イベントレポート – RECRUITMENT|株式会社SHIFT https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz Thu, 13 Aug 2026 04:59:47 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.2.8 限定公開:PMIの勝ち筋がみえた。その確信がSHIFTを次の一手へ導く https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1594/ Thu, 13 Aug 2026 04:10:20 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=59033

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ハードモードなCDKメンテナンスから解放!6つの実務シナリオで検証する、AWS DevOps Agentの現在地 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1597/ Thu, 06 Aug 2026 00:00:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=58566 AWS CDK Conference Japan 2026 登壇レポート

2026年7月18日、JAWS-UG CDK支部が主催するAWS CDK(Cloud Development Kit)やCDKTF(CDK for Terraform) / cdk8s(+) の最新動向やベストプラクティスを共有する年次カンファレンス「AWS CDK Conference Japan 2026」が開催されました。 

SHIFTからは、AIアジャイル開発部 DevOpsエンジニアの奥田が「AWS DevOps AgentでCDKメンテナンスは楽になるのか?〜検証から見えた最適解〜」というタイトルで登壇しました。 

インフラストラクチャをコードとして管理するIaC(Infrastructure as Code)の分野において、AWS CDKは非常に強力なツールです。

再利用性や抽象化の高さから多くの開発現場で重宝されている反面、導入時の学習コストや日々の保守工数が大きな課題となっています。 

「この便利で強力なツールを、もっと誰もが簡単に使いこなせるようにならないものか」 

そんな開発現場の悩みを解決する有望な選択肢として期待されているのが「AWS DevOps Agent」です。

本記事では、奥田が、実務への適用を想定して行った徹底検証のストーリーを通じて、AWS DevOps Agentの活用術とその検証結果をご紹介します。 

  • AIアジャイル開発部 DevOpsエンジニア 奥田 雅基

    2016年、システム運用保守としてIT業界でキャリアをスタート。通信会社の新規ネットワークサービス立ち上げPJのPMO・ネットワークエンジニア、人事(社員教育担当)、社内プロダクト開発PJのシステムエンジニアを経て、2025年8月、株式会社SHIFTに入社。DevOpsエンジニアとして案件に取り組みつつ、社内外への技術発信活動にも挑戦している。 

目次

CDK導入の壁は“ハードモード”? 現場の悲鳴を救うDevOps Agentの登場

AWS CDKの最大の魅力は、高い再利用性と抽象化にあります。

TypeScriptなどのプログラミング言語を用いてAWSリソースを定義できるため、たとえば一度作成した構成のリージョン設定だけを変更して別環境に複製するといったことが容易に行えます。 

Constructによって一部設定が抽象化されるため、開発者の負担は大きく軽減されます。 

一方で、学習と保守といった観点では扱いづらさが残ります。AWS CDKを実務で使いこなすためには、インフラの知識だけでなく、TypeScriptの型システムやアルゴリズムの理解、さらには複雑な環境構築が必要です。

初学者にとってこの学習コストはまさに“ハードモード”であり、チーム全体へ定着させる際の大きな足かせとなっていました。 

この壁を乗り越える希望となるのが、2026年4月に一般提供が開始された生成AIサービス「AWS DevOps Agent」です。 

AWS DevOps Agentは、AWSアカウント内のリソースをモニタリングし、インシデント管理から予防保全の提案までを自動で行うAIアシスタントです。

性能はアップデートのたびに向上しており、現在では日本語にも対応しています。さらにGitHubやSlack、PagerDutyといったサードパーティツールとの統合も可能です。 

本格的な導入にあたって気になる利用料金ですが、エージェントの実行時間に対して課金され(1秒あたり約0.0083ドル)、仮に24時間稼働させた場合は1日約10万円のコストがかかります。 

個人利用としてはハードルが高いものの、企業向けのサポートプラン等に加入していれば一定の割引が適用されるため、法人利用においては十分に導入を検討できる範囲といえるでしょう。 

こうした数ある機能のなかでも、AWS CDK運用において特に期待が高まっているのが、2026年6月にプレビュー版として登場したリリース管理機能です。

この機能は、AWS CDKやTerraformで定義されたコードをAWS環境へ本番適用する前に、AIがコードの不備を事前チェックしてくれるというものです。 

どれほど熟練したエンジニアであっても、本番環境への変更適用には心理的な不安が伴います。

リリース管理機能を活用し、本番前にコードレベルでの評価を行うことで、「確実に動く」という安全基準を担保し、デプロイ時の不安を大きく取り除くことができるのです。

なお、本機能は現在プレビュー版であるため、現時点での業務適用は困難かなと思われます。

バージニア北部リージョンに構築したAWS DevOps Agentでのみ利用可能という制約がありますので、検証やテスト導入を行う際は、この点にご留意ください(※2026年7月18日時点の情報です。最新情報は公式サイト等でご確認ください)。 

実務を想定した徹底検証!現場目線で挑んだ6つの独自シナリオ

「AIが事前チェックをしてくれるのは素晴らしいが、はたして実務の複雑な要件にどこまで通用するのか?」 

私は、そんな疑問を抱いていました。

初学者がAWS CDKを定着させるためのハードルを、AWS DevOps Agentは本当に下げてくれるのか。コードベースの検証において、AIはどのような精度で、どのようなアウトプットを返してくるのか。

自らの目でAIの現在地を確かめるべく、実務を徹底的に想定した検証プロジェクトをスタートさせました。 

検証環境を構築するにあたり、誰もがイメージしやすいよう、Amazon CloudFront、Amazon Simple Storage Service(S3)、Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)を用いたシンプルな構成の、中小規模のWebサービスを想定しました。 

真の実用性を測るため、単に正しいコードを読ませるだけでなく、意図的にさまざまなトラブルを混入させた6つのシナリオと15の検証観点を用意しました。

一般的なHTTPS未対応といった障害だけでなく、AWS CDK特有のアンチパターンであるAMI IDやアカウントIDのハードコーディングを注入。

さらに、構築済みのインフラをAWSコンソールから直接操作してしまう手動ドリフト(コードと実環境の乖離)や、環境構築パッケージが未インストールの状態まで網羅しました。 

現場で実際に起こりうるトラブルをAIがどう捌くのか。その実用性を検証する準備が整ったのです。なお、今回の検証で使用したCDKコードはGitHub上で公開しています。

記事を読んでAWS DevOps Agentの実力に興味をもたれた方は、ぜひご自身の手でも検証を試してみてください。

今回の検証で使用したCDKコードはこちら

AIの実力とハルシネーションのリアル。検証から見えた得意領域と課題

検証の結果、AWS DevOps Agentコードレビューにおいて大きな成果をあげました。特にGitHubと連携させたシナリオ(パターン1・2)では今回設定した検証項目をすべて検知しました。 

AWS CDK特有のハードコードAMI IDやアカウントIDといった問題については、高い精度で検知できることが確認されました。

さらに、GitHubのプライベートリポジトリとのセキュアな接続も問題なく行えるため、高いセキュリティ要件が求められるプロジェクトでも導入できること、そしてコードレビューにおけるAWS DevOps Agentの有効性が確認できました。 

一方で、実環境の検証だからこそ見えてきた課題もありました。手動で行われたリソース変更(ドリフト)の検知において、ハルシネーションが確認されたのです。 

検証では、Amazon Elastic Container Service(ECS)の設定を手動で変更しました。しかしAIは、変更していないはずのセキュリティグループの設定が変更されたと判断してしまったのです。

また、EC2上に直接格納されたコードをチェックするシナリオでも、AIが対象を上手く読み取れないケースが発生しました。 

これらの結果から、リリース管理機能はまだプレビュー版であり、ドリフト検知やプロンプトに改善の余地があることが分かりました。 

しかし、これは決してツールが使えないという意味ではありません。

「GitHub連携によるコードレビューには極めて強いが、実環境の直接的な手動変更検知はまだ発展途上である」という特性を正しく理解し、得意領域に絞って活用することが重要です。

適切な環境と設定を用意すれば、AWS DevOps Agentは強力な味方となります。

プロジェクト固有ルールもAIが担保。属人化を防ぐスキルセット機能の威力

AWS DevOps Agentの機能のなかで、現場のエンジニアにとって有用な機能のひとつが、スキルセット機能です。 

開発現場では、プロジェクトごとに固有のルールやセキュリティ要件が存在します。スキルセットを活用すれば、こうした独自のドメイン知識をAIに注入することができます。

不特定多数のメンバーが開発に関わり、品質にブレが生じやすい環境であっても、AIがプロジェクト固有の基準に照らしあわせてコードをチェックし、デグレードのリスク低減が気体できます。 

また、AWS DevOps Agentは、初学者にとってむずかしかったAWS CDKの学習環境を劇的に改善します。 

例えば、エラーが発生して行き詰まった際、エラーログを読み解く代わりに、AWS DevOps Agentに対して「なぜこのエラーが起きたのか? どう直せばいいか?」と自然言語で質問することができます。

AIが対話形式でスムーズに調査をサポートしてくれるため、初学者が挫折しにくく、AWS CDKの概念や実装方法をキャッチアップできるようになります。

AIは便利な道具から“開発パートナー”へ。AI SDLCが描く共創の未来

私は、この検証を通じて、これからの開発プロセスの未来像を実感しました。それは、近年ソフトウェア開発の現場で普及しつつある「AI DC」(AI駆動開発ライフサイクル)という考え方への統合です。 

生成AIアシスタントであるAmazon Qを活用してインフラのコードを書き、そのコードをAWS DevOps Agentが検証し、フィードバックを行う。

人間はそのフィードバックをもとに改修を重ねる。複数のAIが連携し、コード作成からレビュー、テスト、運用までをシームレスに支援するこのサイクルは、開発生産性を引き上げるものと考えています。 

複雑で学習コストの高いAWS CDKですが、AWS DevOps Agentのリリース管理機能やスキルセットを活用することで、その保守工数の削減や、品質向上に寄与する可能性が確認できました。 

プレビュー版ゆえのハルシネーションなどの課題は残るものの、それを補って余りある高いコードレビュー精度と、初学者を支える学習サポート機能は、現場の課題を解決する力をもっています。 

AIはもはや単なる便利ツールではなく、共にシステムをつくり上げる「開発パートナー」へと進化しています。AIと共創する新しい開発体験の第一歩として、ぜひご自身のプロジェクトでもAWS DevOps Agentの活用を検討してみてはいかがでしょうか。 

※本セッションの登壇動画は、こちらからご覧ください。 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです) 

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ソフトウェア品質は“創る”もの。不確実性の時代を勝ち抜くためのQAプロセス変革事例  https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1557/ Wed, 05 Aug 2026 00:00:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=57388 JaSST’26 Tokyo 登壇レポート

ソフトウェア開発が高度に複雑化する現代、「テストを重ねてバグをなくしたはずなのに、なぜかまだ開発現場は疲弊している」――そんな状況に陥っていませんか? 

システムの巨大化やAI・DXの台頭により、プロジェクトのルールやゴールが流動的になる場面も増えてきているなか、「完成したプロダクトのテストを行う」という受け身の品質管理では、プロジェクトの成功はおろか、メンバーの離職といった問題すら招きかねません。 

これからの時代に求められるのは、「品質を守る」という姿勢から脱却し、「プロセスから品質を創る」という新たなアプローチです。 

本記事では、2026年3月20日に開催され、SHIFTがプレミアムスポンサーを務めたイベント「JaSST’26 Tokyo」に登壇したAIテストサービス部 技術支援グループ 兼 AI自動実行グループ グループ長 纐纈(こうけつ)望の講演をもとに、厳しい局面をプロセス変革で乗り越えた3つの事例を紹介します。 

これからのQA(Quality Assurance:品質保証)が果たすべき新たな役割と、疲弊する人を生まないプロジェクトの実現方法を紐解きます。 

  • AIテストサービス部 AI自動実行グループ グループ長/技術支援グループ グループ長 纐纈(こうけつ) 望

    独立系SIerにて13年間、SEからPMとして組込・Web・業務システムやAI研究開発など多岐にわたるプロジェクトに従事。2018年にSHIFTへ入社し、部門横断のプリセールス組織を新設。現在は通信・ネット・メディア事業を中心に、品質保証のプリセールスや組織立ち上げコンサルティングを担当し、大規模・高難易度案件を牽引。社内講師も務める傍ら、品質保証とAIを掛けわせた新サービス開発にも注力する

目次

不確実性の時代、品質管理はどう変わるべきか

近年、品質管理の難易度は飛躍的に上昇しています。この状況を、簡単な算数に例えてみましょう。 

30年以上前のメインフレーム全盛期は「3+?=9」という問題に似ていました。ゴールも実現方法も決まっているなかで、穴埋め式に正解(6)を導き出すプロジェクト管理でした。 

約10年前、オープンソースやパッケージが普及しはじめた時代は、問題が「?+?=9」へと変化しました。複数の選択肢から最適な組みあわせを選ぶ“最適解”を見つける時代です。 

しかし現代は、DXやAIの台頭により「なんでもシステムで実現しよう」という世界観になりました。これは「?□?=?」という状態です。足し算なのか引き算なのか、どのような条件で答えを出すのかさえ決まっていません。 

ゴールもルールも決まっていないなかで、関係者間でしっかりと合意形成を行い“納得解”を導き出すマネジメントが不可欠となっているのです。

プロジェクトマネジメントの世界標準であるPMBOK®も、この変化に対応しています。

第6版までは「決められた順番で工程を進めれば一定の成果が出る」というアプローチでしたが、第7版では「原理原則を指針とし、状況に応じてテーラリング(最適化)しつづけること」へと大幅に変更されました。 

固定の正解に従うのではなく、つねに状況に適応しつづける行動が求められているのです。

さらに、テクノロジーの多様化や、リモートワークの定着による「組織カルチャーの形骸化」など、プロジェクト進行や品質管理の妨げとなる要素が多数存在しています。

こうしたことから、私は現代の品質管理において極めて重要なのは、プロダクト品質はもちろんのこと、上流工程からプロセス品質をしっかりと保つことだと考えています。 

継続的に品質に焦点を当てながら、ユーザーのニーズに合致した成果物を、関係者全員が納得する形で構築していく。これこそが、現代の開発現場に求められる原理原則なのです。

【事例1】「品質より納期」と一蹴される現場での先回り戦略

ここからは、私がどのように品質管理を行ってきたか3つの事例を交えてご紹介します。 

最初の事例は、関係者2,000名以上、数百ものサブシステム群のうち約200システムに手を入れる超大型プロジェクトです。このシステムは災害対策や人命救助に関わるため、最高ランクの品質が求められていました。 

しかし同時に、急な法改正に伴い10ヶ月間での納期必達という至上命題も抱えていました。 

私は、プロジェクト全体の品質総責任者(品質PgMO)として参画しました。ところが、初日に渡されたプロジェクト計画書には「重要視すべきは品質ではなく納期である」と明記されていたのです。

「品質の重要性を啓発しても、納期優先だと一蹴される」。これが、このプロジェクトにおける最初の壁でした。

また、現場の状況は混沌としていました。

2,000名が関わるなかでコミュニケーションツールは統一されておらず、Microsoft Teams、Slack、口頭連絡が入り乱れる始末。不具合の報告もMicrosoft ExcelやBacklogなど各社が好きなツールで行う状態でした。 

いざテスト工程に向けた準備を進めようとしても、約200ものシステムを最終的に組み上げるステージング環境すら用意されていませんでした。

さらに、数十年前から稼働しているシステム群であったため、人によっては昔の略称でシステムを呼ぶなど、呼称が統一されていなかったのです。 

こうした状況下で、「口を開けて待っているだけでは、テストがはじめられない」と、私はテスト担当の枠を大きく超えた行動に出ます。

自らデプロイの承認フローやルールを定めたデプロイ戦略を策定。システムの名称を統一し、不具合の管理計画を一元化してプロジェクト全体に適用しました。

「テストをはじめる前にPMやPMOが組み立てておくべきプロセスをも自ら巻き取って構築する」。この“品質を創る”という観点に立った先回りの準備が功を奏し、このプロジェクトは無事にリリースへと至りました。

【事例2】諦めムードの現場を動かした、“役員への通知表”

2つ目の事例は、数百万人が利用するコンシューマー向けシステムを運営する事業会社での品質組織立ち上げです。 

利用者の急増に伴い、1年間で従業員を倍増させた結果、独自のやり方で開発を進める人も増えて不具合が多発。アジリティ(俊敏性)とガバナンスを両立させる横断的な品質専門の組織づくりが急務でした。 

しかし、品質改善コンサルタントとして参画した初日、開発部門の責任者からこう告げられます。「過去にコンサルが2社入って失敗している。SHIFTさんで3社目だね」。 

現場は「また別の会社が来たか」と諦めている状態、つまり“期待値ゼロ”からのスタートとなりました。 

私たちがそれまで方向性などをすり合わせていたお客様側の役員たちと、現場の気持ちには乖離があることを肌で感じた以上、トップダウンの方針をそのまま押しつけても現場は絶対についてきません。

そこで私は、現場の心をつかむべく、ボトムアップの組織構築へと舵を切りました。 

1ヶ月間、毎日2〜3人ずつ、計50名の現場担当者と対面ヒアリングを敢行。

「企画部門から渡される企画書の情報が不足している」などの現場のリアルな声を拾い集め、日々の業務フローに紐づく「100個以上の不満と課題」を洗い出しました。 

この不満と課題を役員陣へと確実に伝えたい。役員陣の心を動かす方法を模索した結果、2ヶ月目にして私は現場の不満と課題を“通知表”という形で役員に提示しました。そこで示した評価は“最低”です。 

その上で、理想と現場の課題を解決するハイブリッド戦略を提案し、合意形成しました。この本気の姿勢が役員や現場の心を動かし、結果的に5ヶ月という短期間で強固なガバナンスとプロセス品質の構築に成功しました。

【事例3】自由を愛するエンジニアに“規律”を。反発を乗り越えた定量化のプロセス改善

3つ目の事例は、100万人近くの国内利用者を擁するシステムの開発プロセスを刷新するプロジェクトです。SHIFTは開発プロセスの刷新、開発成果物のフォーマット、ガイドラインの策定を依頼されました。 

最大のハードルは、企業カルチャーでした。CTOが採用時に「うちに入れば自由に何でもできる」と謳っていたため、エンジニアたちは自由を求めて入社してきていました。

そこに、開発フォーマットやガイドラインといった“規律”を導入しなければならないという、ジレンマを抱えたプロジェクトでした。 

自由を愛するエンジニアにルールを押しつければ、猛烈な反発を招くのは火を見るより明らかです。そこで私が着目したのは、「彼らは自由を求めるが、無駄な作業は嫌う」というエンジニアの特性でした。 

スキルアップの妨げになる業務は切り離し、有意義なプロセスだけを構築する。そしてその意義を、感覚ではなく定量化して証明しました。

現在の傾向を分析するとともに、新しいプロセスのトライアルを行い、結果をデータとして提示しながらPDCAを回していきました。

具体的な成果も現れました。エンジニアたちはテスト工程に入った際、QAメンバーからの質問への対応を煩雑に感じていたのです。 

そのため、「質問が来ないように上流工程のプロセスを改善しませんか?」と提案し、その結果、質問対応が半減しました。

自らの業務効率化というメリットを実感したことで現場の意識が変わり、結果的に上流工程の生産性は1.3倍に向上。いまではお客様自身でPDCAを回し、自走するカルチャーが確立されています。

誰も疲弊しないプロジェクトへ。QAに求められるのは「PMと同等の視座」

ここまで、プロダクト開発に関わるすべての方々に向けて、私たちが手掛けてきた事例をお話ししてきました。

これらの事例の根底にあるのは、私のなかにある「品質を創る」という信念です。これはSHIFTの品質に対する想いと似通ったところがあります。 

どんなに丁寧にテストをしてバグのない状態をつくっても、なぜか現場のエンジニアは土日出勤を強いられている。子どもが生まれて家族と過ごしたいと願う優秀な若手たちが疲弊し、会社を去っていく――。

そんな状態を私は許したくありません。

上流工程からスムーズな開発ができるプロセスを構築し、品質を創る。そのためには私たちが「テスト専門のベンダー」という枠にとどまっていてはいけません。

後工程へのしわ寄せを防ぐためにも、調達などの一部を除き、弊社の品質管理担当者はPMやPMOと同等のスキルと視座をもつ必要があると考えています。 

プロジェクト全体を俯瞰し、リスクや品質に関しては誰よりも高い感度をもち、上流工程からプロジェクトを牽引していく。そうして健全に開発できる環境を築くことこそが、私たちが目指す真の品質マネジメントです。 

SHIFTの挑戦は現場のプロセス改善だけにとどまりません。

近年では、24時間365日稼働する品質AIソリューション「ネムラナイ」の立ち上げや、AIを用いて品質をどのように構築していくかという新たなサービスの開発・運用にも着手しています。

品質保証の新たな可能性を切り拓きつづけている私たちに、ぜひ今後もご注目いただければと思います!

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです) 

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技術を極めたかったのに、PMになった人へ。SHIFTで拓くストラテジックアーキテクトとしての新境地 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1567/ Thu, 16 Jul 2026 23:50:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=57195

PMとして一度は感じるであろう、孤独感。 

そのつらさの正体は、ブラックボックス化したシステムの構造と、「技術を極めたくても、出世魚のように勝手にPMになっていく」一本道しか用意されていないキャリアパスにあるのではないか。  

そんな問いに対するSHIFTなりの解決方法を、2026年5月14日に開催されたイベント「PMはなぜつらいのか?AIとともにブラックボックスに挑むSHIFTのリアーキテクチャ」の内容からレポート。 

AIモダナイゼーションの力で、しがらみや限界を根本から壊しにいこうとするSHIFTのいまをお届けします。AI時代にPMがえらべる未来とは――。 

  • AIモダナイゼーション技術開発グループ テックリード 白木 翔也

    ソフトウェアエンジニアとしてソーシャルゲーム開発からキャリアをスタート。スタートアップ企業でCTO経験を経てSHIFTへジョイン。SHIFTでは「売れるサービスづくり」を実現するためテックリードとしてDX推進支援や開発標準の策定を行う。現在はAIモダナイゼーション技術開発グループにてSHIFT DQS for リバースエンジニアリングを開発。 

  • AIストラテジーグループ アーキテクト 竹村

    外資系IT企業、大手消費財メーカーを経て、2026年SHIFTへジョイン。30年以上にわたり大規模システム統合やクラウド基盤構築を主導。クラウドネイティブやAPI設計に加えAI活用も見据えたアーキテクチャ設計に強みをもつ。現在はAIモダナイゼーションサービス部のAI駆動開発アーキテクトとして、事業の技術戦略の高度化を牽引。 

孤独とキャリアの壁。PMを追い詰める「つらさ」の正体

司会:本日のトークテーマでもある「なぜPMはつらいのか」。お二人はこの「PMのつらさ」の正体は何だと思われますか

白木:今回の登壇に先立って複数のPMのかたにヒアリングをしたのですが、「不確実なプロジェクトに一人で向き合う孤立感」が際立っているように感じました。

でも深掘りしてみると、本当の理由は「システムの構造」にたどり着くのかなと。 

長年運用されているシステムでは、ドキュメントが整備されていない、または仕様を把握している人がいないことが多い。

ブラックボックス化した状況に一人で向き合わなければならず、孤立感や人間関係の悪循環にもつながっていると感じました。 

司会:構造の不明瞭さが、現場をギスギスさせてしまうのですね。竹村さんはいかがですか

竹村:日本のベンダー業界では「プログラマーからSEになり、経験を積んでPMになる」というキャリアパスが一般的です。 

私自身もそうだったのですが、「技術的な分野でスキルを伸ばしていきたい」という方にとって、PM以外の選択肢がない一本道のキャリアは、非常につらいものなんです。 

司会:「自分の志向性をキャリアに反映しづらい」。共感してくださるPMの方は多いのではないでしょうか

ブラックボックスを可視化する。DQSでPMの“構造的な悩み”が解消する理由

司会:そうした「PMのつらさ」を、まずはシステムの構造的課題という観点から打破するために、SHIFTが採っているアプローチを教えてください。 

白木:「AIモダナイゼーション」というサービスを提供しています。 

全体像としては、レガシーシステムの仕様を解析するリバースエンジニアリング(以下、DQS for RE)と、そこからモダンなシステムへ再構築するフォワードエンジニアリングの2つのパートにわかれています。 

サービス名にもあるDQSとは「Development Quality Standard」の略で、高品質なシステム開発を実現するための標準化されたSHIFT独自の開発フレームワークおよびプロセス群を指しています。

参考:「SHIFT DQS for リバースエンジニアリング」プレスリリース 

司会:DQSはどんな課題を解決するために生まれたのでしょうか? 

白木:最大の目的は、システムのブラックボックス化からの脱却です。DQS for REでは、外部仕様と内部仕様をともに解析してドキュメントを生成し、システム全体を可視化することで現状を把握しやすくします。 

またもう一つの重要なメリットに、ベンダーロックインの解消があります。

フォワードエンジニアリングではオープンソースや標準的な技術を採用したボイラープレートを用いるため、特定ベンダーへの依存を防ぐことができます。 

竹村:ここに対して私たちは、AIによる現状の可視化を先行し圧倒的な短納期と低コストを実現することで、ベンダーロックインの牙城にも切り込んでいくことができると考えています。 

司会:システム構造がスムーズに可視化できることで、PMもつらい思いをせずにすみますね。 

白木:ええ。可視化の最大のメリットは、認識合わせの土台ができることです。 例えば「200画面だと思っていたら実は1,000画面あった」という事実が最初に可視化されます。

もちろん実際は年1回しか使わない画面などの濃淡があるとにせよ、まず1,000画面あるという客観的な事実が土台としてそろいます。

それをもとにお客様と認識合わせができるためPMも安心でき、後々のトラブルや認識の相違を減らせるのが非常にいいポイントです。 

また途中からプロジェクトに参画するPMやチームの負荷も激減されます。

私はエンジニアとして途中参加することもありますが、全体像を俯瞰しつつ、具体的に踏み込んだ「内部仕様(ソースコードの中身)」までツールで見られるため非常にありがたいものだと感じています。 

司会:視聴者の方からも「動いているソースコードしか信頼できない場合が多い」とコメントをいただきました。 

竹村:最近はアジャイル開発を採用するケースも増え、それに伴いドキュメントをつくらないことも多いです。

しかし、発注側である事業会社のお客様はベンダーに任せる以上、ドキュメントがないと困るため「アジャイルを進めながらドキュメントもつくりたい」というジレンマを抱えています。  

また保守運用のなかでソースコードだけが修正され、ドキュメントの更新が止まって乖離していくケースも非常に多いです。

こうした課題に対しても、ソースコードからリバースエンジニアリングで正確なドキュメントを生成する仕組みは有効で、ソースコードと合致した信頼できる状態をつくりだせます。 

ストラテジックアーキテクトという次世代キャリア、AI時代のPMが選べる未来

司会:AIモダナイゼーションが進むと、PMのつらさが解消されるだけでなく、仕事自体も変わってきそうですね。 

白木:はい。これまではエンジニアに依頼しないとできなかったシステムの課題特定やデータ抽出などを、AIを使うことでPM自身ができるようになってきています。

AIのサポートによって、エンジニアとPMの垣根がどんどん少なくなっていくと思います。 

竹村:そうですね。例えばPM業務の大きな比重を占めている、各エンジニアへの進捗確認や、それをもとにした報告書の作成などの管理業務は、今後AIが代替していくかもしれません。 

白木:すでにSHIFTのPMのなかにも、タスク管理ツールとAIを連携させ、遅延タスクや会議のネクストアクションが一目でわかるダッシュボードを自作して進捗管理をしている方がいます。  

竹村:AIを使うことで業務負荷が軽減され、より本質的な人間による判断や、お客様とのコミュニケーションに集中できるようになると思います。 

司会:PM本来の業務に集中できるようになるのですね。一方で、これまで「技術を極めたいのにPMになるしかない」というキャリアの壁もPMを苦しめてきました。AI時代において、この一本道のキャリアはどう変わるのでしょうか。 

 竹村: 技術を追求したい方向けに、新しいキャリアパスとしてSHIFTの「ストラテジックアーキテクト」というポジションにぜひ挑戦してみてほしいです。 

司会:ストラテジックアーキテクトはどんな役割を担っているのですか? 

竹村:「この課題を解決するためには、システムをこう変えていきましょう」というTo-Be(理想の姿)の設計と、そこに至るまでのロードマップを策定するのが主な役割です。 

 SHIFTのストラテジックアーキテクトの特長は、「AIを多用する」点です。AIを使って現行システムのソースコードを高速かつ横断的に分析し、セキュリティの脆弱性やコードの複雑化といった課題を抽出します。 

レガシーとモダン両方のアーキテクチャを理解していないと具体的な改善策は提案できません。

常に最新技術をキャッチアップする必要があるため、技術志向の方には非常に面白い仕事だと思います。 

司会:お客様は具体的にどんな課題を抱えているのでしょうか。 

竹村:65社以上のソースコードを分析した結果分かったのですが、96%ものお客様は「テスト基盤の欠如」と「コードの複雑化によるメンテナンスの煩雑化」に苦しんでいます。 

さらにセキュリティ課題も多く、脆弱なフレームワークやライブラリを使いつづけたり、パスワードが平文になっていたりするケースが、74%のお客様で発生しています。 

司会:そのようなお客様に対して、どのように提案をするのでしょうか? 

竹村:AIが抽出した客観的なデータで現状を可視化し、To-Be(理想の姿)を描きますが、究極の理想像を一足飛びに実現できるわけではありません。実際にはお客様の予算に収まるかという問題があります。 

脆弱性対応など緊急性の高いものから優先し、お客様と相談しながら「まずは中間地点まで行きましょう」と現実的な落とし所を探っていく泥臭さも、ストラテジックアーキテクトの重要な役割です。 

PM業務で培ってきた「お客様との調整力」や「プロジェクト推進」の経験に、最新の技術知見を掛けあわせるからこそ、ストラテジックアーキテクトとして大きな価値を発揮できるのです。

現状を説明すると「大事に育ててきた子どもをけなされたようだ」と感じるお客様もいらっしゃいます。

でも私は、「大事な子どもだからこそ、つぎはぎだらけの服ではなく、新しい服を着せてあげましょう」と内心にそんな思いを抱えながら、客観的なデータをもとに真摯に向き合っています。  

AIとともに新しい道を。技術者本来のやりがいを取り戻す

司会:AI時代に新しいキャリアを描く場として、SHIFTという環境にはどんな面白さがありますか? 

竹村:AIを活用して新しいことに挑戦できる面白さではないでしょうか。SHIFTには、やると決めたらすぐに実行に移す文化があります。  

白木:竹村さんがおっしゃった文化ですが、創業者である丹下がいまもトップでクイックに意思決定をしているのがいいポイントですね。

AIを全力で推進するという経営方針のもと、最新のAI技術を使いながらお客様の課題解決に取り組むことができます。 

新しいことに挑戦したいエンジニアやアーキテクトにとって、非常に面白くやりがいのある環境ではないかと思います。 

司会:では最後に、かつての竹村さんのように「本当は技術を極めたいけれど、一本道のキャリアの中でPMをやっている」、そんな悩みを抱えている方々へメッセージをお願いします。 

竹村:AIの登場で、キャリアは一本道ではなくなりました。

マネジメントを極める道もあれば、AIの知見を深めてとことん業務を効率化する道、技術志向の方はプログラマーのまま、もしくは私たちのようなアーキテクトやストラテジックアーキテクトになる道もあります。 

白木:加えていえば、「もう一度、エンジニアリングの世界に戻る」という選択肢もいまの時代なら大いにあり得ると思っています。

PMを務めている方の多くは、かつてコーディングや設計をとことん経験されてきたバックグラウンドをおもちのはずです。 

いまはAIがコーディングを強力にサポートしてくれる時代だからこそ、PMで培ったプロジェクト推進や全体把握の経験を武器に、再び技術の最前線に立つことも十分に現実的です。

実際に、スタートアップでCTOを務めた方がエンジニアに戻るのを拝見したことがあります。 

竹村:SHIFTには、そうした構造的なしがらみを壊し、自身の志向にあったキャリアパスを歩める環境があると考えています。 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです) 

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なぜ改善活動は自然消滅するのか?事例からみる、組織に定着させる3つの打ち手 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1559/ Thu, 16 Jul 2026 00:00:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=57046 Scrum Fest Niigata 2026 登壇レポート

「いい取り組みだったはずなのに、なぜか活動がつづいていない……」 

勉強会やアジャイル導入、1on1など、現場発の改善活動がいつの間にかなくなってしまったという経験はないでしょうか。 

熱意をもってはじめたにもかかわらず、周囲は動いてくれず、推進者だけが疲弊していく。実は、そこには個人の熱量や努力では解決できない構造的な問題が潜んでいます。 

本記事では、ふりかえり&アジャイルエバンジェリストの森 一樹(びば)が2026年5月9日に登壇した「Scrum Fest Niigata 2026」の講演内容をもとに、改善活動が消滅してしまう5つのパターンを紐解きます。 

そのうえで、個人の熱量に頼らず、改善を組織に定着させるための3つの打ち手と5つのステップを事例とともにお届けします。

  • ふりかえり&アジャイルエバンジェリスト 森 一樹(びば) 

    黄色いふりかえりの人。みんなに強化魔法をかける人。野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントや組織変革を推進し、プロダクトマネージャとしての経験を経て、2025年にSHIFTに入社。社内外へのアジャイル教育や、ふりかえりの啓蒙から、社内各部署や他社との連動など、支援の幅を広げ活動中。著書に「アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック」など。   

目次

実は構造が原因。改善活動が消える5つの共通パターン

熱意をもって自発的にはじめた社内勉強会やグループ横断施策を、1年後には自分も含めて誰もやっていない。 

あるいは上司の立場として「いい取り組みをしているな」と思っていたのに、知らないあいだにひっそりと終了していた。 

そんな経験をもつ人は多いのではないでしょうか。 

改善活動が自然消滅するのは偶然だけでは片づけられない要因があります。そこには構造的な問題があります。私のこれまでの経験から、消えていく改善活動は大きく5つの共通パターンに分類できます。

1. 属人化:推進者が異動した瞬間に終わる
2. バーンアウト:熱量が保てなくなった瞬間に終わる
3. 成果の不可視化:「何が変わったの?」に答えられない
4. 組織再編:「方針が変わりました」の一言で消える
5. 言語の断絶:現場の熱量が上層部に届かない 

なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。その背景には改善活動を進めるプロセス上の要因が大きく影響しています。 

ここからは改善の火を消さないための3つの打ち手――「翻訳する」「巻き込む」「仕組み化する」について、実際の事例を交えてご紹介します。 

【打ち手1:翻訳する】決裁者を動かす言葉の選び方

最初は、「翻訳」の失敗事例から。 

あるスクラムマスターがマネージャーにこう問題提起をしました。 

「チームの心理的安全性が低く、属人化が進んでいる。プロセスにも改善の余地があり、複数のチームでワークショップをやらせてほしい」。 

しかし、マネージャーからは「いろんなプロジェクトが佳境なのに、追加で1人月以上の工数を割く判断はできない」と却下されてしまいました。

これは翻訳が不足していた典型的な例です。 

「チームの雰囲気がよくなる」という言葉では、問題と改善の因果関係がみえません。結果として、マネージャーには「コストをかけて勉強会をする」という提案に聞こえてしまったのです。 

また、「複数チームで実施したい」という提案は投資規模が大きい印象を与え、マネージャーに重い判断を迫るものになっていました。 

こうした場合の打ち手は、「現場の言葉」を「上層部にとっての判断材料となる言葉」へ翻訳することです。 

例えば「雰囲気がよくなる」ではなく、「相談コストが下がる」「手戻りが週○時間減る」といった表現に変えると、改善が業務や成果へ与える影響の大きさを伝えられます。

なぜなら、上層部がみているのはコストや納期、品質などのKPIだからです。改善活動の話も、コストや納期、品質などのKPIに翻訳して説明する必要があります。 

したがってまず活動をはじめる前に「この施策を実施すれば、この数値が変わるはずだ」という仮説をたてる必要があります。

そして、まずは1チームで試して結果を示し、上層部が投資判断を行うハードルを下げることが重要です。 

また、同じプロセス改善でも、重視されるKPIは相手の立場によって異なります。誰に打診するのかを意識し、その人が判断しやすい言葉に置き換えることも大切です。

【打ち手2:巻き込む】人を動かす「体感」の場づくり

2つ目の事例は「巻き込む」に関係するものです。

ある若手のスクラムマスター自チーム成果のでた「ふりかえり」をほかのチームへ横展開したいと考えていました。

そこで、タスクやステップを体系的に整理したアクションリスト部長にほかのチームへの声掛けを依頼。

部長はよさそうな活動だ」と理解を示し掛けてくれましたが後日声がけしたチームからいい反応が得られなかったの一言で終わってしまいました。 

この例で意識していただきたいのは「言葉で伝えれば、推進者と同じ熱量で動いてくれる」は幻想であるということです。 

巻き込んだ相手が提案内容を理解するだけでなく、納得して協力できる状態をつくることが大切です。 

そもそも、ふりかえりとはアクションそのものよりも、「体感の場」を設計することでプロセスをいっしょに体感することが大事なのです。 

そのうえで部長に「部長にきてもらえたらチームの士気があがります。一度、ふりかえりに参加していただけませんか」と声を掛け、場に招きます。

その際、「最後に一言いただけると助かります」と役割を渡しておくことで、当事者として関わってもらいやすくなります。 

さらに、あらかじめ自身のチーム内でもすりあわせを行い、活動の成果と魅力が120%伝わるよう意図的に設計しておくことも大切です。 

効果を報告するだけでは、動きにつながりにくい場合があります。そのために、巻き込み方も事前に設計しておきましょう。 

【打ち手3:仕組み化する】推進者がいなくてもつづく、設計の引き渡し

最後に紹介するのは、「仕組み化」にかかわる事例です。

CoEメンバーが、組織横断の勉強会を立ち上げました。最初はCoEメンバーが毎回テーマを決め、丁寧に資料を準備し、進行まで担当。参加者の満足度が高い状態がつづいていました。 

5回ほど開催したところで、「チームだけでも自走できそうだ」と判断し、運営を別の人に引き継ぎました。しかし数ヶ月後、勉強会は自然消滅してしまいました。 

表面上はうまくまわっているようにみえていましたが、参加者には「毎回素晴らしい資料を作らなければならない」という暗黙のハードルがあり、加えて誰がどの役割を担うのかも明確ではなかったのです。

運営の進め方も決まっておらず、一度エンジンが止まった際に再起動するスイッチ(改善の場)がなかったことが消滅の原因です。 

ここで本当に必要だったのは、「設計の引き渡し」です。

たとえば「資料作成は任意」などハードルを下げて無理なく継続できる形をあらかじめ整え、次回の担当決定や運営のふりかえりをプロセスに組み込んでおく。

参加者が自分ごととして関われる動機づけも設計しておくことが重要です。 

個人の熱量は、仕組みに変換されてはじめて組織の文化になります。推進者がいなくてもまわりつづける設計こそが、改善を定着させる鍵になります。 

改善の火を絶やさない、実践ロードマップ

前述の3つの打ち手を踏まえ、改善活動を組織に定着させるための具体的な5つのステップを紹介します。

STEP1:小さくはじめて事例をつくる
いきなり壮大な計画を上層部に提案しても、なかなか通りません。まずは自分が動ける範囲(週1時間を1ヶ月程度など)で小さくはじめて成功事例をつくります。 

このとき、「ここまでやって成果が出なければ一旦やめる」という撤退基準もあらかじめ決めておきます。うまくいかなければ無理につづけず、静かに閉じましょう。 

STEP2:成果を周囲へ「魅せる」
事例ができたら、その結果を周囲を巻き込むための材料にします。このとき、上層部への説明を想定し、仮のKPIを事前に設計しておきます。 

KPIが適切かどうかは、ふりかえりを通じて見直していきます。「何のためのKPIなのか」という観点も含めて改善しつづけることが大切です。 

STEP3:味方をみつけ上層部を巻き込む
まずは話を聞いてくれそうな味方をひとりみつけます。その味方とともに材料を整理し、有効な打ち手を考えます。

上層部にもち込む際は「数ヶ月後にふりかえりを実施し、必要に応じて軌道修正します」と上層部が判断しやすい提案を心がけましょう。 

STEP4:興味のある層を巻き込む
上層部の承認が得られたら、いきなり全社に広げるのではなく興味をもってくれた層から徐々に巻き込んでいきます。活動の一部を少しずつ渡し、巻き込んだ人が成功体験を積めるようにします。 

STEP5:仕組み化して広げる
人が集まってきたら、Aさんがやったら次はBさん、その次はCさんというように、無理のないもちまわりの仕組みをつくります。手上げ制だけにせず全員が少しずつ関わる形にすることで、負荷が分散されます。 

あわせてふりかえりを継続し、ゴールや進め方を更新していきます。みんなが無理なくつづけられる形に整えていくことが大切です。 

明日からできる「最初の一歩

「いっていることはわかるけれど、どこからはじめればいいの?」という方へ、今日からできる具体的なアクションをお伝えします。 

相手の求める指標(KPI)がわからないとき 
上層部が何を求めているか想像するのには限界があります。わかる人(先輩や視座の高い人)を探して、「とりあえずの指標」を立てたうえで相談する形で巻き込んでみましょう。 

協力してくれる味方がみつからないとき 
チャットで募集しても返信がない場合、募集に「いいね」を押してくれた人に直接DMで「興味ありますか?いっしょにやりませんか?」「助けてください」と声をかけてみてください。 

仕組み化の第一歩がわからないとき 

まずは誰にも依存しない形で、自分一人で3回はつづけてみてください。3回つづけば型がみえてきます。型がみえてから、新しいメンバーに巻き込んで渡していきましょう。 

最後に

いきなり仕組み化しようとしても、人はついてきません。味方をつくらないまま一人で進めてしまえば、自分の熱量が切れたときに活動も止まってしまいます。

小さくはじめ、成果を示し、味方を増やし、ふりかえりながら広げていく。順番を守ることで、改善活動は組織のなかに根づいていきます。 

改善の火を、いっしょに燃やしつづけましょう。

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「自分が何者かわからなかった」 40代エンジニアが挑んだアウトプットの軌跡。 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1558/ Tue, 14 Jul 2026 23:50:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=57133 ワンストップ アウトプット!アウトプットの背中を押すカンファレンス 登壇レポート

「エンジニアとして長く経験を積んできたのに、自分が何者かわからない」—— 

そんな悩みを抱える方もいらっしゃるのではないでしょうか。 

今回の記事の主人公、髙橋 直規。彼もまた自信をもてずにいました。20代はSESでさまざまな案件に参画し、30代で一次請け企業へ転職して、長く深い案件を担うも終わるごとにリセットされるような感覚… 

しかし、彼はあるプロジェクトで自分の限界を知ったことをきっかけに、“外の世界”へと飛び出します。そこからアウトプットをはじめたことで、彼はエンジニアとしてのオーナーシップを取り戻した、と語ります。 

本記事では、2026年4月4日に開催され、SHIFTが会場スポンサーを務めた「ワンストップ アウトプット!アウトプットの背中を押すカンファレンス」より、髙橋の講演をレポート。 

髙橋がブログ、技術同人誌、登壇、コミュニティ立ち上げといったアウトプットを通じて自身の経験に価値を見出すまでの等身大の軌跡を追います。 

  • 製造ソリューションサービス部 髙橋 直規

    エンジニアやPM、サービスマネージャー※として、さまざまなシステム開発案件などに携わった後、アジャイルを専門的に扱うために、3社目として2023年3月SHIFTに入社。現在は、SHIFTの「アジャイル」にまつわるさまざまな案件に入り、プロジェクトマネジメントから実務となるエンジニアリングまで、幅広い領域でアジャイルサービスの浸透/普及に従事している。 

    ※複数案件を管理し、滞りなくサービス提供ができるよう責任を担う立場。

目次

経験を積むほど見失う「自分らしさ」と、40代で直面した限界

キャリアを長く積めば、自然と自信がつくとは限りません。私の20代から30代にかけての歩みは、まさにその葛藤の連続でした。 

20代のころ、私はSESとして、1〜3ヶ月で終わるような短期案件を転々としていました。

ウォーターフォール開発における実装や単体テスト、詳細設計から結合試験までといった一部の工程のみを担当することが多く、目の前の仕事をこなして経験の量は増えるものの、それらは散らばったままで、大きな自信には結びつかなかったんです。

その状況を打破しようと、30代ではお客様と直接関わる一次請け企業へ転職します。

テックリードやプロジェクトマネージャーとして案件に深く関わるようになりましたが、プロジェクトが終わるたびに経験がリセットされる感覚に陥りました。 

「点」としての経験はあっても、それらが「線」として繋がる感覚が得られず、自分自身のエンジニア像を描けずにいたのです。

自身のエンジニアとしてのあり方に自信がもてない状態は、外部交流に対して心理的な壁を生み出しました。 

当時、社外の勉強会などに参加して活発に交流するエンジニアに、私は強い憧れを抱いていました。

しかし、勇気を出して参加してみても「自分には縁がない、場違いだ」と疎外感を覚えてしまい、継続することができませんでした。 

それはスキルの問題ではありません。ほかの参加者が「エンジニアとしての自分のあり方」をしっかりともっているように見えるのに対し、自分にはそれがないという後ろめたさが原因でした。

キャリアの長さに反比例するかのように、自分らしさを見失っていったのです。

自分の失敗は“アンチパターン”だった。外の世界が教えてくれたこと

そんな私に、40代で大きな転機が訪れます。それは、新規プロダクト開発のプロジェクトマネージャーを担当したときのことでした。 

私は、スクラムマスターやQAリードなど複数の役割を兼務し、自身の経験だけを頼りに最適な手法だと信じてプロジェクトを推し進めました。

高稼働によってなんとかリリースには漕ぎ着けたものの、結果として極度の属人化を生み出してしまいます。

無事にリリースできた喜びよりも、「このやり方は二度と繰り返せないし、繰り返したくない」という再現性のなさに直面し、大きな後悔を味わいました。

「自分の知っているやり方だけでは、もう通用しない」。これが、私が直面した自己流の限界でした。

そこで私は、自分にはない知識を求めて、再び外の世界へと足を踏み入れます。 

最初はオンラインを中心とした勉強会やカンファレンスから参加しはじめました。オンラインであれば、かつて感じたような疎外感を抱くことはありませんでした。 

懇親会には参加せずセッションを聞くだけのスタートでしたが、自分とは異なる開発組織で働く人々の話や、未知のコンテキストのなかでの開発について知ることは、多くの学びと刺激をもたらしてくれました。 

こうしたインプットは、私が過去の経験を大きく捉え直すきっかけとなりました。 

私は、DevOpsやスクラムを改めて学び直しました。属人化を生んでしまった前述の失敗や、過去にぶつかった数々の問題が、業界ではすでにアンチパターン(避けるべき失敗例)として語られていたことを知りました。

自分が抱えていた苦しさや違和感を、外の言葉で少しずつ理解できるようになったのです。外部からの視点で捉えなおすことで、断片的に感じていた自身の経験が、意味のあるケーススタディとして整理されていきました。 

学んだことをただ通り過ぎる情報にしないため、私はブログへの投稿をはじめました。書籍や登壇から得た新しい発見や、自分ができていなくて魅力を感じた部分などを、自分の言葉で文章に整理していったのです。 

ある日、書籍の感想をブログに書いたところ、X(旧Twitter)で「いい話だな」と反応をくれた人がいました。 

自分自身の学びの整理のために書いた文章が、見知らぬ誰かの気づきに繋がった。この小さな成功体験が、自分の経験が他者と接続されるという初めての実感となり、私をさらなるアウトプットへと突き動かしました。

「いまやらなければ後悔する」。恐れを乗り越えたアウトプットへの挑戦

ブログでの手応えを得て、「自分がどうなりたいかを知るためのインプットと、実践したアウトプットの積み重ねこそが、自分自身になる」と確信し、次なるステップとして技術同人誌の執筆に挑みます。 

もちろん、「自分に書けるのか」という不安やプレッシャーはありましたし、やらない理由はいくらでも探せました。

しかし、「40代のいまやらなければ、50代でも60代でもやらない。人生を後悔したくない」という強い危機感があったんです。 

さらに、運営者の「書いてみたい気持ち最優先で突き進んでほしい」という言葉に背中を押され、応募最終日に決断しました。 

いざ書きはじめてみると、1日1ページ進めれば20ページの本は20日間で完成することに気づきます。

「アウトプットは一つひとつの積み重ねに過ぎない」。この気づきと共に書き上げた本は、過去の経験をDevOpsの観点から再整理したもので、読者から温かいフィードバックを得ることができました。 

同人誌につづいてカンファレンスでの登壇にも挑戦し、プロポーザルが採択されました。しかし、いざ採択されると「本当に自分が話していいのか」「がっかりされないか」と恐怖に苛まれました。 

そんなとき、またしても運営スタッフの言葉が私を救いました。「全員を採択したいが枠に限りがある。涙を飲んで不採択になったプロポーザルも、どうにか発表できる未来をつくりたい」。 

この言葉を見て、私は「自分の裏には不採択になった数多くの人たちの想いがある。選ばれた以上、覚悟をもって登壇すべきだ」と決意しました。

登壇の舞台に選んだのは、北海道で開催されたカンファレンスでした。私のことを知らない東京から離れた場所ということで安心できそうだと感じていました。 

テーマは、「新規プロダクト開発における属人化の失敗からの学び」です。 

勇気を出して失敗談を語った後、参加者から直接フィードバックをもらいました。オンラインや文字越しではない、生身の反応です。

ありふれていて価値がないと思い込んでいた自身の経験が、異なる組織で働く人たちの心に届き、彼らの学びに変わりました。 

「自分の経験が輪郭を持ち、明確な意味をもった」。この体験を経たことで、私のなかからアウトプットへの恐怖は大きく和らいだのだと思います。

ありふれた失敗談が誰かの学びに。経験のオーナーシップを取り戻す

一連の挑戦を通して、自分の経験が価値あるものへと変わっていきました。与えられた役割を越え、エンジニアとしてのオーナーシップを取り戻した瞬間でした。

アウトプットがもたらす他者との対話や交流の価値を深く理解したことで、現在では、新たな挑戦として「コミュニティづくり」に取り組んでいます。 

郊外に住む人、地方で働く人、子育て中で時間的制約がある人など、普段なかなか出会えない人々がもつ多様な学びや経験を交差させる場をつくりたい。

かつて外部コミュニティに疎外感を感じていた私が、いまは自ら居場所をつくり出す側にまわっているわけです。

輝かしいキャリアでなくても、遠回りや迷い、失敗を含めて、あなたにしかない経験が必ずあります。

40代まで積み重ねてきた経験があったからこそ、語れることがあるはずです。自信がない人こそ、その経験を言葉にして他者と交流してほしい。それが必ず誰かの学びに変わっていくと私は思います。 

今日の発表が、次にアウトプットの一歩を踏み出すあなたの背中を押すきっかけになれば幸いです。

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです)

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「AI疲れ」に効く。判断を最速化し、組織の学習率を最大化する、4つの柱×技術基盤の仕組み https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1554/ Tue, 14 Jul 2026 00:00:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=57100 SHIFT×CNIA×DASA Japan 共催イベント 登壇レポート

AIによって実装やテストの負荷が大幅に削減され、開発生産性が飛躍的に高まる一方で、次なる課題が浮上しています。 

それは、AIの圧倒的な生成スピードに対して、「本当に価値あるものは何か」「このアウトプットはビジネスとして正しいのか」を人間が判断するスピードが追いつかないという現象です。 

絶え間なく提示される選択肢に人間が追われる「AI疲れ」を感じる声が増え、開発プロセスにおける最大のボトルネックは、実装よりも意思決定に移りつつあります。 

本記事では、2026年4月24日にSHIFT、一般社団法人クラウドネイティブイノベーターズ協会(CNIA)DASA Japanの三社が共催したイベント「Agentic AI × Platform Engineering で変わる開発現場」に登壇したSHIFTのAIアジャイル開発部 アジャイルコーチ 船橋 篤史の発表内容をレポート。 

人が正しい価値判断に集中するための4つの柱と、個人の限界を超えて組織全体の意思決定をデータと技術で強力に支えるエンジニアリング基盤について解説します。

その先に目指すべきは、組織における学習率の最大化と語る点にもご注目ください。

  • AIアジャイル開発部 アジャイルコーチ 船橋 篤史

    SES企業やソフトウェアベンダーでの保守開発や自社サービスの開発、スクラムマスター、SREなどの経験を経て、2020年8月にSHIFT入社。入社直後からアジャイルコーチやQAリードエンジニアなどのロールで各種プロジェクトに参画。2021年9月からはグループ長としてグループ管理を担いつつ、お客様のアジャイルチーム化を総合的に支援・マネジメントしている。 

目次

AIによる開発の高速化と、意思決定という新たなボトルネック

いまや多くの現場でAIを用いたコーディングがあたり前になりました。かつてエンジニアが手作業で書き、デバッグしていたコードの大部分をAIが瞬時に生成してくれます。 

実装やテストにかかる負荷はかつてないほど低下しました。重要なのは、この生産性の劇的な向上は開発現場だけにとどまらず、プロダクトマネジメントの分野にも起きているということです。

「Agentic Everywhere」という言葉が示すように、AIによる効率化の波はコーディングという枠を大きく越え、さらにあらゆる業務領域へと波及しています。 

しかしあらゆるタスク実行がAIに委ねられ、超高速で処理される流れが加速した結果、新たな問題が顕在化しはじめました。それが「AI疲れ」です。 

AIによって短時間でプロトタイプや提案を生成できる一方で、それらを「本当にリリースしてよいか」「ビジネス的な価値があるか」を判断するのは人間の役割です。

つまり人間の意思決定速度が追いつかず、確認や判断に追われる現場が疲弊してしまうのです。 

これは、システム開発におけるボトルネックが、もはや実装ではなく意思決定へと移行したことを意味しています。

AI時代にPdMが本来の役割へ回帰するための「4つの柱」

意思決定が最大のボトルネックとなったいま、プロダクトマネージャー(PdM)に求められる役割も大きく変える必要があります。 

これまで、日本の多くの現場ではPdMとプロジェクトマネージャー(PM)との境界があいまいであり、PdMは要件定義の作成やステークホルダーとの調整、進行管理といった業務に多くの時間を奪われてきました。 

しかし、AIがこれらのタスクを支援してくれるようになったことで、PdMは本来の役割に回帰することが可能になったのです。 

具体的には、企画・戦略フェーズではAIをシニアリサーチャーのように競合分析や市場調査に活用し、実行・検証フェーズではプロトタイプ作成やABテストのデータ分析を任せるといった具合です。 

このように業務サイクル全体をAIに支援させることで、PdMは「本当に価値あるプロダクトは何かを判断すること」、つまり事業判断という、本来あるべき役割に集中できるようになるのです。

一方で、AIが超高速でプロトタイプやレポートを生成しつづけることは、人間側が常に判断を迫られるという新たなリスクも生んでいます。 

AI時代において、PdMが質の高い意思決定を下すためには、次に説明する4つの柱を意識する必要があると考えています。それぞれを詳しく説明しましょう。 

起点となる1つ目の柱があり、そのほかの「3つの検証ループ」を最速で回しつづけ、学びを次の投資へ還元していくイメージをもちながら聞いていただければと思います。

1. 投資最適化(選球眼の強化) 

解像度の低い指示でも、AIを使えば数時間でプロトタイプができてしまう時代です。

だからこそ、「つくれるからつくる」という安易な機能実装の量産を防ぎ、事業価値に結びつくものだけを厳選する「選球眼」がPdMには不可欠です。 

2. アジリティの解放 

開発生産性が10倍になっても、「リリースの承認は月1回の会議で」という従来の承認プロセスのままでは期待した効果を得にくい可能性があります。

経営層やステークホルダーを巻き込み、組織全体の意思決定プロセスを開発スピードと同期させる舵取りが求められます。 

3. 経営リスクの遮断 

AIは自信満々にもっともらしい嘘(ハルシネーション)を出力することがあります。したがって、その結果を鵜呑みにせず、内容の妥当性を見極めることが重要です。

出力された結果が自社のビジョンに合致しているか、ビジネス上適切なのかを最終確認し、リスクを遮断するのは人間の重要な役割です。最終的な判断と責任は人間が担う必要があります。 

4. 競争優位性の構築 

独自の価値をいかに生み出すかは、AI時代においてもっとも重要なポイントといえます。AIは膨大な一般的なデータを学習しているため、そこから導き出されるのは平均的で無難な正解になりがちです。

一般的な情報から「売れそうなもの」をつくることは得意ですが、それだけでは他社との差別化は図れませんよね。 

汎用的なAIの回答を超えて真の価値を生み出すためには、現場特有の深いドメイン知識やユーザーへの理解、そして自社の理念という「人間ならではの文脈」を掛け合わせる必要があります。

こうした要素が、模倣困難な競争優位性の源泉の一つになります。

PdMの意思決定の生命線となる「エンジニアリング基盤」

本来の役割に回帰できるとはいえ、PdM個人がAIをうまく使えたとしても孤軍奮闘するだけではAI疲れからは逃れられません。局所最適ではなく、全体最適の視点で組織として基盤をつくることが大事だと私は考えています。

事業判断のスピードと精度を根本から引き上げるには、組織全体で事業判断を支えるシステム、すなわちエンジニアリング基盤の構築が不可欠です。 

例えばプラットフォームエンジニアリング。彼らはCI/CD、カナリアリリース、フィーチャーフラグといった仕組みを提供します。

これは例えるなら、「開発チームが安全に失敗できる検証用の高速道路」です。この基盤があるからこそ、PdMは躊躇することなく仮説検証のサイクルを回すことができます。 

また、SREとの協働も重要です。システムの利用状況やパフォーマンスを高度に可視化することで、迅速な判断が可能になります。 

例えば、通常は慎重にならざるを得ない機能停止の判断。

私自身も前職で、「1年かけてつくった機能を誰も使っていないから、半年で提供を停止する」という苦渋の決断をしましたが、データという客観的な裏づけがあれば、スピーディーに下すことができるようになります。 

さらに、お客様と直接向きあうCREとの連携は、明確な3つのステップで機能します。 

STEP1でAIがお客様の声から真のペインを見出して構造化し、STEP2で同じくAIが分析して文脈を付与・情報加工します。そしてSTEP3でPdMが判断を下す。

このAI・CRE・PdMのリレーにより、「誰も使わない機能をつくる悲劇」を未然に防ぐことができるのです。

最大の競争優位性「組織の学習」をいかに加速させるか

AI時代における真の勝者は、単に開発スピードが速い組織ではありません。

プロダクトマネジメント・事業判断とエンジニアリングが分断されることなく、ワンチームとして掛け合わさり、組織全体の「学習率」を最大化できる組織です。

個人の局所最適ではなく、開発ライフサイクル全体を意識した全体最適をつくること。これこそが、事業の命運を分ける最強のシステムとなります。 

では、組織が適切に学習し成長していることを、どのように観測すればよいのでしょうか。 

その結果は最終的に、P/LやB/SあるいはROI(投資利益率)やROIC(投下資本利益率)といった定量的なビジネス指標に表れます。

「単に機能を開発した」という単純なアウトプットではなく、それが実際にどれだけ事業の売上や価値に貢献したかが重要になるからです。 

もう一つ重要なのが、従業員エンゲージメントといった社内の指標です。

単一の指標に頼るのではなく、各ロールにおける多角的なメトリクスをもち、それらが最終的にビジネス指標にどう繋がっているかを観測しつづけることが求められます。

ボトムアップ×トップダウンで挑む、組織カルチャーの変革

意思決定プロセスを加速させるためには、組織カルチャーそのものの変革が避けられません。特に、階層構造や上意下達が根づいている伝統的な組織において、これを覆すのは容易ではありません。 

「これが正解です」という銀の弾丸はまだ見つかっていませんが、効果的なアプローチの1つが出島戦略です。 

特定のチーム(出島)で先進的なAI活用とアジャイルな意思決定を実践し、周囲に「自分たちもあんな風にやりたい」と思わせるカルチャーバブルをボトムアップで生み出すのです。 

同時に、組織規模が大きくなればボトムアップだけでは限界がきます。この動きに共感し後押ししてくれる経営層を巻き込み、トップダウンでの支援を取りつけることも欠かせません。

トップとボトムで挟んで変えていくオセロのようなアプローチをとることで、組織全体の意思決定プロセスを少しずつ変革していくことができるはずです。

(※本記事の内容および登壇者の所属は、イベント開催当時のものです)

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限定公開:レガシーシステム撲滅の先にあるもの。SHIFTのAIソリューションが目指す“つくる人”が報われる世界 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1553/ Wed, 24 Jun 2026 06:00:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=56457

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プロセス信奉ではなく、価値を生む「テーラリング」を。PMBOKの変遷から読み解く今後のプロジェクトマネジメント https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1547/ Tue, 16 Jun 2026 00:00:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=56171

2026年3月4日、SHIFTが手がける技術イベント「SHIFT EVOLVE」において「チームプロジェクトマネジメントとPMBOK第8版(Agile in Motion vol.6)」と題したセッションを開催しました。  

品質にこだわってきたSHIFTならではの目線で、アジャイルに長年携わってきたゲストを招き、アジャイルの神髄に迫るという本シリーズ。 

今回は、株式会社レッドジャーニー システムリデザイナー 森實 繁樹(samuraiRed) 氏とAIアジャイル開発部 アジャイルエバンジェリスト 渡会 健による対談です。 

AIなどの技術進化が加速する一方、日本のITマネジメントはオールドスタイルのままであると警鐘を鳴らす二人が語る、PMBOKの変遷(第6〜8版)と今後のプロジェクトマネジメントとは? 

本記事では当日の内容のうち印象的な部分をピックアップし、一部再構成してお届けします。 

同日に行われた森實氏単独のセッション、渡会単独セッションのイベントレポートも、ぜひご一読ください。  

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  • 株式会社レッドジャーニー システムリデザイナー 森實 繁樹 (samuraiRed) 氏

    大手SIerでの開発運用、大規模プロジェクトマネジメントを経験した後、ミドルベンチャーでCTO、通信系事業会社でエンジニアリングマネージャー、国立大学で非常勤講師などを歴任。プロダクト開発や組織づくりに造詣が深い。2003年からアジャイルを実践しており、社内外問わずいくつものチーム、組織の支援を行ってきた。現在は、認定スクラムプロフェッショナルとして組織変革支援に邁進している。

  • AIアジャイル開発部 アジャイルエバンジェリスト 渡会 健

    2025年、株式会社SHIFTに入社し、Customer Quality Agileを掲げて日々活動中。キャリア前半をPM畑で過ごした後、2008年に40代でアジャイルに出会ってからは、10年程受託開発で20件近くの実践を積み、その後コーチやコンサルとして50件以上の支援を行うなど、17年で70案件以上の多種多様な実践経験をもつ。マネジメント(≠PM)の力を信じ、その経験を活かしながら、一般社団法人PMI日本支部アジャイル研究会代表、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)アジャイルWG構成員等を歴任し、マネジメント視点と現場視点の両軸からアジャイル領域に貢献。 PMI日本フォーラム2025 優秀講演第6位(52講演中)。  

目次

技術進化に取り残される日本のITマネジメント

森實氏:エンジニアリングの世界はAIの登場などによって猛スピードで進化していますよね。現場は新しい技術を追いかけ必死に食らいついている。しかし、マネジメント手法のアップデートがそこにまったく追いついていないように感じます。 

渡会:おっしゃるとおりです。例えば、昔は「Kstepあたりのバグ密度」や「設計書の厚さ」「レビューの回数」などで価格や品質を管理していましたよね。 

しかし、AIがコードを書く時代に、Kstep単位の管理に何の意味があるのか?と。

ものづくりのスピードは上がっているのに、マネジメントだけがオールドスタイルのまま。このギャップが、いまの日本のIT組織にゆがみを生み出しています。 

森實氏:多くの国内企業では、自社の「ソフトウェア開発標準」をモデルにしてプロジェクトを回しています。

開発標準はPMBOKなどをもとにつくられているわけですが、最新の内容をどう取り込めばいいのか悩んでいる企業が多い印象です。 

渡会:歴史の長い会社ほど、古いバージョンのPMBOKをベースにした開発標準を使いつづけています。しかし、PMBOKは時代にあわせて約4年ごとに改訂されているため、本来は自社の開発標準もアップデートする必要があります。 

森實氏:一度つくったルールを変えるのは大変だからと、放置されがちですよね。 

渡会:欧米では「アジャイルか、ウォーターフォールか」という二項対立をすでに終わらせて、スピーディーに業務を変化させています。いま求められているのは、両者を統合し変化に適応することです。 

例えるなら、世のなかではステルス戦闘機やドローンといった最新の武器が使われだしたにも関わらず、日本は刀で戦おうとしている。だから「デジタル小作農」なんていわれてしまう危機的状況にあるのだと思います。 

森實氏:ここで視聴者からの質問です。『SI型(受託開発)と自社開発で、変化への対応力に差はあるのか?』という疑問ですが、これはいかがでしょう? 

渡会:自社製品の方が自分ごとにしやすく、時代についていきやすい面は確かにあります。しかし本質的には、自社開発か受託開発かはあまり関係ありません。

つくったものが「どういう価値を生み出すのか」という中身は同じはずだからです。受託だからむずかしいというのは、自分で壁をつくってしまっている状態なんですよね。 

森實氏:同感です。たしかに自社開発の方が、企画から実運用まで見通せる分、変化に対する「感度」は高まりやすい面はあります。

一方で受託開発は、プロジェクト範囲が切り出されているため、感度を高めるのがむずかしいのも事実です。

しかし大切なのはOODAループを回しつづけ、状況の変化を感じ取ること。その感覚の重要性は、自社開発でも受託開発でも変わらないですよね。 

渡会:ええ。根本的な問題は、お客様と開発企業が「発注者と作業者」のように固定化された関係になってしまっていることにあります。

本来は、ビジネスのプロとつくるプロが協働して一つの価値を生み出すべきです。本気で思考し提案すれば、受託開発でもうまくいくと思いますよ。 

辞書から経典、そして実践書へ。PMBOKの変遷を辿る

森實氏:ここでPMBOKの歴史を振り返りたいのですが、第6版から第7版、そして第8版への変化をどう見ていますか? 

渡会:第6版は「辞書」、第7版は「経典」のような存在でした。第6版まではプロセスが詳細に定義されていて、「このプロセスに従っていれば成功する」という誤解を生みやすい、分厚い辞書でした。 

森實氏:プロセスを守ることが正義、というのは現場にとってはわかりやすかった面もありますよね。 

渡会:それに警鐘を鳴らしたのが第7版です。プロセスではなく原理原則や価値の創出に大きく舵を切った方針書であり、精神論に近い“経典”のようになりました。 

森實氏:第7版が出たとき、あまりの急激な変化に現場は戸惑ってしまいましたよね。私も当時、「まずは第6版のプロセスを理解してから第7版を読むと腑に落ちるよ」とアドバイスした記憶があります。 

渡会:ソフトウェア開発宣言の精神に戻るような大きな視点に行きすぎて、実務を担う現場の人たちが少し置いていかれてしまったのは事実ですね。 

森實氏:そこで登場したのが第8版です。第8版は何に例えられますか? 

渡会:第8版は、いわば“実践書”です。第7版で描かれた原理原則をちゃんとやっていくためのルールブックのようなもので、40のプロセス群に分けたモデルケースが載っています。 

これは「この40のプロセスを使うならば、自分たちのプロジェクトにあわせてテーラリングして使いなさい」という実践的なガイドラインになったと受け取ってもらうのがよいと思います。 

※プロジェクトの特性にあわせて手法やプロセスを最適化すること 

「真のテーラリング」は、プロセスの取捨選択ではない

森實氏:第8版でプロセスが復活したことで、「なんだ、やっぱりプロセスに従えばいいんじゃないか」と安心してしまう人もいそうですね。 

渡会:そこは誤解してほしくないですね。「プロセスに戻ったから安心だ」と盲従してはいけません。

スクラムガイドのとおりにやっても、自分たちの文化や目的にあわせてテーラリングしなければ効果的なスクラムが組めないのと同じです。 

森實氏:現場ではテーラリングのことを、プロセスの「いる・いらない」を選ぶことだと勘違いされがちです。

でも私はそういった取捨選択ではなく、用意されたプロセスを「自分たちなりにどう解釈し、どう使うかを言語化すること」こそが真のテーラリングだと考えています。 

渡会:まさにその通りです。わかりやすい例として、「トンカチ」というツールがありますよね。家を建てるときは「釘を打つ」ために、家を解体するときは「釘を抜く」ためにトンカチを使います。 

何のためにこのツールを使うのか、そしてどう使うか。それを自分たちでしっかり考えることがテーラリングです。

第8版で示された40のプロセスも、ただのトンカチと同じです。自分たちのプロジェクトの目的にあわせて、どう扱うかを考えてほしいですね。

ルールを守るのではなく、価値を創れ。新時代のプロジェクトマネジメント

渡会:プロジェクトの成功指標は何かといえば、第7版でも明記されている通り「価値を生み出すこと」です。

プロセスに従っていれば安心なのではなく、「このプロセスを使うことで、私たちは本当に価値を生み出しているか?」をつねに問いかけなければなりません。 

森實氏:ルールを守ることが目的化してはいけない、ということですね。「価値実現」という本質から目をそらしてはいけないと。 

先ほどのトンカチの例えでいえば、チームビルディングも同じですね。

「トンカチ担当」という固定の役割をつくるのではなく、いまは打つのが得意な人が使い、次は抜くのが得意な人が使う。1対1の固定された関係ではなく、必要なときに必要な人が臨機応変に関わっていく。 

渡会:ええ。ツールも役割も、自分たちで解釈して適材適所で使っていく。そういう流動的で目的志向のチームのあり方が、これからの時代には求められています。

森實氏:最後に、これからのプロジェクトマネジメントはどうあるべきだと思いますか? 

渡会:学んでいくというよりは、「価値実現から逆算していく視点」をもつことです。そして、冒頭でも触れましたが、ビジネス側(発注者)と開発側(受注者)が本気で協働すること。 

相手の要望をただ実現するのではなく、同じ目的に向かって「自分ごと」としてプロジェクトを推進する。そのためのガイドとして、PMBOK第8版のプロセスを利用してほしいですね。

外部の権威ある実践書として、組織や上司を説得するためにもうまく使うことで、真の価値創出に向かいやすくなるのではないかとも思います。 

森實氏:古いルールや主従関係に縛られず、ビジネス側と開発側が協働して価値を生み出す。今回の内容が、変化の激しい時代に立ち向かう皆様のプロジェクトマネジメントのヒントになれば嬉しいです。 

渡会:森實さん、本日はありがとうございました! 

イベント全編をご覧になりたい方はこちらから  

―――さまざまなテーマでイベントを開催中のSHIFT EVOLVE。次回以降もぜひお楽しみに。 

5,000名を超える登録者数!技術イベント SHIFT EVOLVEをチェック 

(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです) 

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世界標準が過去の正解を捨てた。PMBOK第8版の「自己否定と進化」から我々が学ぶべきこと https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/career/library/id1546/ Thu, 11 Jun 2026 00:00:00 +0000 https://recruit-wp-prod.shiftinc.biz/?post_type=library&p=56194

20263月4日、SHIFTが手がける技術イベント「SHIFT EVOLVE」において「チームプロジェクトマネジメントとPMBOK第8版(Agile in Motion vol.6)」と題したセッションを開催しました。  

品質にこだわってきたSHIFTならではの目線で、アジャイルに長年携わってきたゲストを招き、アジャイルの神髄に迫るという本シリーズ。今回は、AIアジャイル開発部 アジャイルエバンジェリスト  渡会 健が登壇したセッションをレポートします。 

プロジェクトマネジメントの体系的な知識をまとめた「PMBOK®ガイド」。その第8版の英語版が2025年11月にリリースされ、日本語版が2026年4月にリリースされました。 

PMBOK=ウォーターフォール開発専用の古くて重たい辞書というイメージは、もはや過去のもの。原理・原則に寄りすぎたともいえる第7版によって起きた“現場の大混乱”を経て、第8版は「理想と現実のベストミックス」へとたどり着きました。 

本記事では、PMBOKの歴史的な変遷と最新版の全貌に迫ります。変化の激しい時代において、我々自身が過去の常識にとらわれず、つねにアップデートしつづけるべきだというメッセージにつながる、熱量の高いセッションをお届けします。 

同日に行われた株式会社レッドジャーニー システムリデザイナー 森實 繁樹 氏単独のセッション、森實氏と渡会の対談セッションのイベントレポートも、ぜひご一読ください。 

関連コンテンツ

  • AIアジャイル開発部 アジャイルエバンジェリスト 渡会 健

    2025年、株式会社SHIFTに入社し、Customer Quality Agileを掲げて日々活動中。キャリア前半をPM畑で過ごした後、2008年に40代でアジャイルに出会ってからは、10年程受託開発で20件近くの実践を積み、その後コーチやコンサルとして50件以上の支援を行うなど、17年で70案件以上の多種多様な実践経験をつ。マネジメント(≠PM)の力を信じ、その経験を活かしながら、一般社団法人PMI日本支部アジャイル研究会代表、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)アジャイルWG構成員等を歴任し、マネジメント視点と現場視点の両軸からアジャイル領域に貢献。 PMI日本フォーラム2025 優秀講演第6位(52講演中)。

目次

ITプロジェクトに限らない。PMBOKが担う、本来の役割とは

「PMBOKはIT専用」と思われがちなのですが、これは大きな誤解です。 

そもそもPMBOKとは、全世界で約75万人の会員を擁するプロジェクトマネジメント専門の非営利団体であるPMIが、さまざまな産業のプロジェクトマネジメントに関するノウハウを取り入れて体系化した知識体系(Body of Knowledge)です。 

そのPMBOKが定義するプロジェクトとは、「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期的な業務」を指します。

つまり、明確な期間(有期性)があり、これまでにない新しいものをつくる(独自性)という条件を満たせば、すべてがプロジェクトに該当するのです。 

ITシステムの開発はもちろんのこと、新型ワクチンの開発、ジェット機の設計、さらには書籍の出版でさえもプロジェクトに含まれます。

実際に、私がPMPを取得した2005年頃には、PMI日本支部の会員の約3割を建築業界の人が占めていた時期もあったほどです。 PMBOKは決してIT専用の枠組みではありません。 

それにもかかわらず、なぜ今日において「IT業界のウォーターフォール開発専用のルールブック」という偏ったイメージが定着してしまったのでしょうか。その理由は、過去の歴史的背景にあります。

2001年に「アジャイルソフトウェア開発宣言」が出されたものの、2014年2月にPMBOK第5版が出版された当時も、世の中の大半のプロジェクトは依然としてウォーターフォール型で進行していました。 

PMBOKは実務の基盤であるため、当時の主流であったウォーターフォールを中心に記述せざるを得ませんでした。この第5版までのイメージが、いまでも多くの人の頭に強く残っているのです。 

しかし時代が変わりはじめて、PMBOK第6版でアジャイル(適応型)に関する記載と、さらに副読本のような扱いでアジャイル実務ガイドも別冊で出ました。

その後、第7版以降、現在は「アジャイルか、ウォーターフォール(予測型)か」という二元論は崩れ去っています。 

というのも、PMBOKは本来、特定のアプローチに縛られず、プロジェクトを成功に導くための方針やルール、ツールを提供する基盤だからです。

手法に囚われることなく、目の前のプロジェクトの特性にあわせて最適な開発アプローチを選択することこそが、本来のPMBOKが意図する正しいマネジメントのあり方なのです。 

「指示待ちを生む辞書」からの脱却と、第7版が生んだ現場とのギャップ

もう少し詳しく改訂の変遷を紐解いてみます。 

第6版までのPMBOKは、「5つのプロセス群」と「10の知識エリア」を掛けあわせた「49のプロセス」から成り立っていました。

インプット、ツールと技法、アウトプットが事細かに記された、辞書のような分厚い体系です。

この時代は、設計書やテスト仕様書といった成果物をいかにスケジュールや予算通りにつくるかが重視されていました。

実は当時から「プロジェクトに合わせてプロセスをテーラリングすること」は推奨されていましたが、あくまで考慮事項として控えめに書かれているにすぎませんでした。  

それが現場のエンジニアに「指示通りに49のプロセスを守っていればいい」という思考停止を生み出すことにもつながったんです。 

※プロジェクトの特性にあわせて手法やプロセスを最適化すること。

こうした限界を打破すべく、第7版ではプロジェクトマネジメントの歴史に残る大転換が図られました。最大のポイントは「成果物重視」から「価値(アウトカム)重視」へのパラダイムシフトです。

いわれたものをただつくるのではなく、「つくったシステムがユーザーに使われ、課題が解決してはじめて価値が生まれる」というプロジェクトの本質に立ち返ったのです。

具体的には、思考停止の要因となっていたプロセスを単に廃止したのではなく、頻繁に変わる具体的な手法やノウハウを「PMIstandards+」というWeb側に移行することで書籍の内容をスリム化し、揺るがない普遍的な「12の原則」のみを提示しました。 

あわせて単なる知識の集合体であった10の知識エリアも、行動原理にあわせて「8つのパフォーマンス領域」へ変わっています。  

これは、「マップ通りに動いていればよかった」これまでのやり方から脱却し、「用意された材料から自分たちで選び、プロジェクトにあわせて自律的にテーラリングしなさい」という、極めて理想的で素晴らしいメッセージだと私は捉えています。 

しかし、この理想的な大転換は、皮肉にも現場に大混乱をもたらしました。 

「自分で考えてテーラリングしてください」と自由を与えられた結果、これまで明確なレールに乗って進んできたPMたちが、「一体どうやってプロジェクトを進めればいいのか」と迷子になってしまったのです。 

抽象度が高くなりすぎたがゆえに、具体的な拠り所を失い、途方に暮れる現場が世界中で続出しました。

理想を追求するあまり、現場の実務との間に大きなギャップが生まれてしまったのです。 

理想と現実のベストミックス。第8版が示した「プロセス復活」の真意

現場の声を受け、いよいよ登場したのが第8版です。第8版は、第7版で生じた現場の混乱を救済しつつ、本質的なよさをさらに磨き上げた「理想と現実のベストミックス」といえます。 

時計の針を逆回しにして、第6版の辞書的なルールに戻したわけでは決してありません。

第7版が打ち立てた「価値重視」の哲学や、「自分たちでテーラリングする」という自律的なスタンスは、PMBOKの新たな核としてしっかりと引き継がれています。 

そして第7版で行動規範として掲げられた「12の原則」は、第8版において6つの原則へと整理・集約されました。

具体的には、「価値主導」「オーナーシップ」「能動的」といった分野ごとにわけられ、プロジェクトにおいてどのように振る舞うべきかという指針として再定義されています。 

さらに、現場への最大の救済措置として、「立ち上げ・計画・実行・監視コントロール・終結」という5つのプロセスが復活しました。重要なのは、これがウォーターフォール専用ではないという点です。 

例えば、スクラムに当てはめてみましょう。「立ち上げ」はスプリントゼロ、「計画」は毎週のスプリントプランニング、「実行」は日々の開発タスク、「監視コントロール」はデイリースクラム、そして「終結」はスプリントレビューやふりかえりに合致するのです。

プロセスを復活させつつも、あらゆる手法に適用できる柔軟性を確保しています。 

さらに、かつての10の知識エリアは時代にあわせて再整備され、新たな「7つのドメイン」として生まれ変わりました。

例えば、統合は「ガバナンス」へ、コストはプロジェクト単体の枠を超えて「ファイナンス」へと、より広義でビジネスの核心に迫る概念へとアップデートされています。 

プロセスも40個にスリム化され、インプット、ツールと技法、アウトプットの構成が復活しました。

しかし、それはかつてのような「これを絶対に行え」という命令ではなく、自律的なテーラリングを行うための「実用的なカタログ」として再構築されています。 

アジャイルか、ウォーターフォールか。二元論を脱却し、自分自身をアップデートせよ

第8版の全貌から明確に見えてくるのは、「アジャイルかウォーターフォールか」という不毛な二元論からの脱却です。 

どちらの手法が優れているかを議論する時代は終わりました。目の前のプロジェクトの特性やお客様のビジネス環境にあわせて、これらを自在に組みあわせる「ハイブリッド」の視点が不可欠です。 

これからのPMが本質的な価値を生み出すためには、モデル・方法・作成物というパーツを使い、最適なプロセスを柔軟に組み立てることが求められます。 

さらに第8版では、時代の変化を捉え、付録としてAIに関する言及が追加されています。

このようにつねに世の中の動向に敏感に反応しつづける姿から私たちが学ぶべきは、最新の機能やプロセスそのものではなく、PMBOKという世界標準が示した姿勢です。 

世界中のプロジェクトの動向や多様性に敏感に反応し、時には49のプロセスといった過去に打ち立てた体系を捨て去るなど、揺り戻しを経験しながらも、決して進化を止めることはありませんでした。 

世界標準でさえ、これほどのスピードと自己否定を伴う柔軟性をもって自己変革を遂げているのです。

我々エンジニアやPMも、過去の成功体験や資格取得時の古い知識にしがみついていてはいけません。 

「昔はこうだった」「この手法が一番だ」と固執することは、変化の激しい現代において致命的なリスクとなります。

PMBOKが絶えず進化しているように、我々自身もつねに知識とスキルをアップデートし、状況にあわせて自らを変化させつづける必要があります。 

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―――さまざまなテーマでイベントを開催中のSHIFT EVOLVE。次回以降もぜひお楽しみに。 

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(※本記事の内容および取材対象者の所属は、イベント開催当時のものです) 

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