とにかく打ちまくれ。DAAE戦略部の「生成AIチーム」が実践する爆速R&Dのリアル

2024/07/01

生成AIの波があらゆるビジネスや生活シーンに押し寄せるなか、SHIFTでも生成AIにまつわる取り組みが各所で勃興しています。

お客様のDXを支援するための各ソリューションの提供(取組例1取組例2)のほか、社内での業務改善を推し進めるためのR&D的な取り組みも盛んに行われています。 

今回は主に後者の事例として、生成AIを通じて社内の要望/課題を解決していくDAAE戦略部のお二人に、具体的な取り組み内容や、最新技術を扱うにあたっての苦労ややりがいなどについてお聞きしました。 

  • DAAE戦略部 DAAEグループ 松永

    2018年4月SHIFT入社。2022年まで大手流通企業のお客様に対してテストやPMO、移行関係の業務に従事した後、アカウントマネージャー(※)部門に異動し、既存のお客様向けソリューション営業を担当。その後、2023年にDAAE戦略部のAIチームに呼ばれる形で異動し、現在は主にSHIFT社内の生成AI関連の社内PoCプロジェクトを推進している。

    ※お客様単位での案件管理や、すでにお取引のあるお客様の課題に対する提案活動・折衝を行うポジション

  • DAAE戦略部 DAAEグループ 坂瀬

    国内大手ソフトウェアメーカー、個人事業主、書籍関連企業などさまざまな企業にて30年近くシステム開発などに従事した後、2021年2月にSHIFT入社。開発部門にて、テックリードとして多数の案件の技術フォローを行った後、退職して別企業に転職。その後2023年6月にSHIFTへと戻り、現在に至るまでDAAE戦略部にて生成AI関連のプロジェクトに携わっている。

目次

独自AIモデルの構築と、「天才くんシリーズ」の量産

――SHIFTでは生成AI関連の取り組みが活発です。まずはざっくりと、社内でどんなプロジェクトが進んでいるか教えてください。 

松永:大きくわけてR&D的な動きと、すでにサービスとして外販をしている動きがありまして、前者は私たちDAAE戦略部が、後者はAIサービス部など各事業部がそれぞれ主体となって取り組んでいます。 

――お二人が担当しているR&Dは、具体的にはどんなことをされているのでしょうか? 

松永:端的にお伝えすると、AIを使った業務の効率化や、事業として発展しうるプロダクトづくりですね。

具体的なアプローチとしては大きく2つありまして、一つはグループ会社と協業してのテスト特化の独自AIモデル(以下、独自モデル)の構築と実務適用に向けた取り組み、もう一つは「天才くんシリーズ」と呼ばれている主に自社のバックオフィス向けにライトなAIプロタクトを量産していくというものです。 

――天才くんシリーズ…、覚えやすい名前ですね。取り組みとしては、どちらから先にスタートされたのでしょうか? 

松永:独自モデルの構築ですね。株式会社DeMiAというAIに強みをもつ京大発のITベンチャーがSHIFTグループに参画しています。そのDeMiAと協力しながら研究開発を進めています。 

――なるほど。先にその独自モデルの構築についてお聞きしたいのですが、そもそもどういうきっかけでプロジェクトがスタートしたのでしょうか? 

松永:非常にシンプルで、テスト業務はSHIFTのメインサービスの一つなので、生成AIを使って何かできそうだよね、という議題が社内であがったことがきっかけです。

生成AIが日本で空前の話題になる、ちょっと前あたりの話です。 

坂瀬:GPT-4のような有名なものは学習がしっかりとされているLLMだと思いますが、その前段階みたいな形で、オープンソースとして日本語能力を獲得しているモデルが複数あります。

今回はそれらをベースにして、SHIFTのテストケースを追加学習させるなどしてチューニングした独自モデル群を構築していきました。 

松永:SHIFTでは「TD (Test Designer)」というテスト設計支援ツールを使っているのですが、独自モデルとGPT-4を併用することで、SHIFTのテスト設計の手法に沿う形でAIがTD上で各種リコメンドをしてくれるようになっています。 

複数の指標でGPT-4の精度を上まわる独自モデル 

――独自モデルは、実際どのぐらいの精度のものができているのでしょうか? 

松永:まだ一部のテスト業務だけが実務検証の対象となっているのですが、GPT-4に比べて独自モデルの方が複数の指標で精度が高い結果が出ており、より高い効果が現れています。 

引用元:2024年8月期 第2四半期決算説明資料 P.37 

――どんなところで苦労されましたか? 

松永:いまはGPT-4と独自モデルを工程ごとに組み合わせて使っている状況なのですが、GPT-4ははじめから精度が高い一方で、処理スピードの面で課題があります。

たとえ初期コストや学習に時間がかかったとしても、処理スピードのはやい独自モデルを設計構築していきたいんです。 

坂瀬:独自モデルそのものはDeMiAがメインとなって開発をしているのですが、そことTDチームがつくっているものの間にはどうしても乖離があります。

TDチームからはテストに関するデータや文章が出てくるのですが、それをそのままAI側に渡すことはできないので、TDからAIへ、もしくは逆のAIからTDへと渡せる状態にするような中間的な繋ぎのAPIを、私たちが開発しています。 

――今後に向けた取り組みとしてはいかがでしょう? 

坂瀬:やはりGPTベースだとどうしても時間がかかるので、そこを短縮するためにも、引きつづき、独自モデルの構築を極めていきたいと考えています。 

松永:PMとしての視点でいえば、現状はまだ独自モデルを半分ほどの工程でしか使えていないので、残りのGPT-4部分も全部独自モデルにしていきたいと思っています。 

また、いまはインプットするテスト仕様書を決まった型通りにつくる必要があるのですが、本来、仕様書は多種多様な形式のものがあるので、特定の形式のものを指定するとそれにあわせるために二度手間が発生してしまうんですよね。

そこを自動で変換するような仕組みもつくっていきたいとも思っています。ほかにもいろいろと細かいところを並行して進めています。 

――もう一つの取り組み軸である「天才くんシリーズ」についても教えてください。主に自社のバックオフィス向けにライトなAIプロタクトを量産していくとのことですが、具体的にはどういうものなのでしょうか? 

松永:こちらは端的にお伝えすると、社内のメンバーが自分たちでいろいろな業務改善を進めることができる仕組みづくりです。

具体的には、人事や広報、あとバックオフィスではないですがセールスなど、社内各所に「ウラカタさん」というAIとAPI連携したプロダクトを簡単につくれる管理画面をお渡ししていて、そこでいくつかの設定をすると、自動で該当業務を支援するAIツールができるようにしています。 

1週間ほどでつくりあげた社内DX用の生成AIツール 

――なるほど。エンドユーザーが自分でチューニングできると。いつごろからスタートしたプロジェクトなのでしょうか? 

松永:2024年3月あたりに、経営陣に対して今後のAI活用の方向性を相談したところ「ライトプロダクトの量産を進めよう」ということになり、そこから急ピッチで進めています。 

坂瀬:裏側の仕組みは私が構築したのですが、だいたい1週間ほどで最低限のモノ自体はできあがりました。

いまは、まずは採用チームに検証用のプロダクトを渡して、実際に試してもらっているところです。 

――1週間は爆速ですね! どういう業務についてのツールなのでしょうか? 

松永:例えば、質問を入力するとSHIFTおよびSHIFTグループの会社情報などを答えてくれる秘書的な役割を担うツールです。 

坂瀬:PDFからテキストを引っ張り出し、少し最適化したうえでAIに渡すという感じで、やっていることはむずかしくありません。

当初は、GPT-4V(ビジョン)が頭ひとつ出ていると思ったのでそちらを採用して実装していましたが、現在は GPT-4oという最新のモデルの利用に切り替えました。 

今後もスムーズに処理できるようにモデルの見直しやチューニングを進めていきたいと思っています。 

――エンドユーザーとしてはどのLLMかを意識する必要がないということでもありますね。 

坂瀬:いまのAI開発の状況を踏まえると、現時点でどのLLMがいいと決めうちで組み込むのは得策ではないと思いますし、随時よりよいモデルに切り替えて利用していくべきだと考えています。 

エンドユーザーとしては、AIを使ったローコードツール、AIはあくまで部品の一つくらいの意識で使っていただく世界になっていくと思っています。 

SHIFTの「いい意味でのゆるさ」がチャレンジ文化を後押ししている 

――各々の立場から見た、DAAEという環境の特徴/魅力を教えてください。 

松永:R&Dに潤沢な予算をつけてもらえるのがありがたいと感じています。

打率は3割でいいから、とにかく打ちまくれ。会社としてそういう方針をとってくれるので、思いっきりやらせてもらっています。 

坂瀬:取締役直下の部署なので、要望があればすぐに「じゃあつくってみようか」と進めることができますし、それに付随して新しい技術についてもしがらみなく試すことができています。

実は一度SHIFTを退社した出戻り組なのですが、他社だとなかなかここまで自由にやらせてもらえないと思います。 

――坂瀬さん、一度退職されているんですね。なぜ会社を出ようと思い、またSHIFTに戻ってこようと思われたのでしょうか? 

坂瀬:前回は約2年ほど在籍していたのですが、そのときはやりたいことが一通りできたと思って、外の世界に出ました。

悪い選択ではなかったとは思いつつも、やはりやりたいことを存分にやるためには、SHIFTくらいの企業体力が必要だし、何よりも「いい意味でのゆるさ」が必要だなとも感じました。

そんななかたまたまDAAEで生成AIを利用したプロダクト開発をやっていた前任者がいて、戻ってこないかといってもらえたので、戻ってきたという感じです。 

――「いい意味でのゆるさ」ですか。 

坂瀬:普通の会社だと売上とかいろいろなしがらみがあるし、一度手をつけたものは最後まで責任をもってやるというところがあると思います。

でもDAAEの場合は、成果が出なければ一旦やめて、次のチャレンジに移るという文化的な土台ができています。もちろんそれによって眠ったコードは多々ありますが(笑)、チャレンジしやすい環境だと日々感じています。 

松永:私は新卒から一貫してSHIFTなのでほかの会社のことはわかりませんが、飽き性な私でも、少なくとも6年間でやめたいと思ったことはありませんね。

チャレンジさせてもらえる環境というのは間違いないと思っています。いまはまだ世の中に対して、SHIFTがAIに強いという部分をあまり見せられていないと思うので、今後DAAEでの取り組みを通じてどんどんと発信していきたいと考えています。 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、取材当時のものです)