは意思決定の各ステップでつまずいていました。

確固たる判断軸がないため、「別の画面で似たような機能が優先度P3だったから、今回もP3にしました」といった具合に、過去のチケットを参考に「雰囲気」で判断してしまっていたのです。

しかし実際には、その画面は主要機能であり、影響範囲を考えればリリースまでに直すべきP2の案件でした。情報探索が不十分で混乱してしまい、なんとなく決めた結果、理由を論理的に説明できず合意形成もできない。

まさに、意思決定の3ステップすべてで壁にぶつかっている状態でした。 

しかし3ヶ月後、170本のノックを受け切ったジュニアPdMは見違えるように成長しました。 

ある日、「閲覧権限のユーザーに、実行できないはずの『通知チャンネルの追加』ボタンが表示されてしまう(押すとエラーになる)」という不具合が発生しました。 

ジュニアPdMは自らボタンを押して挙動まで確認した上で、「『通知チャンネルの追加』ボタンは本来表示されるものではありませんが、権限制御自体は機能しています。いまはまだテスト期間の序盤で開発チームにも修正の猶予があるため、P2とします」と説明しました。

さらに、「現在のチケットの項目だけでは判断が難しいため、本番環境での発生状況を確認する項目を追加させてください」と自ら提案するまでに至ったのです。 

自ら能動的に情報を取得し、プロダクトの状況を加味したうえで、説得力のある論理的な説明を行う。彼は3つのステップを踏みながら、自らの意思と根拠をもって判断を下す「意思決定者」へと見事な脱皮を果たしました。

まとめ

PdMにとって、ロードマップの策定のような「大きな意思決定」の機会は、実はそれほど頻繁には回ってきません。

だからこそ、目の前の日常業務のなかに転がっている機会を逃さないことが重要です。最後に頼れるのは情報ではなく、自分のなかに育った「価値基準」だからです。 

意思決定には「情報探索・選択と決断・合意形成」の反復練習が不可欠です。ネガティブに捉えられがちなバグ対応の山も、単なる作業で終わらせるのではなく、「意思決定の練習の場」として再定義してみてください。 

そのプロセスの中でチームの「価値基準」の同期を重ねることは、ジュニアPdMを飛躍的に成長させる宝の山へと変わります。

日常の小さな判断の積み重ねこそが個人の成長を促し、結果として強い組織、そして強いプロダクトをつくり上げるのです。 

(※本記事の内容は、イベント開催当時のものです)



記事を探す

  • 職種

  • 対象

  • 記事カテゴリー