2025年10月22日、SHIFT主催の技術イベント「SHIFT EVOLVE」にて、「Rebootふりかえり~人・組織・日本をアジャイルに(Agile in Motion vol.5)」と題されたセッションが開催されました。
品質にこだわってきたSHIFTならではの目線で、アジャイルに長年携わってきたゲストを招き、アジャイルの神髄に迫るという本シリーズ。
今回は、SHIFTがゴールドスポンサーを務める「Agile Japan」(2025年11月13、14日開催)の、初学者向けセミナーという位置づけで開催されました。
KPT推進の第一人者である天野 勝 氏と、目標づくりの第一人者である小田中 育生 氏にお越しいただき、SHIFTふりかえり&アジャイルエバンジェリストの森 一樹も加わったパネルディスカッションの内容を、特に印象深かった箇所をピックアップしてご紹介します。
-
株式会社永和システムマネジメント/Agile Studio アジャイルコーチ/KPTAエバンジェリスト 天野 勝 氏
2000年にExtreme Programming(XP)に出会う。XPを実践するなかで、「チームで仕事をするには、多面的な改善を繰り返すことが超重要」であると実感。現在は、システム開発かどうかに関わらず、チームで仕事をしている方々の居場所をつくるために、KPT/KPTAを活用して研修やコーチングを行っている。社内外で「あまぴょん」と呼ばれている。
-
株式会社カケハシ SCM Head of Engineering DevLOVE 小田中 育生 氏
株式会社ナビタイムジャパンでVP of Engineeringを務め、2023年10月にエンジニアリングマネージャーとして株式会社カケハシにジョイン。2025年3月よりHead of Engineeringを務めている。薬局DXを支えるVertical SaaS「Musubi」をコアプロダクトに位置づけ、「しなやかな医療体験」を実現するべく新規事業のプロダクト開発にコミットしている。
-
SHIFT ふりかえり&アジャイルエバンジェリスト 森 一樹(びば)
みんなに強化魔法をかける人。ふりかえり・チームビルディング・ファシリテーションを軸に、よい組織・プロダクトをつくるために社内外で活動中。ふりかえりの個人・企業相談・ワークショップ・研修や、アジャイルコーチを行っている。
目次
ふりかえりは「幸福な未来」のためにある
Q ふりかえりは、何のために行っていますか?何のために行うとよいでしょうか
森:早速ですが、お二人は何のためにふりかえりを行っていますか?
天野:僕は自分の考えや言動などを省みる、内省としての「リフレクション」の文脈から自分の考えを言語化するために行っています。経験から得た学びは、「幸福な未来」をつくるための礎のようなものですから。
小田中:ふりかえりを行う主語によって、目的は変わりますよね。主語がチームであれば、レトロスペクティブの要素がかなり強くなるでしょう。
重要なのは、課題を乗り越えるための方法を探すため、チームの糧にするためにふりかえるのであって、責めるために行うわけではないということ。
内面と向き合うリフレクションを個人だけではなくチームにも適用するといいと思います。ワーキングアグリーメントやチームの価値観をアップデートする、絶好の機会になりますよ。
森:私は、ふりかえりを行うことで未来の現場がよくなると確信しています。だから、ふりかえりを広めていきたい。
ふりかえる目的をあげるなら、自分たちのため、さらにその先にある未来のためだと思ってもらえるとうれしいです。
小田中:いま、お二人の話を聞いていて面白いと思ったのが、3人とも「ふりかえりは何のためにやるのか?」という問いに対して、当たり前のように「未来」の話をしている点です。
過去をふりかえるという言葉の響きとは裏腹に、その視線は未来に向かっている。「未来志向」が、ふりかえりの反省会化を脱するカギだと思いました。
森:ふりかえりは書籍などで色々なやり方が定義されていますし、Web記事もたくさんあります。
そういった当時、聞きかじりのKPTで私は地獄を見たので、そもそもの目的が未来にあることを意識してスタートすれば違う結果になるということを、みんなに知ってほしいと思っています。
なぜ「ふりかえり」が「つらい反省会」になってしまうのか
Q あなたのふりかえりの黒歴史を教えてください。そこから、ふりかえり観がどう変わったかも教えてください。
森:次は黒歴史についてです。ふりかえりって、「つらいだけの反省会」になりがちですよね。実は、私もそうでした。
私の最初のふりかえり体験は、12年ほど前のことです。1年がかりの大炎上プロジェクトをなんとかリリースまでこぎつけたあと、ふりかえり手法の1つであるKPTを行いました。
ですが、問題(Problem)を詰めるだけで、よかった点(Keep)はほとんどあがらなかったんです。
天野:うわあ、それはつらいですね…。
森:Problemが出てくるたびに、原因を詰められました。そのあと、改善案がどうなったか聞いたら、「報告して承認されたから、それでおしまいだよ」と。
あれは一体何のための時間だったんだろうと、ふりかえりが大嫌いになったのが私の原点です。
天野:僕も、ふりかえりが嫌いだった時期があります。大学時代、プリント基板の製造会社でアルバイトしていたんですが、改善提案書を1枚書くと100円もらえたんです。
「ここにあったものをこっちに動かしました」と書いて、しばらくしたら「こっちに戻しました」と書くだけで100円もらえる。
当時は「これが改善なのか」と馬鹿らしく感じて、改善自体がすごく嫌いになりました。「改善嫌い時代」は長くつづきましたね。
森:そこからどう変わっていったんですか?
天野:後にリーン開発に関する書籍の翻訳に携わったのですが、トヨタ生産方式の考え方がアジャイル開発の実践者にも広く知られるようになり、自分たちがやっていることが実は改善だったと気づいて、それから「改善肯定派」になりました。
ですが、その後、よかれと思って改善を組み込みすぎるようになってしまいます。特に手軽なKPTを行いすぎた結果、マンネリ化したり「KPTは大変だ」といわれたりしました。
野中 郁次郎さんが「イノベーションは幸福な未来のためにある」と語る動画を見てからは「何のために改善するのか」、「改善の先に何があるのか」まで考えないといけないと思うようになりました。
改善活動が目的化してしまったことは黒歴史ですね。
小田中:逆に、僕の場合は「改善できるようになってよかったな」と思った経験があります。以前所属していたチームに、気づいた改善点を書き留める「改善シート」というものがあったんです。
最初は「いいチームだな」と思ったんですが、それらはレンガのように積み上がっていくだけでした。
森:ああ、わかります。
小田中:「改善案、いつ実行するんですか?」と聞いたら、「実行しているところは見たことない」と言われて。
みんな書いたことをシリアスに受け止めていない、つまり「どうせやらないだろう」と諦めてしまっていたんです。
僕が声をかけて少しずつ実行したら、あるとき一気にチームが前に進むようになったように感じられたことがあって。
改善シートをさわらなかったことは黒歴史ではありますが、改善が当たり前になるチームへと変わった経験は印象深い思い出ですね。
沈黙は怖くない。ふりかえりにおけるファシリテーションのあり方
森:もう一つ、私の黒歴史でいうと書籍に書かれたKPTのやり方・進め方を守ろうと、設計したとおりに結果的にぶつ切りでやってしまっていたことがあって。
「じゃあ時間になったら次に行きましょう」という感じです。
天野:僕は誰でもやれるという点がKPTのよさで、時間を決めるのもけっこう好きなんですよ。ただ、ファシリテーターは固定化しないほうがいいですね。
司会をやることで、みんなの目がキラキラしはじめることがあるんです。立場が変わって見方が変わるんでしょうね。
「自分でもできた」という自信にもなりますし、ほかの人が司会をするときにも自然と協力的になります。
小田中:リーダーが、「自分がファシリテーションしなければ」という固定観念にとらわれていることもありますよね。
ですが、持ち回りにすると場が「リーダーのもの」から「みんなのもの」に変わっていく。誰もが当事者意識をもつきっかけになります。
森:ファシリテーターとして、「一歩引いた立場」でいなくては、と捉えている人は多いと思うのですが、ファシリテーターは“帽子”みたいなもので、脱いだりかぶったりしていいんです。
いま脱いでいることを見せて、ファシリテーターでもチームの一員として自由に発言する場面があっていい。その場に応じて変わるファシリテーションが、一番美しいと思います。
天野:僕の師匠である懸田剛さんという人が「ファシリタティブ」という言葉を教えてくれました。ファシリテーションが機能している状態、ということです。
誰が司会しているかわからないけど、目的に向かってみんなが力を合わせて進んでいるような状態、と僕は理解しています。
だからこそ沈黙の時間もOK。でもファシリテーターは「沈黙が怖い」と思いがちですよね。
つい焦って誰かを指名したり、自分で話しはじめたりしてしまいがちですが、無言の時間を自然と受け入れられる状態こそ、僕は居心地がいいと思います。
小田中:無言の時間って、実はみんなが考えたり、内省したりしている貴重な時間なんですよね。明確に「2分間考えてみましょう」って区切るのも手ですよね。
森:そうなんです。私がよく使うのが、「みなさん、思いついた人からどうぞ」という言葉です。少し待っていると、誰かがポツリと話しはじめ、そこから自然な対話が生まれていきます。
意外と沈黙は怖くないんです。
小田中:ファシリテーターだけが無言の状態を突破するのではなく、「みんなでそこの糸口を掴むんだよ」というメッセージングをするのは、すごく大事だと思います。
あなたの「Reboot」からはじまる幸せの連鎖
Q ふりかえりを通じて、組織と日本を変えていくために何からはじめたらよいでしょうか?
森:この質問については、小田中さん、どうでしょうか?
小田中:僕は、個人の習慣を変えるところからチャレンジしたらいいと思います。例えば、「やったこと」「わかったこと」「つぎにやること」を3行で書く、いわゆる「YWT」です。
これを日報やチャットで共有するだけで、まわりの人は「この人はこんな学びを得たんだ」と知ったり、真似したりできますよね。
やったことをふりかえって、学びを共有する。この「検査と適用」のサイクルが当たり前になれば、個人もチームも組織も、間違いなくよくなっていきます。
天野:僕はもう少し内面的な話になりますが、「まず自分を満たすこと」からはじめたいと思っています。「日本を変える」なんておこがましい。
まずは、自分が何をしているときに幸せなのかを知り、自分を承認すること。それができてはじめてまわりの人に優しくできるような、よりよい関係性を築けるのだと思います。
森:お二人の話、すごく共感します。結局、自分が影響を与えられるのは、自分の目の届く範囲です。
だからこそ、まずは自分の周りにいる人たちといっしょに、心地よい環境、ハッピーな空間をつくっていきたい。
そうやってつくられた心地よい環境は、口コミのように伝播していくはずです。その経験をした人が、また別の場所で同じような場をつくっていく。
そうやって、幸せの連鎖がじわじわと組織全体、ひいては社会に広がっていくと信じています。
Q 最後に、「ふりかえりをReboot」するために、あなたは何をしますか?視聴者のみなさんに、何をしてほしいですか?
小田中:すごく一般的でつまらない答えかもしれませんが、「ふりかえりのふりかえり」が大事だと思います。ふりかえりそのものをつねに点検して、強くしていく。
一度シャットダウンするような大掛かりなRebootではなく、小規模なRebootを積み重ねることでチームを改善できるのが、ふりかえりの真骨頂なのではないでしょうか。
天野:Rebootというと、ハードディスクを想起します。揮発性メモリは消えてしまうけれど、不揮発性メモリは残る。ふりかえりを行うと、しがらみはなくなって根幹が残るんです。
ふりかえりの根幹は、自分や他人の幸せに興味をもつことだと思います。人生という大きな視点から、自分や他人のよいところを探し、知っていくプロセスをふりかえりに組み込んでほしいと思います。
森:アジャイルのなかではふりかえりが流行っているのですが、ほかの業界ではまだその兆候は見られません。
ふりかえりはアジャイルだけのものではありません。みなさんが知らないふりかえりの形、ふりかえりの外の世界をこれからも発信していきたいと思います。
イベント全編をご覧になりたい方はこちらから
―――さまざまなテーマでイベントを開催中のSHIFT EVOLVE。次回以降もぜひお楽しみに。
5,000名を超える登録者数!技術イベント SHIFT EVOLVEをチェック
(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)